第17話 心酔琵琶湖③
さてさてさ〜てと。天王洲さんとのデートプランを考えなければ。時刻は夜の八時ちょい過ぎ。自室でどこへ連れて行こうかを悩んでいた。
いろんなお店がある大型の商業施設に行こうか、それとも大きな自然公園的な場所にするか、はたまた動物園とかにするか。
初デートって結構重要だし失敗はできないから、綿密に考えないと期待を裏切ってしまう。
天王洲さんなら、どこへ行きたいだろうか。勝手な印象としては自然公園みたいな静かな場所で読者とかが似合うけど、天王洲さんみたいな御令嬢からしてみると、大型の商業施設とかにはあまり縁が無さそうだから、そーゆー系に行きたいんじゃなかろうか。動物園とかも同じ理由で。
「しっかし分からんな〜」
考えるのは好きだし楽しいって思ってた時期は俺にもあったよ? けど、今は楽しさどころかすんごいプレッシャー感じちゃってるよ。だって相手は天王洲さんだし、天王洲財閥の御令嬢だし。けど、だからと言って行きたい場所を決めてもらうのは男としてのプライドが傷つくから俺が決めたいし。
そんなこんなで頭を抱えていると、俺のスマホのメッセージアプリの通知音が鳴った。母さんか父さんからだろうと思ったけど、ポップアップ表示にはまったく違う人の名前が表示されていた。
「え? 天王洲さん?」
天王洲愛瑠という名前の人から、こんばんは。今時間いいかしら? って連絡が来たんですけど。デートのプランを考えてた最中だけど、それを中断してでも対応しなくてはいけない事件だ。
《こんばんは。大丈夫ですよ》
そう返事するとすぐに既読になった。一体どんな返信が返ってくるかと心待ちにしていたが、その期待を裏切るかのように、メッセージではなく着信がかかってきた。
「え……?」
流れ的に電話ってもっと展開は後じゃないですかね? まずはぎこちなくメッセージのやり取りをするようになって、そこから何度かデートをして、それくらい進展してからの機能なんじゃないんですかね? けど、だからと言って出ないって選択肢は無いし、むしろ出なかった方が不振がられるし。
「もしとし」
『こんばんは。急にごめんなさいね』
「いえ、ちょうど暇してましたから」
『デートの件だけれど、日程を日曜日から土曜日に変更は可能かしら? どうしても外せない予定が入ってしまったの』
「大丈夫ですよ。じゃあ土曜日に変更で」
『ありがとう。ちなみになんだけど、どこへ行くのかは決まってるの?』
「まだ決めかねてます」
『なら丁度良かったわ。行きたい所があるのだけれど、それでもいいかしら?』
「いいですよ。天王洲さんが行きたい場所があるなら、そこに行きましょう」
この場合、決めて貰うって訳ではなく、天王洲さんの意思で行きたい場所があるから仕方がない。
『駅前に大きな商業施設があるのは分かる?』
「
《ええ。昔から一度行ってみたいと思っていたの。流石にお付き人を連れて行くのも申し訳なかったし》
「俺なら申し訳なくないって事ですか?」
冗談めかして言ってみた。すると天王洲さんはそうねとシンプルに返してきた。
『気を使わなくて良い相手の方が私も楽だもの』
気を使わなくて良い相手。少なくとも、俺の事を全くの他人とは思っていない旨の発言が嬉しく思った。多少は気を使えなんてツッコミなんて出てこなくて、ただただその言葉が嬉しかった。
「俺も、天王洲さんみたいな可愛くて美人な人を連れて歩けるのがたまらないです」
『随分とストレートに言うのね』
「通話越しなんで、素直に言えるんですよ」
『嘘、西宮くんは例え面と向かってても言えるじゃない』
ただのこのなんて事ないやり取り。そんなやり取りが心地いい。
「とりあえず、時間は何時でも良かったりしますか? 午前中からでもいいのか、午後からの方がいいのか」
『午後からの方が都合が良いわ』
「じゃあ午後1時に駅前に集合でどうです?」
『えぇ、問題ないわ』
「じゃあ、その予定でお願いします」
あれ程悩んでいたのに、割と淡々と、そしてすぐに予定は決まってしまった。予定が決まってしまったから、今回のデートの予定を決めるだけの通話なら、もうしている必要はない。
『なんだか今日は普通なのね』
「え?」
『いつもなら可笑しな事を言うのに』
「可笑しなこと?」
『ほら、パンツ見せてくださいとか、今日は履いてますかとか』
「あぁ、確かにそうですね」
まぁでも、パンツはどう考えても見えないから意味ないし、パンツを履いてるから履いてないかなんて、答えは分かりきってる事じゃないか。
「けど、今は履いてますよね」
『どうしてそう思うの?』
「天王洲さん、今家じゃないですか。家なら、履かない意味が無いと思うんですよ」
『履かない意味?』
「前に開放感を味わいたいって言ってたじゃないですか? 多分それって、たた単純に開放感ってわけじゃなくて多少のスリルも味わってると思ったんですよ。確証は何も無いですけどね。そう考えると、なんのスリルもなくなただ開放感だけある自室でノーパンになるのは、天王洲さんが満たされないんじゃないかって」
『本当に西宮くんは、なんでも分かっちゃうんだね』
恥ずかしさってよりかは、どことなく嬉しさが垣間見える、声音が弾んでいるように思えた。
なんでもは知らないし、知ってる事だけしか知らないし、そもそも天王洲さんの全て把握していない。
「なんでも知ってるわけじゃないですよ。でも、他の人よりは天王洲さんを知っているつもりです」
『これでもね、西宮くんには感謝しているのよ』
「え?」
思いもよらない感謝の言葉に、そんな素っ頓狂な返答をしてしまった。天王洲さんが俺に感謝? 割と変態的でセクハラ発言くらいしかしてないと思ったけど。実はそれが天王洲さん的には良かった系ですか? 実はマゾなんでしょうか?
『私のアレ……西宮くんじゃなかったらどうなってたか分からないわ……』
「あぁ、なるほど」
天王洲さんがノーパンだった事。それをこの世で初めて知ったのは俺だろう。けど、その事を周りに言いふらす事はなく、今もこうして天王洲さんと良き関係を築いている。
『だから本当にね……ありがとう。感謝してもしきれないの……変な私を守ってくれて……』
「そんな別にどうだっていいんですよ」
別に感謝されたいから言わなかった訳じゃない。俺は元々天王洲さんに憧れて、お近づきになりたくて、ただその一心だった。
「俺はただ天王洲さんと仲良くなりたいだけですから」
『西宮くんは優しいのね』
「優しいんじゃなくて、変なんだと思います。天王洲さんと同じで」
『私と同じ?』
「はい。天王洲さんと同じで俺も変なんですよ。だから変人同士、これからもよろしいお願いしますね」
『ふふふ、こちらこそよろしくね。西宮くん』
先輩との、天王洲さんとの距離がまた近づいた気がした。こうして少しずつ少しずつ、確実にしっかりと距離を詰めていけばいつか報われるだろう。そんな少しだけ良い雰囲気だから、少しくらい高望みしても良いよね?
「天王洲さん。今日のパンツの色は何色ですか?」
『ツーツーツーツーツー』
今ならいけると思ったんだけど、あれ、おかしいな。距離が縮まったはずなんだけどな。
俺の淡い桃色の質問は無機質なモノクロの音によって無かった事にされてしまった。
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