第20話 心酔琵琶湖⑥



「…………」

「なに緊張しているの?」

「いや、緊張っていうか……普通に気まずいんですよ……」

「そんなに?」

「そりゃもう……」


 女性物の服屋さんが見たいとの事で、一緒に入ったはいいものの、周りは女性だらけで他に男性客いないし、なんか視線すっごい感じて気まずいんですよね。別にエッチな下着とかの場所じゃなくて普通の服なんだけど、俺が変に大袈裟なだけなんですかね? それともやっぱり周りが俺を警戒してるんですかね?


「別に邪な気持ちが無ければ堂々としていればいいのよ。西宮くん個人じゃなくて、私に付き添ってるわけなんだし」

「そりゃそうですけど」

「だから私から離れないでね」

「離れないように手でも繋ぎますか?」

「繋がないわよ!」


 自然な流れで手を繋ごうとしたけど、断られちゃいました。まだそこら辺は許してもらえない関係性なんですね。ちょっと前は本当のカップルみたいな雰囲気出てたからイケると思ったんですけど。


「私服をあまり持っていないから、何か良いのがあったら教えてね」

「俺、別にファッションセンスとか無いですよ?」

「でも、私より普通の事は分かるでしょ?」

「普通の基準もよく分からないんですけどね〜」


 そりゃ、全身タイツみたいな服装だったらそれ違いますからみたいなツッコミはできるけど、それなりにそれっぽい服装着てたら、天王洲さんなら大体似合うと思うし、俺も普通に似合うって言っちゃうよ。天王洲フィルター付いてるんだから尚更なんだよ。


「無難にスカートとかどうですか? 普段制服着てるから履き慣れてもいるでしょうし」

「スカートだと中が見れるからかしら?」

「俺、そこまで煩悩拗らせてないですよ?」

「過去の自分の発言を振り返りなさい」

「流石に今はちゃんとデートに集中してますから」

「そう、それならいいのだけれど」


 そう言ってスカートの場所を吟味しながら、何着があてがっているので俺はそれに全部似合うとコメントする。


「全部似合うって言われても、それはそれでどれが似合うのかが分からないわね」

「いや、でも現に似合いますし」

「その中でもみたいな意見は無いのかしら?」

「天王洲さんの好みに合わせるなら、青色ですかね」


 天王洲愛瑠の好きな色は青色だからってシンプルな意見。ゆーて、上着的な物と一緒に比べないと本当に合うのか合わないのかって分かりづらくないか? スカート単体、上着単体では似合うけどそれらを組み合わせると台無しみたいなコーデもあるだろうし。


「青色は試着するとして、西宮くんの好きな色は?」

「え? 俺の?」

「えぇ、参考までに教えてくれないかしら」

「ん〜ピンク色とかですかね」

「ピンク色ね。分かったわ」

「何が分かったんですか?」


 俺のその問いに、天王洲さんは違う棚からピンク色のスカートを手に取って答えてくれた。それを試着してくれるって事なんですね。


「今日は特別に着てあげるわ」

「それを俺が貰えるってヤツですか?」 

「ば、バカ……! あげる訳ないじゃない! そもそも買うかも分からないのに」

「確かにそうですよね」


 流石にこれも無理だったか。いや、これはどんだけ信頼度と親密度上げた所で依然として要求レベル高いよな。そら断られて当然な事だった。


「じゃあ、試着してくるわね」

「はい」

「分かっているとは思うけど、覗いちゃダメよ?」


 試着室に入り、カーテンを完全に締め切る前に天王洲さんが顔だけ出して言ってきた。あぁ、そう言うことね。分かってま分かってます。押すな押すなは押せって事ですね。


「フリですね」

「フリじゃないわよっ!」

「分かりました、覗きません。お利口にして待ってます」

「本当に西宮くんは……」


 盛大な溜息。まぁ、それでも嫌われてないと分かるからまだいいか。もし本当に怒ってたらそのまま帰りそうだし天王洲さんなら。

 そして待っている間の衣擦れの音がなんともエロい……! これだけでご飯何杯いけるだろうか? いや、これだけでは無理だおかずが欲しい切実に。だけど、やっぱり見えないエロスは確かにそこに、カーテン越しに、カーテンの向こう側にあったのだ。


