第43話 加隈図屏風⑤



 天王洲愛瑠は可愛い。完全無欠の超絶美少女な事は再確認できた。明日のデートで、何がなんでも天王洲さんの望むアプローチをしなきゃいけない任務が発生してしまった。今まであまり良いアプローチはできていなかったので、今回はちゃんとしたアプローチをしなきゃいけない。


「とりあえず、ビラ配り戻らないとな」


 早くこのビラを配り終えて、明日の作戦を練らないといけない。悠長なこんな事をしている場合でもないし、何がなんでも天王洲愛瑠最優先だ。

 そう思いながら駅前に戻ると、人集りができているのに気がついた。


「ふざけんなよあんた! そこまでする必要ねーだろうが!」

「うるせーガキ! 警察呼ぶぞコノヤロー!」


 聞こえた怒鳴り声は知らない男と、小日向の声だった。人集りをなんとか掻き分けて問題の渦中に行くと、そこには知らないおじさんと小日向が睨み合って、その小日向を瑞樹が必死に押さえていた。


「すみません。結衣、もういいから」

「いいわけねーだろ」

「これだから今時のガキは」


 瑞樹の必死の説得で、知らないおじさんは去っていく。一体何があったと言うのだろうか? 今まで小日向がこんなに激情に駆られている姿なんて見たことない。


「ちょっと瑞樹、小日向もどうした? 何があった?」

「あ? アイツが瑞樹の作ったチラシ破り捨てたんだよ。黙っていられるかよ」

「チラシを破った?」

「別にいいよそんな事。勝手に配ってるのは確かにこっちだから」

「だからってそこまでする必要ねーだろ。ただ素通りすりゃいいじゃねーかよ」

「いいから落ち着いて、結衣」


 小日向の怒りもそうだが、瑞樹がこんなに焦っているのも初めて見たかもしれない。けど、小日向の気持ちが分からないわけでもない。二百枚くらいあったチラシ、それを瑞樹は手作りで作成していたのを俺らは知っている。

 そうまでして瑞樹が救いたいおじいちゃんの喫茶店。その努力を知ってるからこそ、その努力の結晶を無慈悲に破り捨てられるのは耐えられない気持ちも分かってしまう。


「こんな事許されるわけ——」


 そして響いたのは渇いた音だった。


「だから、落ち着けって言ってんの」

「瑞樹……」

「初めっから上手くいくわけないじゃん。こんなんでいちいち怒ってられない」

「悔しくないのかよ? 腹立たないのかよ?」

「悔しいよ。腹も立つよ。ムカつく。けど、仕方ないでしょ」

「仕方なくねーだろ……」

「中也、ごめん。今日はもう帰っていいよ。結衣の事は僕がなんとかしておくから」

「え……? あ、うん」

「結衣は優しいから。こうやって僕を守ってくれるんだ。けど、それは僕の責任でもあるからね」


 そう言って瑞樹は俺からチラシを預かってから、じゃあねと一言だけ言ってきた。その姿を俺は追わなかった。追う気にもなれなかった。そこには俺が、部外者が立ち入れないような分厚い壁を感じた。




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《令和コソコソ噂話》


 第43話読了してくださりありがとうございました!

 諸事情により少し更新を止めていましたが、これからは少しずつ更新していく予定です!

 お待たせしました……!(待っている人が居たかは知らん)


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