第39話 加隈図屏風①
「いや、なんで……?」
「心配しないで。面接とかはしないで採用だから」
「俺別に、バイトとかしようと思ってないけど……?」
「でも、中也には働いて貰うから」
何もかも無茶苦茶だ。この加隈瑞樹って女の子、本当にやる事なす事めちゃくちゃ過ぎる。筋が通らないめちゃくちゃ加減なら、多分三人の中で一番だろう。
別に欲しい物があるわけじゃない。親から貰える生活費だけで充分生活できるから、自分の時間を労働に変える気はさらさらなかったんだよね。本当に、今この瞬間までね。
「瑞樹、ちゃんと理由を説明して欲しいんだけど……?」
「手伝って欲しいんだ。この喫茶店にお客さんが入るようにさ」
「え?」
「中也も知ってるだろうけど、ここのお店全然お客さんいないでしょ?」
「う、うん」
「だから、お客さんが入るようにする為に、何か解決策を考えて欲しいんだ」
「なるほどね」
ここの喫茶店にお客さんが入るようにして欲しい。シンプルな理由だった。けど、俺に経営の云々みたい事は分からないし、どうしたら集客を望めるかなんて皆目、検討もつかない。
「けど、俺に出来る事ってあんま無いと思うんだけど……」
「うん、知ってるよ」
「え?」
「だからこれを一緒に配って欲しいんだ」
「これ?」
瑞樹が俺に渡してきたのは一枚の紙だった。そこにはお店の名前や住所、営業時間やオススメのメニューなどが、シンプルに書かれていた。要は、店の宣伝をするビラだった。
そして、さらに紙袋が机の上に二つ置かれて、その中にも同様のビラがたくさん入っていた。
「200枚はあるから、お互いに100枚ずつね」
「200枚も!?」
「うん。たくさん受け取ってもらえたら、その分たくさん作るよ」
「瑞樹……」
人の為に何かをする事は別に問題はない。それ自身、本人のボランティアみたいな所もあるし、それは自己決定で決めるもんだから。でも、例え人の為でも、家族の為でも、店を宣伝する為にギッシリ書かれたビラを、200枚も手書きで書くなんて、俺には到底信じられなかった。
それこそ、彼女の本気が、瑞樹の切なる願いが垣間見れた気がした。おじいちゃんの折角叶った夢を、もっと華やかにしてあげたいって孫の優しさなのかもしれない。
本心は分からない。瑞樹は何を考えているか分かるような相手じゃないし。でも、そうであると思った。事、今回の件に関してはそうだと感じた。
「分かった、協力するよ」
「中也って、案外チョロいよね」
「今すぐ帰るから! 絶対手伝わないからな!」
「ごめんごめん、冗談だよ。そう言ってくれ嬉しいよ」
瑞樹が微笑んだ。あまり笑みを見せない瑞樹のこの表情は新鮮だった。勢いとノリで決断してしまった辺り、チョロいと言われても何も反論できないのが悔しい。天王洲さんの件も、リタの件も似たようなもんだったし。
「中也にご褒美あげないとね」
「へ?」
そして触れた柔らかさ。つい最近、同じ感覚を味わったけど、感触は違った。リタよりも若干硬めの印象。それでも、刺激は抜群な行為だった。
瑞樹が俺にKissをしてきたのだ。
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《令和コソコソ噂話》
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