第37話 エロ名所三人美女⑨



 リタの猛攻が地味に響いてくる。自室に一人で居てもリタがチラついてしまう。それもそうだ。だって俺の初めてを奪ったんだし、そんな事が起こったら誰だって頭から簡単に消せないし、思い浮かべちゃうんだよね。


「やばいな、リタ……」


 ここままだと本当にリタに気持ちを奪われかねないので、早急に対応が必要だった。ここは一方的にリタとの接触を断つか。いや、一緒に暮らしてる訳だし、関わらないで暮らすってのが無理な話なんだよな。それに、リタに俺を口説けって言った手前、もう俺を口説くななんて都合の良い事は言えないわけで。


「俺が耐えるしか……ないよな」


 そんな一人憂いている時に、俺のスマホの着信音が鳴り響く。ディスプレイには天王洲さんの名前が表示されていて、そこで夜に電話をする約束をしていた事を思い出して、慌てて通話ボタンを押した。


「も、もしもし……! 俺です」

『いつまで経っても電話がかかってこないから、私からしちゃったじゃない』

「す、すみません……」

『はぁ、いいわ。こうして繋がったんだし、予定を決めちゃいましょ』

「分かりました。待ち合わせ時間はどうしますか?」

『映画が2時からだから、1時に駅前に待ち合わせでどうかしら?』

「了解しました」

『よろしく頼むわね』 

「はい。また明日」 

『え?』

「え?」


 予定を決め終わったから通話を切ろうとしたけど、天王洲さんが疑問を抱いていた。そもそもその体での話だったよね? 他に決めるような事ってあったっけ?


『本当に予定を決めるだけの通話なの?』

「違うんですか?」

『通話をしましょうって誘ってきたのは西宮くんじゃない』

「えっと、他に話す事とかあります?」

『はぁ……期待した私が間違っていたのね』  


 あきらかに落胆したような声音で盛大な溜息をつかれた。またしてもやらかしてしまったらしい。過ぎた事はどうしようもないけど、だからこそその次の対応が重要になってくる。


「…………」


 だけど、何も言葉が紡げなかった。いろいろと焦って、思考がグチャグチャになって、何をどうしたらいいか分からなくなっていた。

 迫り来るリタの脅威。それに度重なる天王洲さんへの無礼、今だってこうして天王洲さんからの評価が下がってしまった。


『西宮くんの部屋って窓はあるかしら?』

「ま、窓ですか? 一応、ありますけど」

『窓から空を眺めてみなさい』

「空ですか?」


 言われた通り、ベッドに上がって窓の近くまでいき、空を眺めた。ただの星空。星が輝いていて、そして一際輝く月が見えた。どうやら今日は満月らしい。


『月が綺麗よ』

「え?」


 その言葉は、シンプルに月が綺麗だって意味だ。だけど、その言葉の中にはあなたよ事が好きだと遠回しに告げている告白のセリフでもある。確かなんかの本でそんなロマンチックな言い回し的な感じで見たから覚えていた。


「それはどっちの意味ですか?」

『え?』

「月が綺麗ですねって、あなたの事が好きですって遠回しの告白にも使われるんですよ」

『そ、そんな意味なわけないじゃない!? 本当に月が綺麗だからそう言ったのよ!』

「あ、そうですか。デスヨネー」


 天王洲さんが俺に遠回しの告白をしていると思っていたが、そんな事は全然無くって、文字通りの意味でしかなかった。


『そういう知識だけはあるのね』

「トゲのある言葉やめてください……」

『むしろ、私が言うんじゃなくて西宮くんが言う立場なんじゃないかしら?』

「月が綺麗ですね」

『ただ言えばいいってものでもないでしょう……?』


 ヤバい。女心分かんねー。何が正解なのか分かんねー。天王洲心分かんねー。


「なんか俺、ダメダメですね……天王洲さんを完璧に口説けてないですし……」

『どうしたのよ、急に』

「いや、いろいろ重なって、そう思っただけです」

『ダメだと思うなら、そこを直せばいいだけよ』

「そ、そうなんですけどね……」

『西宮くんは、いろいろ考え過ぎる所があると思うわ』

「考え過ぎる事?」

『ネガティブな発想とかどうしてもしちゃうのはしょうがないけれど、そんな事を言い出したらキリがないわ。何もできなくなってしまうだけよ』

「でも……」

『後先考えずに私を口説こうなんて言ってきたあの頃の西宮くんはどこに行ったのかしら』

「…………」

『私はね、何も完璧を求めてる訳じゃないわ。私が興味を抱いた相手は、そんな完璧な西宮くんじゃなくて、失礼でも無礼でも、変態でも気持ちが真っ直ぐ伝わってくる西宮くんよ。それだけは忘れないでちょうだい』

「天王洲さん……」

『最後に、西宮くんにこれだけは伝えておくわ』

「はい?」

『窓の外、空を見て欲しいの』

「はい」


 また、空を見ろとの事だった。相変わらずの綺麗な星空と満月。別に外に天王洲さんがサプライズでいるわけでもない。けど、同じ空を天王洲さんも見ているのかと思うと、少しだけ笑えたような気がした。


『月が綺麗ね』

「そうですね。綺麗です」


 それで天王洲さんとの通話が終わった。最後に言った月が綺麗は、果たしてどっちの意味だったのだろうか。いや、ただ単に言葉通りの意味なのだろう。




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《令和コソコソ噂話》


 第37話読了してくださりありがとうございました! 


 体調崩していて、中々更新出来なくてすみませんでした……

 少しずつ戻ってきているので、なるべく間隔は開けずに投稿していきたいと思いますので、今後ともよろしくお願いします……!


 引き続きたくさんのお気に入り登録、★評価もありがとうございます! 過去作品を超えた評価、とても嬉しいです!


 今後の励みにもなっていますので、お気に入り登録、感想と★評価やレビューをよろしくお願いします……!


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