第3話 待っていた静寂
駐車場に戻ってまた車を走らせる。
「もうすぐ役場前という信号があるはずです」
「あった、これだ」
「そこを右に曲がってください」
交差点を曲がると役場らしい建物が見えてきた。駐車場へ車を止める。
「すみません、転入届を出してくるので少し待っててもらえますか?」
「いいよ……ついに東京都民じゃあ無くなるんだよなあ」
「そこは別に気にしてませんけど」
役場へ入るとのどかな空気が流れている感じがした。届を出して車へ戻って来る。
「これから山の上の方に30分ほど登るんですけど」
「分かった」
先輩はナビの地図を少し確認するとハンドルを回し車を走らせる。
やがて景色は緑が一段と濃くなり、民家が減ってきた。
忘れていた不安が少しずつ戻ってくる。
「もうすぐ左側に日帰り温泉があるはずです」
「あった、これだな、荷物を降ろしたら入りに来ようぜ」
「そうですね、買い出しもあるんで荷物を降ろしたら下りてきましょう」
「温泉か、楽しみだな」先輩は口角を片方だけ上げた。
山道を登っていくと道路は徐々に狭くなり、うっそうとした木々のトンネルだ。
車1台がやっと通れる細い道を10分ほど登って行く。
突然、急カーブになり景色がパッと開けた。
「このあたりに下る道があるはずなんですけど…………」
「きっとこれだな」先輩はハンドルをきって急な坂道をゆっくりと下った。
数件の別荘が建っている。その一番奥にある別荘の前へ車を止めた。
「どうやらこの家ですね」
鍵を出して玄関のドアを開けてみると「カチャ」音がしてドアが開いた。
「とりあえず中を見てみましょうか」
「そうだな……なんか怖いな……」
ドアを開けると少し広めの玄関だ。ドアの上にある電源を入れ電気のスイッチを入れると、夢から覚めるように明るくなった。
中へ入るとフローリングの洋室がある、角に3畳の畳が少し高くなっていた。別荘らしい雰囲気がする。
奥には一段上がって8畳の和室がある。右手にはガラス戸があり8畳ほどのキッチンだ。洋室から階段を下りると洗面所とお風呂がある。
傾斜地に建てられた別荘で、しっかりとした鉄骨土台の上に木造で作られた家は、1人暮らしには十分過ぎる広さだ。
室内は多少の生活感はあるものの、整理されていてだれか来るのを待っていたように感じられた。
「なかなかしっかりとした家じゃん、買い得だったかもな」
「写真では見てたんですけど、思ったよりいい家でした。前の持ち主の荷物もそれほど多くないので、苦労しなくて済みそうです」
「早速積んできたお前の荷物を降ろそうぜ」
「はい」
二人でフローリングの部屋へ荷物を運んだ。1時間もかからず運び終わる。
小さめの洗濯機や乾燥機を下の階へ運び、すべて終了した。
「車に積み込むときも思ったけど、お前の荷物は少ないな」
「まあワンルームの1人暮らしですからね。早速っ買い出しに行きませんか?」
「そうだな、あっ、温泉に行かなきゃ」
二人はワゴン車に乗り込み山道を下った。
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