第46話 加隈図屏風⑧

「…………」

「…………」


 怖い。ただただ沈黙が怖かった。

 この状況で何を話せばいいのか分からない。だけど何も話さないのも気まずいから、何か話題をって思ってはいるけど、何を話せばいいのか分からなくて結局沈黙。


「ねぇ」

「は……はい」

「何も思わない訳じゃないわよ」

「う……」

「けど、これからのデートの間だけは、忘れてあげる」

「え……?」

「だから、西宮くんは存分に私をエスコートしなさい」

「て、天王洲さん……!」


 やっぱり天王洲さんは女神だった。落ち込んでいる俺を気にかけてくれて、本当に優しい人だ。

 まだ天王洲さんを遠くから見ていた頃。あの頃の俺じゃ知る事のできない彼女の一面。普段は異性に対して辛辣だけど、本当はすっごく優しいんだ。


「じゃ、じゃあ早速行きましょうか……!」

「えぇ、連れていってちょうだい」

「ひぇ……!?」


 連れていってちょうだいと、そう言った天王洲さんはすかさず俺の手を握ってきた。反射的に俺はその手を払ってしまった。


「ちょっ、なんで嫌がるの?」

「いや、嫌がってるわけじゃなくて……ビックリしたので反射的にって感じで……いきなり手、繋ぐんですね……」

「デートは手を繋ぐものでしょ?」

「天王洲さん、デートの経験あるんですか?」

「無いわよ。けど、ドラマや映画とかでもデートをする男女は大体繋いでるわよ」

「な、なるほど……」


 本当なら俺の方からかっこよく繋ぎたかったけど、初めてのデートでいきなり手を繋ぐのは如何なものだろう? って気持ちもある。もっとこう、段階を踏んでからみたいな。


「じゃあ……失礼します……」


 そう言って改めて天王洲さんの手を握る。手先がほんのり冷たくて、けど質感はとてもスベスベしていて、クセになりそうな柔らかさだった。


「なんか、緊張しますね」

「そう、ね」

「…………」

「…………」


 お互いに無言の時間が続く。


「デートって、すごく楽しいですね」

「まだ手ぇ繋いだだけじゃない」

「いや、だって天王洲さんと繋げてるんですよ? こんな姿学校の男子に見られたら殺されますって」

「大袈裟よ」

「いや、わりかしマジで言ってます」

「そろそろ行くわよ。口だけじゃなくて足も動かして」

「あ、はい」


 天王洲さんに手を引かれながら、人混みの中を歩いていく。この空間には他にたくさんの人がいるのに、俺と天王洲さんだけの、二人だけの空間が広がっているようだった。



 ————————————————————




《令和コソコソ噂話》


 第46話読了してくださりありがとうございました!

 今回で加隈図屏風編は終わりになります!

 次回からは、「甘いぞ濡れ屋敷編」になります!


 今後の励みにもなっていますので、お気に入り登録、感想と★評価やレビューをよろしくお願いします……!


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