第28話 崩壊道五十三次⑦



「付き合うって、どこに行くんですか?」

「だから敬語は要らないって。中也は人の話を聞けない人なんだね」

「ど、どこ行くの?」

「僕の家だよ。中也も何回か来てるでしょ? 例の喫茶店。店の奥が僕の家なんだよ」

「併設されてる感じか」

「それで、新しいメニューを出すから、それの味見をして欲しいんだ。僕一人だと主観になっちゃうから、客観的な意見が欲しいんだよ」

「なるほど。それってケーキ?」

「うん。紅茶のシフォンケーキだよ」

「それなら役に立てそうだな」

「中也、甘いの好きだよね」

「甘党だからね」


 昔から甘い物は好きだ。母親の影響で小さい頃からケーキは食べてたし、母親の作るショートケーキが大好きだった。未だかつてあの味を超えたケーキは無いにしても、喫茶店とかファミレスとかでショートケーキがあるとついつい食べてしまう。

 瑞樹の所のショートケーキを普通にめちゃくちゃ美味しいけど、母親の味には勝てない。


「そういえば、瑞樹はどこの高校通ってるの?」

天山てんざんだよ」

「頭良いんですね」

「別に良くないよ。普通なだけだよ」

「なんか俺の周りの人って、なんでこんなスペック高いんだろうな」

「何の話?」

「いや、こっちの話」

「ふーん。変なの」


 変なのと言われた。初対面での行動を考慮したら、多分俺よりよっぽど瑞樹の方が変だろうけど。


「お店に着いたらどうするの? 多分今まだ営業中だよね?」

「そのまま店の奥に案内するよ。ま、あまりお客さんいないと思うからそこまで気にしなくてもいいけど」

「そうなんだ」

「うん。だから連日来てた中也が不思議だったんだ。なんでそんなに来たの?」

「雰囲気が好きだったのと、デザートが美味しいってのと、帰り道の途中って所かな」

「ふーん。変なの」


 また変なのと言われてしまった。俺よりよっぽど変人だからね瑞樹の方が。とりあえずお店に到着して、案の定お客さんが居なかった。そのままお店の奥に通された。


「確かに中が繋がってたね」

「カバンとかテキトーに置いてよ。それでできるまでテキトーにしててよ」

「う、うん……」


 テキトーにしててって言われても、ここ他人の家だし、ほぼ初対面だから気兼ねなくってのが無理な話なんだよな。

 とりあえずはリビングらしき所のイスに座って、瑞樹がエプロンをし始めて作業を始めた。会話が一切無く、ただ淡々と瑞樹がケーキを作って、俺がその姿を眺めてって時間だけが過ぎていく。


「あの……物凄く暇なんだけど」

「味見してもらうだけだからね。仕方ないよ」

「仕方ないって……」


 初めましての時からそうだけど、本当に自由人だよなこの人。俺普通に振り回されてる感凄いんですけど。気を紛らわせるような物、テレビとかそういった娯楽的な物なんて無いし、じゃあ冷蔵庫物色でもする? いや、人様の家でそんな事しないだろう。


「何か手伝おうか?」

「いいよ。邪魔なだけだし」

「はい……」


 とても辛辣な言葉をもらいました。瑞樹って会った当初から遠慮が無いよね? いや、歳上だから多少のアレはあれど、ノーフィルターでボコボコにされても俺病んじゃうから。そして天王洲愛瑠ってオアシスに癒されちゃうから。あれ? 別に良くないかそれ?


