第38話 エロ名所三人美女⑩



 今日は生徒会の仕事も無いから、放課後はこのまま直帰の予定だった。


「遅いよ。中也」

「え……? あ……」


 そう言えば昨日、瑞樹と一緒に帰るのを断ったから、代わりに今日一緒に帰る予定だったんだ。正門で腕を組みながら待っていた彼女は、出会い頭に俺に不満をぶつけてきた。


「いや、俺6限終わったらすぐ出てきたから、遅いも何も無いんだけど……瑞樹の方こそ、なんでこんな早くここにいんの?」

「僕は6限はサボったからね。別に1回授業をすっぽかした所で問題無いからね」

「いや、モラルの話的にはアウトなんじゃ……?」

「中也はいちいち細かいんだよ。ほら、行くよ」

「あ、うん」


 そのまま瑞樹に手を繋がれて歩き始めた。恋人同士が恥ずかしがりながらも、お互いの温もりを感じたいと思うような感情で繋がれたのではなく、ただ親が子を引っ張ってくような、そんな感じで初々しさのカケラも存在していなかった。


 そして、やはり気になるのは周りの生徒の視線だった。昨日はリタと帰って注目を浴びて、今日は他校の美少女と一緒に下校。こんな冴えないモブ男が、なんで二日連続で美少女と一緒に歩いてんの? とか思われてそう……


「何怯えてんの、中也」

「いや、周りの視線がね……」

「どうして?」

「ほら、瑞樹って側から見たら美少女だし、昨日も同じくらい美少女と一緒に下校したからさ」

「昨日の先約は、僕とは違う他の女の子と一緒に帰ってたんだ。それを言っちゃう辺りデリカシーが無いと思うけどね」

「えぇ……」

「でも、だからって怯える必要ないと思うけど」

「年頃の男子高校生にとって、よくわからん奴に彼女とか彼女らしき人物とか、身近に女子がいるってだけで妬みや嫉妬の対象になっちゃうんだよ。変な目で見られて、有りもしない噂流されて、校内で居場所失っちゃうの」

「くだらない感情だね」 

「男と女は根本的に違うし。でも、女の方がそーゆー系統は酷いって聞くけど」

「知らないし、興味も無いから分からないかな」

「そうですか」


 そう言いながらも、この手は話してくれないんですね。あぁ、天王洲さんともこんな長く手を繋いだ事も無いのに、こうしてどんどん俺の初めてが奪われたり上書きされてりしていく。


「ってか、これどこ向かってんの?」

「僕の家だよ。中也にしてもらい事あるから」

「また試食的な?」

「今日は違うよ。試食じゃなくて試着」

「試着?」


 はて、俺は何を着せられるのだろうか? 俺と瑞樹の体格差はあるし、何かの参考ってわけでも無さそうだし。


「なんの試着?」

「着けば分かるよ」

「着くまでは教えてくれないのか……」 

「言わない理由も無いけど、言うほどの事でもないし」

「そーですか」


 まぁ、別に大した事でも無いだろうし、別にいいか。そんな気持ちで俺は瑞樹と一緒に瑞樹の家、喫茶店に向かうのだった。

 あれ、相変わらず手は離してくれないんですね。





 ▼





「これ着て」

「何、これ?」

「服だけど。いいから着て」

「分かったよ。んで、どこで着ればいいの?」

「別にここでいいよ」

「瑞樹いるじゃん」

「いるから、何?」


 何? じゃなくてね、普通に上着とか脱がないといけないっぽいし、上半身裸になるし、パンツにもならなきゃいけないんだよ? 


「気にするじゃんか」

「別に僕は気にしないよ」

「俺が気にするんだよ!」


 自分の下着姿を異性に見られて何も感じない人が、異性の下着姿なんか見て何も思わないのは分かりきってるんだよ。だから俺の方が気にするんだよ。


「中也はわがままだね」

「いや、呆れられても俺、悪くないと思うんだけど……」

「じゃあ後ろ向いてるから、着替え終わったら言って」

「違う部屋に行くとか無いんだね」

「めんどくさいし」


 めんどくさいの一言で一蹴されてしまったので、渋々ではあるが、瑞樹と一緒にいる空間での生着替え。まったくいやらしさは皆無だし、別にドキドキしなくてもいいのに、なんかむず痒いよね、これ。


「着たよ」

「うん、ピッタリだね。よく似合ってるよ」

「これ、ここのお店の作業着的なやつ?」

「そ、バイトしてもらうからさ」 

「へぇ、新しくバイトの子雇うんだ」

「うん」

「体格が俺に似てるって事か? ってか、それ本人に試着してもらった方が早くね?」

「何言ってんの、中也」

「え?」

「バイトするの、中也だよ?」


 何故だか知りませんが、俺の知らない内にここでバイトする事が決まってるんですが……?



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《令和コソコソ噂話》


 第38話読了してくださりありがとうございました! これにてエロ名所三人美女編は終わりになります! 次回から加隈図屏風編になります!


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