第4話 湯けむりランニングマン
駐車場の広いスーパーへ到着すると、買い出しを始める。
「パックのごはんとか缶詰とか保存できるものをたくさん買っておけよ」
先輩は瑠美さんが書いたメモを見ながら色々とカゴに放り込んでいる。
「大丈夫ですよ、あの別荘は町営のバスも出てるんで」
「えっ、あんな狭い道にバスが通ってるのか?」
「別荘よりさらに上に集落があるらしくて、1日数本のバスの便があるんです」
「それなら少し安心だ、正直言って免許も車もないお前がどうやって暮らしていくのか心配だったんだよ」
「別荘を買うにあたり一通り調べましたから」
「そうか……そうだよな……それでもやっぱり心配だ、おまえ車の免許取った方がいいぞ」
「大丈夫ですよ、バスで駅まで行って電車を乗り継けば東京まで行けるんですから」
「相当な時間がかかりそうだな」
「まあそうですけど」
「それに病気とか心配だ、瑠美の書いたメモにも赤で印がつけてあるけど風邪薬とか保存食のお
「分かりました、じゃあ薬局にも寄ってください」
「了解!」
買い物を済ませた二人は日帰り温泉へとやってくる。
広い湯船で先輩は思い出したように鼻歌を歌いだした。
「フウ……フウ……ビッビッビッビッ……」
「先輩、もしかしてエグザイルですか?」
「ん……何……ああ今歌ってたやつか?」
「そうですよ、今日ずっと鼻歌で歌ってたやつですよ」
「そう、エグザイルだよ、俺ランニングマン踊れるぜ、やって見せようか?」
「全裸でのランニングマンは勘弁してください!」
「だよな、ハハハ」
「やっとスッキリしました、ずっと何を歌ってるのか分からなかったので」
「えっ、俺そんなに音痴か?」
「いや、あのう鼻歌なんで……」
「だよな、おれ露天風呂に行くけど」
「先輩どうぞ、僕はここでいいので」
「じゃあな」先輩は元気に露天風呂へと出て行った。
先輩とは大学のPC研究会からの付き合いだ。面倒見の良い仁先輩には随分可愛がられた。
二人で作った企業の経営診断プログラムが、IT関係のベンチャー企業に評価を受け、先輩はその会社へ入った。
僕も卒業すると、先輩に引っ張られるように同じ会社へ入った。
二人は会社の仕事でもパートナーのようになっている。
社交的な先輩は女性にも人気があり、よく飲み歩いている。しかし僕は会社と自宅往復だけの日々だ。
心配した先輩はコンパへ連れ出した、しかし何の成果も上がらなかった。
それどころか、ある女の子に「新さん暗い」そう指摘され撃沈する。
それ以来先輩が誘っても行くことは無くなった。
そんなある日、ネットの広告でこの別荘を知る。訳アリ物件で超格安だ。
理由は唯一の身内が、足の不自由で荷物が片付けられず、そのまま放置されていることだった。
購入者が自分で荷物を整理しなければならないのが、訳アリの理由だ。
掲載されている内部の写真ではそれほど荷物は多くなく、わりと片付いているように見えた。
販売価格は150万円、プログラマーだったので給料はそこそこ良かった、購入してもまだ貯えがそれなりに残りそうだ。
先輩と相談し契約社員として自宅で働くことにした。田舎で人付き合いも少なくのんびり働くことにしたのだ。
契約書を郵送してお金を振り込むと、鍵が封筒で送られてきた。あまりにも手抜きな感じだが、安いせいだろうと納得する事にした。
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