 チャンチャラチャンチャンチャチャンチャチャンチャン♪


 俺のスマホの着信音が鳴った。


「出ていいよ。別に外に出なくてもいいし」

「あ、はい」


 相手の名前をよく見ずに、そのまま通話ボタンを押した所、聞こえてきた声は一瞬でオアシスのものだと分かった。


『こんばんは。西宮くん』

「天王洲さん、こんばんは」

『今大丈夫かしら?』

「今? まぁ、少しなら大丈夫ですけど」

『そう、ありがとう。早速だけれど、今週の日曜日は暇かしら?』

「分かりません。けど、天王洲さんが言うなら何が何でも暇にします! 例え俺が事故で病院に運ばれたとしても行きますよ!」

『それはしっかりと安静にしてなさい。本当に四宮くんは調子いいんだから』


 通話越しでも微笑んでいるのが分かるかのような声音だった。でも、またしても天王洲さんの方からデートをするきっかけを貰えてしまう事に、多少思う所が無いわけではない。本来なら自分からこうやって電話なりメッセージを飛ばして誘わなきゃいけない立場だ。


『え、映画のチケットが2枚手に入ったのよ。偶然、本当に偶然よ。それで、私一人で見に行くと折角貰ったチケットが余ってしまうし、厚意を無下にするのも申し訳無いの。それで、たくさんある候補から西宮くんを選んだのよ。別に西宮くんと行きたいとかそんなんじゃなくって、たまたま西宮くんになっただけよ。そう、これは偶然なのよ』

「天王洲さん、結構俺の事好きですよね?」

『す、好きじゃないわよ! バカ!』


 それだけを言い放って通話は切れてしまった。具体的な予定は立ってないけど、ほとぼりが冷めた頃にまた連絡でもすればいいだろうし。何より分かりやすいツンデレを頂いたのでもうお腹いっぱいなんですよ。


「天王洲って誰?」

「え? 学校の先輩だけど」

「そうなんだ。女の子?」

「そうだね」

「僕と一緒に居るのに他の女の子と電話するんだ」

「出ていいよって言ったの瑞樹だよね!?」

「冗談だよ冗談。中也はからかいがいがあるよね。うん、面白い」


 イタズラな笑みを浮かべる瑞樹。可愛いのかイタズラな小悪魔なのかどっちだろうか。まだ瑞樹の事を完璧に理解した訳じゃないから、その言葉の裏はわからない。でも、なんとなくだけど、瑞樹に裏も表も無いんじゃないかと思う自分もいた。言葉は酷くストレートではあるけど、おごらず、飾らず、本心を言うから言葉が酷く聞こえてしまうのかもしれない。

 それが自覚してるのか不器用なのかは分からないけど。


「あとは焼き上がるの待つだけだね」

「お疲れ様」

「うん、ありがとう」

「それで、その天王洲って人からはどんな連絡だったの?」

「え? まぁ、一緒に映画見ましょうってデートのお誘いだよ」

「デート?」

「うん、デート」

「デートって、楽しい?」


 俺のデートって発言に食いついてくる瑞樹。デートが楽しいか楽しくないかで言えば、楽しいの一択だ。まぁ、中にはハプニングとかもあったりして手放しで楽しいって言えない場合もあったりはするけどね。


「まぁ、楽しいかな。お互いの事知れたり、楽しい事を共有できるのは素晴らしいよ! それに女の子と二人っきりになれる空間、最高じゃないか!」

「最後のセリフがあると変態っぽいね。あぁ、中也はもう変態だったよね」

「なんでだよ!」


 俺は変態でもないし、邪な考えでデートするわけでもない! ワンチャン狙ってワンナイト狙ってデートなんかしてないし、ちゃんと相手を知って自分を知って貰ってって考えてるから。


