第22話 崩壊道五十三次①



「り、リタ……」

「うん、リタだヨ〜!」


 金髪碧眼居候娘のリタ・セスクアリスの姿がそこにはあった。


「中也は何してるの? そこの隣のレディーは?」


 こんな終盤でリタに出くわした。今まで順調過ぎたツケが最後の最後に回ってきたか? けど、リタが空気を読んで何も言わなければ問題ない。そうすれば後で天王洲さんにはテキトーに知り合いとか言っとけばいいわけだしね。

 だからこちら側が焦っちゃダメだ。まずは平静を装って落ち着いて話そう。


「この人は俺の学校の先輩の天王洲愛瑠先輩だよ」

「初めまして。天王洲愛瑠です」

「はじめまして! 私はリタ・セスクアリスです! 中也と一緒に暮らしてまーす!」


 ダメでした。普通に空気読まずにぶっ込んできました。いや、一緒に暮らしてますは本当にヤバいでしょ……あきらかに兄妹みたいななりしてないし……


「西宮くん、彼女がいたの?」

「いや、彼女じゃないです……」

「私は中也とカップルになりたいの!」

「…………」

「…………」


 ダメでした。本当にダメでした。空気が気まずいってレベルじゃなくてもう氷河期だよこれ。一緒に暮らしてかつ、相手が俺の事を狙ってる。今まで積み上げてきた物が何もかも崩れ落ちていくようなイメージだった。


「天王洲さん……俺は——」

「西宮くん」

「は、はい……」

「今日の所は、帰らせてもらうわ」

「天王洲さん……」

「可愛い子じゃない。西宮くんには勿体ない気もするけどね」


 別にリタとはそういう関係じゃない。けど、天王洲さんの反応は冷たいものだった。

 そのまま天王洲さんは俺とリタを残して目の前から姿を消してしまった。楽しみにしていたアイス屋さんに行く事も叶わず、これで俺と天王洲さんの関係も終わったも同然じゃないか。


「中也、なんか暗い顔してる?」

「そりゃそうだろうよ……」

「どうして? さっきの女の子と何話してたの?」

「いろいろだよいろいろ。それとリタ、俺と同棲してるって言うなって言わなかったっけ?」

「あれ? そうだっけ? でもヘンな関係じゃないからいいんじゃない?」

「それがダメなんだよな〜」


 君がそれを言ったが為に天王洲さん帰っちゃったからね? そもそも、そんな条件が揃ってたら人は嫌でもそういう想像をするんだよ。事実は違くても、人は思い込みで決めつけちゃう事もあるんだよ。そして一度決めつけた思い込みを変える事はそう簡単にはできないんだよ。


「マジでどうすっかな〜」

「何が?」

「いや、リタには関係ない事だから」

「ふ〜ん。じゃあさ、これからでぇとしよっ!」

「え?」

「中也言ってくれたじゃん! 私にも知らない私の魅力を教えてくれるって。最近中也全然構ってくれなかったし」

「俺もいろいろあるからな」

「だから私にも構ってよ! だからでぇとしよっ!」

「とりあえず、今日の所は一旦帰ろうか」

「え? なんで?」

「デートをするにしても、そういうのはちゃんと予定を組んで計画を立てたい派の人間なんだよ」

「私は今からでもいいんだけどなぁ」

「いろいろタイミングとかあるんだよ」


 ってか、今はそんな事にかまけてる余裕無いんですよ。早くこの誤解を解かないと天王洲さんとの関係が修復不可能になってしまう。やっと掴めた関係性、それを無駄にしたくないんだ。


「うーん。分かった。じゃあちゃんとでぇとはしようね」

「それは約束するよ」


 約束はする。デートはするよ。むしろ俺から言った事だしな。けど、今は天王洲さんとの関係修復に努めたい。




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