第41話 加隈図屏風③



《天王洲さん、オレが貰おうかなって話》


 思い出すだけでもゾッとするそのセリフ。そのセリフを発言したのは、俺の数歩前を歩く小日向結衣。身長は170位で髪は短髪で茶髪に染めているっぽい。口調からして若干のチャラさ? みたいなのが垣間見えて、瑞樹とは幼馴染らしい。それ以上の情報はこれといってない。

 話しかければいいのは分かっているが、俺にとっては敵であると認識した小日向と何をどう話せばいいのかが分からない。


「中也、何ボーッとしてるの?」

「え? いや……ちょっと考え事」

「悩みがあるなら聞くよ。何もしないけど」

「何もしてくれないのかよ……」

「瑞樹は白状だかんな。幼馴染のオレに対してだって冷てぇし、けど自分が用ある時だけ呼ぶんだぜ? ほんと良い性格してるよなコイツ」

「中也、重いからこれ持って」

「えぇ……」

「シカトはねーだろ……」


 瑞樹は相変わらず瑞樹で、そこに関しては多少なり小日向には同情しちゃうかもしれないな。今は俺も瑞樹に振り回されてるけど、きっと小日向も同じように瑞樹に振り回されてる来たんだろう。だけど、同情はしても天王洲さんはやらん。天王洲さんとイチャラブして付き合うのは俺の方なんだから。けど、単純な外見だけで見れば圧倒的には負けてはいるんだけどね。


「なぁ、アンタ瑞樹のどこに惚れたんだ?」

「別に惚れてない。付き合ってもないし、好きでもない」

「付き合っても無いし好きでも無いのにキスして下着も見せ合ったの? あんたら頭大丈夫か?」

「瑞樹の言葉が足らないだけだから! 色々端折られてるから!」

「オレの幼馴染がとんだ変態と付き合ってたなんてな。まさか洗脳されて瑞樹も変態に?」

「人の話を聞けよ!」


 めんどくささでは瑞樹と良い勝負かも知れない。天王洲さんを狙ってるって事でもう既にイメージが良くないから、些細な事でもそう思ってしまう。

 そう身構えていると、いつの間にか駅前には到着していて、瑞樹がテキトーにさあそことあそこでそれぞれ配って来てと雑に指示して、俺と小日向二人にチラシを渡してきた。


「これ、なんて言って渡せばいいの……?」

「お願いしますでいいんじゃない」

「それでいいんだ。他になんかセリフとかあった方が良くない?」

「中也が言えるならそれでもいいけど」

「ってか、こーゆーチラシとかってオレらみたいな男じゃなくて女の方が良くねー?」

「結衣は美形だから問題無いよ。中也は頑張って」

「え? サラッとなんか傷つけられてない? 自覚はしてるけど、とてつもなく傷つけたよね今!?」

「瑞樹こーゆー所あるから、まぁ長い目で見てやってくれよ。旦那!」

「別に俺と瑞樹は結婚してねーから!」


 ボケの応酬にツッコミが追いつかないのなんの。俺一人だけ息を切らしているのに、二人はお構いなしに、マイペースにチラシを配りに行った。そして取り残された俺は、一人渋々と駅のロータリー付近まで行き、チラシの束を持ったまま立ち尽くした。


「はぁ……」


 よく、駅前でティッシュとかチラシ配ってる人とかいるけど、その人達のメンタルってどんなだろうな。いざ、その場所に立つと身体が動かない。ただ腕に抱かれたチラシを声を出して配るだけ。字面から見たら簡単かもしれないが、実際に行動に起こそうとすると、中々に難しいものだ。


「よ、よろしく……」


 お願いしますまで言葉が紡げない。だからなのか、それともただ見えていたとしてもなのかは分からないが、1枚目のチラシ配りは残念ながら受け取っては貰えなかった。


「新しくオープンした喫茶店でーす! よろしくお願いしまーす!」


 小日向は遠くで、でも俺にも聞こえるくらいの声量でお店の宣伝をしながらチラシを配っていた。しばらく見ていたが、受け取って貰えない時もあれば、しっかりと受け取って貰えてる時もあった。


「よ、よろしくお願い……しまーす」


 先ほどよりは声を大きく出して、チラシを配った。中年のサラリーマン風の男性に、見事に受け取って貰えなかった。

 自分も普段チラシとかは受け取らないタイプだけど、受け取られないってこんなに精神にくるんですね……


「何をしてるの? 西宮くん」

「え?」


 後ろから声をかけられた。その声は聞き間違えるはずもなく、振り返るとそこには美女がいた。制服であろう事から、おそらく学校帰りだろう。天王洲愛瑠がそこには立っていた。


「えっと、チラシ配ってます」

「なんのチラシなの?」

「知り合いの喫茶店のお店です」

「西宮くん、アルバイトでもしてるの?」

「いや、してないです今は。これからはしますけど」

「そう。大変だろうけど、頑張ってね。1枚貰えるかしら?」

「は、はい……!」

「あれ? 天王洲さんじゃないですか〜!」

「え?」

「え……?」


 そいつは、小日向はいつの間にか俺の後ろにいて、そんでもって天王洲さんに話しかけていた。一番近づけちゃいけない人を近づかせてしまった。





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《令和コソコソ噂話》


 お久しぶりの更新です……!

 第41話読了してくださりありがとうございました!


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