「瑞樹はデートとかした事ないの?」

「無いよ」

「デートとはいかないまでも、仲の良い男友達とお出かけとかは?」

「友達なんていないよ。僕には」

「…………」


 コメントし辛い返答がきた。これなんて返すのが正解なの? 下手に言葉を紡いでも死ぬし、沈黙はもっとやばいし。


「ねぇ中也。僕とデートしようよ」

「え?」

「興味はあるんだ。デートにも、中也にも」

「俺に興味?」

「そうだけど」

「えっと、なんで?」


 別に俺は天王洲さんみたいな御令嬢とかでも良い所の出でもないし、学校中に知らない人がいないわけでもない。

 別に俺はリタのように外国から転入してきたわけでもないし、人当たりが良いわけでもないし美形でもない。


 そんな俺に、凡庸を絵に描いたような俺に彼女はどんな興味を抱いたのか。純粋で、シンプルで単純な興味だった。


「そりゃ、連日ここに来てたからだよ」

「え?」

「前にも言ったけど、ここのお店に2日連続で来た人なんていなかったよ。けど、中也は来た。だから変な人だなって」

「興味の抱き方が残念だな……」

「普通には興味ないんだ。みんなと同じはつまらないからさ。でも、中也はみんなと同じじゃなかったからね」


 その言葉を聞いて、少しだけ天王洲さんを思い浮かべた。みんなと同じはつまらない。彼女も似たような事を言っていた気がする。周りの人とは違う俺だから興味を持ったと。


「前にも言ったけど、ショートケーキ美味しかったんだよ。それに、お店の雰囲気も良かったから」

「おじいちゃん、凄い喜んでたよ。2日連続でお客さんが来たって。その後もちょいちょい来てたから、常連さんが来たって」 

「そんな事言ってたんだ」 

「接客中は表に出さないけど、裏では僕もうんざりするぐらいテンション高いんだよ」

「うんざりしてるんだ」

「まぁでも、お店を開くって大変なんだなってのは感じたよ。僕の作るお菓子がそこら辺のお店に売られてる商品に負けるなんて思ってないけど、人は見知った場所に導かれるから」

「た、確かにね」

「だからそうじゃない中也が不思議だったんだよ。あ、これからもお店に来てくれると嬉しいな。僕としてもおじいちゃんとしてもね」

「時間作って来るよ」


 そんな他愛のない話をして、しばらくしてからケーキが焼けたって言われたから、多少の高揚感を持ちながら待っていた。


「中也はなんでケーキ好きなの?」

「昔お母さんがよく作ってくれたから、それで甘い物は好きだし。あとお母さんの作るショートケーキが最高に美味し過ぎるから、毎回ショートケーキあると食べちゃったりもするかな」

「中也はマザコンなんだね」

「ま、マザコン!? 断じて違う、俺はショートケーキが好きなんだ!」

「お母さんが作った、でしょ? ちなみに僕のショートケーキは中也のお母さんと比べてどうだったの?」

「美味しかったけど、お母さんの方が美味しかったよ」

「なんかムカつくね」

「聞いたの瑞樹だよな……?」


 理不尽な罵倒に焦りを感じつつも、出された紅茶のシフォンケーキの香り、見た目はとても美味しそうだった。


「瑞樹も意外だよね。お菓子作りが好きだなんて」

「そう?」

「ベッドホンとか付けてたから、音楽が好きなのかと思ったよ」

「音楽だって好きだよ。それとお菓子作りも好きなだけ」

「そっか」

「それより早く食べてよ。出来によってはお店のメニューとして出すからさ」

「そっか。じゃあ早速いただきます」


 一口食べると、柔らかい食感と、紅茶の良い香りが漂ってきた。味なんか言うまでもなく美味しい。普通にお店で出てきても不思議じゃないくらいに美味しかった。


「めちゃくちゃに美味しい!」

「そう。じゃあお店に出しても問題無さそうだね」

「しばらく食べてなかったけど、紅茶のシフォンケーキってやっぱり美味しいな」

「違うよ」

「ん?」

「僕が作ったから美味しいんだよ。そうでしょ?」


 そう言って微笑みながら挑発気味に、美少女は笑顔を俺に向けていた。別に恋に落ちたとかそんなんじゃない。でも、普段毒舌な女の子の笑顔ってなんか良いね。クセになりそう。まぁ、俺には天王洲さんがいるんだけどねって話。




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《令和コソコソ噂話》


 第28話読了してくださりありがとうございました! これにて崩壊五十三次編は終わりになります! 次回からエロ名所三人美女編になります! お気に入りと評価をたくさん貰えたら、本日中に1話投稿しようと思ってます! ほら、みんなエッチなヒロインは好きでしょ?


 引き続きたくさんのお気に入り登録、★評価もありがとうございます! 過去作品を超えた評価、とても嬉しいです!


 今後の励みにもなっていますので、お気に入り登録、感想と★評価やレビューをよろしくお願いします……!


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