第42話 加隈図屏風④

「あれ? 天王洲さんじゃないですか〜!」

「え?」

「え……?」


 そいつは、小日向はいつの間にか俺の後ろにいて、そんでもって天王洲さんに話しかけていた。一番近づけちゃいけない人を近づかせてしまった。

 天王洲さんを狙う宣言をした小日向。俺の大敵だ。けど、天王洲さんのプロフィールを今一度復習しておこう。


 天王洲てんのうず愛瑠あいる。高校二年生で黒髪ロングで艶やかなキューティクルを靡かせて歩く姿は一枚の絵画のような人。あとノーパンの人。

 血液型はA型で誕生日は8月25日。容姿端麗、スポーツ万能、成績優秀の三拍子揃った美少女。趣味はノーパン。

 天王洲財閥の御令嬢で、趣味は読書で好きな食べ物はなんと餡子。前にも言ったけどブリオッシュみたいな洋菓子が好きそうだから意外だった。ちなみにおっぱいもでかい。推定Dカップ。

 嫌いな食べ物は納豆で好きな色は青色、好きな教科は数学、嫌いな教科は歴史。好きな犬種はポメラニアン。お尻は小振り、でもホクロがあるのがエロい。

 女子には優しくて男子には異様に厳しい。笑顔が超可愛い。だけど男子には異様に厳しい反面、俺とは交流を持ってくれる。けどノーパンが趣味。デートにノーパンで来るくらいノーパンが趣味。


 そう、天王洲さんは男子には異様に厳しいのだ。自分の事をロクに知りもせず告白をされまくってから、男子って存在には異様に厳しくて、俺以外の男子と親密に話している所なんか見た事無いくらいだ。


「小日向さん。お久しぶりですね」

「堅いっすよ天王洲さ〜ん! オレの方が歳下なんで、敬語使わなくていいっていつも言ってるじゃないですか〜」

「そうだったかしら? それで、小日向くんと西宮くんがどうして一緒に居るのかしら?」


 恐らくだけど、多分だけど、いや、絶対的な自信があった。天王洲さんと小日向に共通点なんて無いし、面識も無いと思っていた。それでも、天王洲さんは小日向を知っていて、面識もあるようなやり取りをしていた事に心底驚いてしまった。


「て、天王洲さん、小日向と知り合いなんですか……?」

「えぇ、一応はね」

「そう、ですか……」

「家族ぐるみの付き合いっスよね〜、天王洲さん!」


 天王洲さんはそれ以上何も語らない。けど、語らずともその衝撃だけでも、俺のメンタルを崩すには充分だった。

 いつの間にか過信していた。天王洲さんと親密に関われているのは俺だけだと。俺だけが唯一、天王洲愛瑠に寄り添える人物だと。けれど、それは盛大な間違いだった。


 井の中の俺、大海を知らずとは言ったものか。


「西宮くん、明日楽しみにしているわね」

「え……? あ、はい……」

「え、ちょっと明日2人でどっか行くの? それ、オレも行っていいやつ?」

「悪いけど、外野は黙っててくれるからしら。私は今、西宮くんと話しているの」

「相変わらず言い方酷いっスねぇ〜」

「そうね。これが私なのよ」

「まぁ、その上から目線の態度を屈服させられたら、さぞかし眺めは良さそうだけどね〜」

「何が言いたいのかしら?」

「さぁね。今はまだその時じゃ無いんでね。んじゃまたね、天王洲さん!」


 そう言って、小日向は俺達2人から離れていく。おやおやおや? 今の二人の会話、やり取りからして、あんまり仲が良さげな感じではないのか? ちょっとして、知り合いではあるけど、関係性に関しては小日向より俺の方が優位ですか?


「天王洲さん、小日向の事嫌いなんですか?」

「いちいち癇に触るのよ、彼」

「俺と小日向、どっちが好きですか?」

「え?」

「答えてください!」

「そんなの、言わなくても決まってるじゃない」

「言ってくれないと分からないですよ」


 そう言いながら俺は、天王洲さんの両肩を掴んで迫っていた。話を聞く限りでは俺が優位だと思っている。でも、それを直接天王洲さんの口から聞きたかった。俺の方が奴より上だって、知らしめて欲しかった。


「ちょ……人が見ているから……」

「それを聞くまで、離しません」

「わ、分かったわ。言うから……言うから離しなさい」

「分かりました」


 離した瞬間、天王洲さんは俺の腕を掴んで歩き始める。急に手を引かれたので多少驚きながらも、ただ黙々と天王洲さんに導かれるままに歩いていた。そして、しばらく歩いてから駅の大通りを避けた、路地裏に辿り着いた。


「西宮くん。いくら私にアプローチをしてきなさいって言っても、時と場所は考えてちょうだい」

「す、すみません……」

「あんな強引なやり方は……あまり好ましくは無いわ」

「…………」

「それに、何を隠しているの? とても焦っているように見えたわ」

「いや、……それはその……」

「はぁ……私は少なからず、彼よりは西宮くんの方が好意的よ」

「じゃあ、好きって事ですか?」

「好きとはまではいかないわよ」

「え?」

「な、何よ……?」

「俺の事、好きじゃ無いんですか……?」

「だから好意的と言ってるじゃない」

「それって好きって事ですよね?」

「違うわ、好意的よ」

「えぇ……」

「前にも言ったけれど、そういった言葉は特別であるべきなのよ。そう簡単に言ったりはしたくないの……」

「その言葉を聞くと、もう言ってるようなもんにも聞こえるんですけど。なら、もういっそ言ってしまっていいんじゃないですか?」

「ち、違うわよ! き、嫌いよ……! 西宮くんなんて嫌いよ」

「えぇ!? えぇ!?」


 なんという手のひら返し。先ほどまで好きって言われてるようなもんだったが、もう既に嫌われてしまった。何この現実、理不尽過ぎるでしょ。


「嫌いだから、明日のデートで少しでも気持ちが傾くように、努力しなさい」

「え?」

「すごく……いぇ、それなりに? いえ……多少は……楽しみにしている……から」


 頬を染めながら、久しぶりに見た照れた天王洲さん。可愛い。すんげぇ可愛いんだけど。やっぱり俺は天王洲さんが一番だ。


 天王洲愛瑠は、最強で最高に可愛い人だ。



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《令和コソコソ噂話》


 第42話読了してくださりありがとうございました!


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