第27話 崩壊道五十三次⑥



 リタに自分の魅力を気付かせて、広い視野を持たせて意識を俺から離れさせるって作戦は見事に失敗した。むしろ前よりも本気で、確実に俺を口説こうとしてくるだろう。


「ってな感じで、リタとデートはしてきました」

「そう、聞いてない報告をどうもありがとう」

「いや、一応天王洲さんからちゃんとデートしなさいって言われたんで、そこはちゃんと報告しなきゃって思いまして」


 リタとのデート内容、出来事を全部話した。相も変わらず放課後の生徒会室での会話だった。生徒会長の天王洲さんと、書記の俺。副会長不在のいつもの生徒会活動だった。


「普通に良い雰囲気で、それに彼女も健気な感じじゃない。西宮くんの事だから、きっと鼻の下なんか伸ばしてたんじゃないかしら」

「鼻の下伸ばしてなんかいません! そりゃ、素直に感謝される気持ちは嬉しかったですけど、俺は天王洲さんを口説くって決めてるんで」

「それは別にどうでもいい事なのだけれど、西宮くんはもう少し視野を広く持ちなさい。考え方も」

「え?」

「確かに私は彼女と、リタさんとデートをしなさいとは言ったわ。けど、もう一つ言ったわよね?」

「天王洲さんが落胆しないくらい、俺が天王洲さんに向けてる感情が本物だって証明をする」

「そうね。なのに、それから西宮くんは私に何をしてくれたかしら? 私に何をして、どんな態度で、どんな言葉をくれたかしら?」

「何も……してませんね……」

「どうでもいいとは言ったけど、少しは期待をしているのよ。他の人とは違う西宮くんに、私も」

「はい……」

「だから、ね。お願いね」


 分かりましたと一言だけ返した。とりあえず、天王洲さんはあぁ見えて意外と嫉妬とかする性格っぽいな。今はまだアレで済んでるけど、実際に恋人とかになったら束縛とかしてきそー。でも、可愛いからいっか。そんな短絡的思考だった。


「それに、この前のアイスクリーム屋さんにも行けてないわけだし。不可抗力だとはいえ、楽しみにしていた予定を狂わされちゃったって怒りとかストレスとかはあるわけで、それをイライラしている原因にして人に当たるのは良くない事は分かっているけど、私も人間だから感情のコントロールができない時だってあるのよ。第一、西宮くんが少し頼りないってのも問題なのよ。もっと私だけを見て私だけに構っててくれれば何も問題は無いのよ。えぇ、そうよ。悪いのは全部西宮くんなのよ」

「めっちゃキレてるじゃないですか……」


 けど、そこまで思ってイライラして感情のコントロールが難しいくらい気持ちが荒んでるんだったら、いっその事付き合えばいいんじゃ無いかって思う。そうすれば諸々の問題も解決するんじゃないか? 今はまだ恋人関係って縛りが無いから強く強制も出来なくてモヤモヤしてしまう気持ちはあるけど、もし恋人関係になれば縛りを課せたり、心意気も自然と変わったりもする。


「天王洲さん、付き合いますか?」

「だからいきなりの告白はダメよ」

「いや、天王洲さんはむしろもう付き合った方が良いタイプですよ。そうすれば色々俺を縛れますよ」

「縛るのは……嫌よ」

「いや、今も中々に」

「それに、私はまだ西宮くんに私を知ってもらえて無いし、私自身も西宮くんの事を知らないわ」

「そこ、こだわりますね」


 上辺だけの言葉は要らない。知った気になって接しられるのが嫌だと彼女は、天王洲愛瑠は言っていた。だから、他の人が知らない、天王洲さん自身も知らない事を教えて、無理矢理に強引に関係を持った。

 きっと、生ケツと生秘部を見られた後ろめたさもあって俺と仕方なく絡む気持ちがあったかもしれない。けど、それでも周りとは違って、俺には多少なりの期待をしてくれてるのは伝わってくるから、今度は俺がその期待に応えないといけないんだよな。


「じゃあ、またデートしましょう。里見ショッピングモールで」

「続けて同じ所は嫌よ」

「えぇ……」

「だから違う場所で、デートをしましょう。西宮くん」

「は、はい」


 同じ場所では嫌だけど、違う場所でならいいよって許可も貰ったので、また違うデートプランを立てますか。


「じゃあまた予定立てて連絡しますね」

「えぇ。別にメッセージだけじゃなくて電話でもいいわ」

「メッセージの方が簡潔に纏められますけど」

「はぁ……鈍過ぎるのも考えものだわ」


 今はそれでもいいわと言って、お互い仕事に戻ってから作業を済ませて生徒会室を後にした。周りの視線がある為、一緒には帰れない。現状だって、天王洲さんは学校では俺に挨拶をしてくれて、それを良く思わない奴からの陰口みたいなのが聞こえてくるし。


 そんな諸々のアウェーの中でもあるから、自分の良いように進めないって現実もある。けど、それは天王洲さんには言えないし、そもそも言うつもりはない。


 なんかそう言った愚痴みたいなのを零せる気兼ねない女友達や男友達が居ればいいんだけどな。生憎とこの学校にはそんな奴らはいないし、ないモノねだりなんだけどね。


 そんな学校の帰り道、天王洲さんとのデートのプラン、もとい目的地をどこにしようか考えていた所に出くわした。それは側から見れば美少女で、紺色のパーカーを着ている黒髪ショートボブの美少女で、俺の知っている美少女だった。


「やぁ、2度目ましてだね」

「に、2度目まして……?」

「そういや全然連絡来てないけど、僕のアカウントは追加してくれてないって事かな? だとしたら僕は今怒ってもいいよね?」

「へ? あ……」


 そうだ。そう言えばこの女の子から、瑞樹という名前の女の子から連絡先を教えて貰ってたんだった。すっかり忘れて追加し忘れてただけだ。いや、ちょっぴり関わるとロクな事が起きないと思ってついかしないでおこうって気持ちもありました。


「す、すみません……今追加します」

「中也、これから暇だよね? なら少し付き合ってよ」

「え? いや、今日は用事が……」

「僕の気持ちを無視した挙句に誘いも断るなんて、中也は本当に最低な人間だね」

「行きます行きますから! 是非いかせてください……!」

「そこまで言うなら連れてってあげるよ。僕も鬼じゃないからね」


 そう言って軽く微笑んだ瑞樹。いや、鬼ってよりかは悪魔だとは思うんだけどね。瑞樹と絡むとロクな事にならないけど、ここで断った方がより面倒くさいなと思った結果、しぶしぶ瑞樹に付いて行くことにした。


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