「どうかしら?」

「うん、似合ってますね」

「後ろにボタンが付いていて、それが可愛いなって思うの」


 そう言ってクルっと一回転。後ろ向いてくれればいいけど一回転しちゃったもんだからそんなにボタン見えませんでした。けど、天王洲さんが履いてるし、天王洲さんが可愛いって思うならきっと可愛いだろうし、まぁいっか。


「可愛いですよ。似合ってます。やっぱり青色似合いますね」

「ありがとう……」


 はい、視線逸らして顔真っ赤です。もう何回目ですか? そろそろ学習して慣れてくださいって。感想聞かれたんだからそう答えるしか選択肢ないでしょ? だから自ずとなんて返ってくるかも予想できるでしょ?


「天王洲さんって本当にピュアですね」

「に、西宮くんが……軽いのよ……」

「うわぁ……それは傷つくなぁ」

「ご、ごめんなさい……言葉を間違えたわ……」

「まぁ、冗談ですけどね」 

「……もう、歳上をからかわないの……」

「まぁでも、こんな事言うのは天王洲さんだけなんで、軽いって思われるのはあまり気持ち良くはないのは事実かもですね」

「ご、ごめんなさい……」

「天王洲さんに免じて、不問にしますよ」

「優しいね、西宮くんは。じゃあまた着替えちゃうね」


 そう言ってカーテンが閉められた。本当にこんな事を言うのは天王洲さんだけだ。けど、そう言った言葉をなんの躊躇も無く言うのはやっぱり軽いと思われてしまうのだろうか? そして、天王洲さんが言った言葉を思い出す。


《毎日だと言われ慣れちゃうじゃない。そういう言葉はもっと……特別であるべきだわ》


 人それぞれの感覚値だとは思うけど、その気持ちを向ける先である相手がそう思っているなら、それに合わせる事も必要なのかもしれない。少しは自重しよう。

 それにしても、中々に長い着替えだった。5分はもう経っているだろうし、さっきは2、3分で着替えてたから倍はかかってる。


「天王洲さん?」

「…………」

「何か問題ありました?」

「ま、待って……」


 そう言ってから数十秒後、ゆっくりとカーテンが開かれた。顔を真っ赤に染めている天王洲さんはまぁ見慣れたとして、その原因は中々にミニミニなスカートだと見た瞬間に分かった。

 天王洲さんの美しい太ももが露わになるくらいのミニミニ。後ろを向いてもらえば裏太ももにあるホクロも見えるんじゃないかってくらいのミニミニ。これもしパンツ履いてなかったらヤバいよね。


「結構攻めましたね」

「こんなに短いとは……思わなかったのよ……」

「選んだの天王洲さんですよ?」

「わ、分かってるわよ……」

「記念に1枚撮ってもいいですか?」


 そう言ってスマホを取り出しながら言うと、ダメと必死に抵抗されて、なんならスマホを取られそうになった。

 スマホを取ろうとした天王洲さんの手がスマホを持っている俺の手に当たり、スマホがそのまま地面に落下する。


「ご、ごめんなさい……」


 謝りながら天王洲さんが前屈みになりながら俺のスマホを取ってくれた。

 そして、俺は見てしまった。天王洲さんの背後にある試着用の鏡に写る天王洲さんの後ろ姿を。ミニミニのスカート過ぎるから、スカートの奥にあるものが見えてしまった。


 普通ならそこに写るのはパンツだろう。だけれど、そこに写っていたのはパンツではなく、過去に一度だけ見たことのある、天王洲さんの生ケツだったのだ。


 忘れかけていたが、彼女はそうなのだ。ノーパン主義女天王洲愛瑠なのだ。









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