第25話 崩壊道五十三次④



 待ち合わせ時間は午後1時。リタとは駅前で待ち合わせをする予定だった。本来はそうする予定だったが、それは前日の夜の出来事だった。


《別に、家から一緒に行けば良くない?》


 リタにそう言われて、腕にくっつきながら柔らかいリタのリタの感触を味わいながら……少し抵抗のある感触もあって、それは丸いぽっちのスペランカー。相変わらずノーブラでいらっしゃるリタ・セスクアリス。

 前回の天王洲さんと同じようにデートの時にはブラジャーをして来いとは言ったけど、前例があるから警戒はしておかないと。

 結局自宅から目的地まで一緒にデートする流れになって、今はリビングでリタの準備を待っていた所だ。いろいろ不安は募るが、心配し過ぎてもしょうがない。けど心配しちゃうっていう矛盾。


「大丈夫だよな」

「おっまたせ〜!」

「うん」


 服装はホットパンツに無地の白ティーに、ショルダーバッグといったとってもシンプルな服装だった。まず胸元を凝視する。白いから多少透けるって所もあるけど、丸いぽっちのスペランカーがいないからちゃんとブラジャーはしているな。この時点で天王洲さんより理解力はあると見た。そしてブラジャーはピンク色っぽいな。


「中也、なんでおっぱい見てるの……? し、シたいの……?」

「い、いや……シたいとかじゃなくて、ちゃんとブラジャー付けてるかなって思ってだよ……! ほら、白いTシャツならノーブラだと透ける恐れあるし……!」

「き、着るよ! ちゃんと付けてるよ……! だ、誰にでも見せたい訳じゃないんだからネっ! 勘違いしないでよネっ!」


 その理屈だと、俺には見られてもいいって理屈になるんだけど。それはそれで俺ドギマギしちゃうけど、多分他意は無いんだろうし、これがリタクオリティーなんだろうな。それ故に随分とハニーな罠っぽいんだよね。


「あと、今日のデートの目的の一つとして、リタの魅力をリタに知ってもらうっ事」

「うんうん」

「まず第一にリタ、君はとてつもなく可愛い」

「え……?」


 指を差しながら高らかに、そして当たり前にそう宣言する。いや、普通に美少女だよ。可愛さで言えば天王洲さんと同等くらいに可愛いんだよ。まずそれを自覚してもらう。日本人にとって謙虚は美徳だけど、自信を持つって事も重要だと思うから。自信を持つからどんな行動も前向きに起こす事ができる。


「顔面偏差値も高いし、なにせおっぱいも大きい。人当たりも良いしおっぱいも大きいし、笑顔が可愛いし何よりおっぱいが大きい!」

「おっぱいおっぱい言い過ぎだよ……」

「リタは自分には何も無いって言ったけど、ここでまず二つリタの魅力を教えた。それをひけらかせって意味じゃ無いけど、自信を持つことも大事だよ」

「私はそうは思わない……自分が可愛いなんて……おっぱいはまぁ……ある方だとは思うけど」

「自己評価なんて主観だ。俺とリタしかいない空間では俺の意見の方が客観で正しいんだよ」

「あんま難しい言葉分かんない。けど、自信は持てるように……意識してみる……」


 そのままリタと一緒に歩き始めた。今日のリタはなんていうか、普通だった。むしろ俺の方がなんか若干ボケ倒してる気がするけど。夜這い仕掛けてきたりとんでも発言したりと今までのリタが変人だったから、今のわりと普通なリタだと少しだけ俺の調子も狂うってわけでね。


「あとリタは人当たりは良いからさ。人見知りせずに話せるってのは簡単な事じゃないから、そこもリタ自身のプラスな性格だし、魅力の一つだよ」

「そうなんだ」

「ただ、可愛い分、人当たり良くフレンドリーに接しちゃうと勘違いする男子も出てくるから、なりふり構わずやっちゃうとアレかな」

「でも、具体的にfriendlyな接し方ってどんなの?」

「日常会話的なのを話すのは別に問題ないけど、夜ベッドに潜り込んだり、必要以上にボディータッチとかは男の子が自分に恋愛感情があるんじゃないかとか勘違いしちゃうからさ。本当に好きな人以外の人にやると、変な人に当っちゃうと逆恨みとかされかねないし」

「じゃあさ——」


 そう言ってリタは俺の手に自分の手を絡めてきた。異性と手を繋ぐ。恋人関係ならわりかし当たり前の行為かもしれないけど、生まれてこの方恋人なんていた事ないから手なんか繋いだ事ない。だから初めて経験だし、それに指を絡めてきたのだ。要は恋人繋ぎってヤツで、恋人でも、より親密な恋人の関係になってからするヤツだ。


「こうしたら、中也は私の事好きになってくれるの?」


 俺の方が身長が高いから、リタが俺を多少見上げる形になるのはしょうがない。けれど、上目遣いっぽく言われたら不可抗力で心の臓がドキドキワクワクしちゃう。あざとい……あざといけど可愛いから気持ちが一瞬リタにいきかけちゃうよ。


「お、俺には……効かないかな……」

「そっかぁ。ざ〜んねん」


 とは言ったものの、そのまま恋人繋ぎは継続なんですね。リタはあっけらかんと笑顔を振りまきながらでぇと! でぇと! っと一定のリズムで発していた。俺は一人恥ずかしく、悶々と隣を歩いている。


「今日はどこ行くの?」

「近場の自然公園だよ」

「自然! 私好きだよ、自然!」

「イギリスの自然公園と日本じゃ違いはあるだろうけどね」

「イギリスだとCotswoldコッツウォルズとか人気あるよ。観光目的で旅行に行く人もいたりしていつも賑わってるらしいよ」

「その場所はどんな雰囲気なの?」

「イギリスの昔の家とか。日本で言うコミンカ? みたいなimageイメージ! もちろんお花や自然もたくさんあるの」

「へぇ、もし機会があれば見てみたいかもね」

「その時は私が案内するネ!」


 こうやって自然と会話は成り立つ。トーク力だって問題は無いだろうし。やはりリタも政略結婚をさせられるくらいの良いところの出だから、こういった類のスキルは持ち合わせているのだろう。教えられたのか自分で培ったのかは分からないけど。


「日本にもいろんな自然公園があるよ。小さい遊園地や動物園がある所とかね。でも今日行く所はシンプルに自然だけかな」

「どこでもいーよ! 私は!」

「そこら辺はあまり頓着しない感じなんだね。リタは」

「違うよ。中也は間違ってるよ」

「え?」

「好きな人と一緒にお出かけだもん。が重要だよ!」

「…………」


 狙っているのか。いや、リタはそんな計算高い女の子ではない。計算はするけど、それがどれも破綻してるのがリタ・セスクアリスの残念な所なのだから。それ故に、計算していない発言はナチュラルに破壊力がヤバい……


「そ、そっか……」

「うん! だからどこでもいいんだよ!」


 自分には取り柄もなくて魅力もないなんて嘘っぱちじゃないか。こんなにも彼女は可愛くて可憐で、それでいて魅力的な女の子だった。まだ目的の場所についていないのに、それなのにもうこれだけ魅力的なのが伝わっている。実際に現場に着いたら、今度はどんな魅力が俺を誘惑してくるのだろうか。見てみたいかもって好奇心と、流されないようにしないとって不安がせめぎ合う。








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