第16話 心酔琵琶湖②



 天王洲さんのパンツは見れなかったけど、連絡先を交換できたのはかなり前進しただろう。

 登録はしたものの、まだトークはできていない。トークはなんかまだ恐れ多くて自分からはいけないんだよ。もし、万が一、何かの手違いで天王洲さんの方から連絡が来れば話は別なんだけどね。


 ベッドの上でスマホを眺めながら、連絡が来ないかな〜って待ち続けて早一時間が経とうとしていた。来ない事は分かっているけど、天王洲さんの連絡先のアイコンを眺めてるだけでなんかとても癒されるんだよね。別に天王洲さんは写ってないし、多分自分の家の庭? の風景なんだろうけど。そんな思考をしていると部屋をノックする音が聞こえてきた。


「中也〜」

「ん、なんだ?」

「入ってもいい?」

「今は別に構わないぞ」

「おっじゃまっしまーす!」


 以前とは違って、リタは俺の部屋に黙って入ってくる事はなくなった。こうしてノックをして部屋に入っていいかの許可を取ってから入ってくるようになった。


「んで、用はなんだ?」

「ご飯出来たから!」

「え?」

「夜ご飯作ったの!」

「…………」


 夜ご飯作ったって、あなたまさかダークマターをまた生み出してしまったんですか……? リタの料理センスは壊滅的だからな。我が家は基本コンビニ弁当とか、たまに俺が簡単な物を作ったり、スーパーの惣菜だったり、ファミレスだったりだ。他の家庭とは違くて、俺の家に常に両親は居なくて、むしろ家を空けている事の方が多い。

 昔はそれが寂しかったりもするけど、ある程度大人になってくると、一人でいる時間が有意義に感じて、そこまで寂しさが込み上げてくる事はない。


「今日はファミレスに食べに行くって話だったよね?」

「でも、お金かかるし。作った方が安いヨ!」


 その理屈は理解できるけど、自分の料理を味見した事ありますかあなたは? 話はそこからなんですけど、多分無いよねこの子。


「そりゃそうだけど……」

「頑張って作った!」


 満面の笑みでそう言うリタ。結局俺には拒否権なんて無いから、今日のリタが作ったダークマターを食べる以外の選択肢は無いんだろうけど。ちょっとだけ憂鬱に、できれば拒否したい思いをグッと堪えて一階のリビングに向かった。

 テーブルに並べられていた料理を見ると、所々焦げついていて、見た目はぐちゃぐちゃだったりもするが、以前見た時のダークマターの姿は無かった。


「あれ?」

「どしたの?」

「いや……なんでもない」

「ごめんね〜、ちょっと焦げちゃったの」

「あ、うん。大丈夫だよ」


 席について、二人揃っていただきますの挨拶をしてからリタが一口食べるのを見届けた。前の俺みたいに世紀末みたいな表情にはなっていなかった。

 俺もそのままおかずに箸を伸ばすり匂いは特に問題は無い。そして一口放り込んだ。


「まずく、ない」


 美味しいか言われたら、それは微妙な所ではある。けど、前回食べたダークマターのような壊滅的なマズさはなかった。


「リタ、もしかして料理の勉強とかしてる?」

「え? う、うん。タダで住まわせて貰ってるし、何か出来ることないかなって。けど、私なんにもできないから、これくらいしかね。これくらいって言っても、それすらまだまともにできないけどね」


 そう言って気まずそうに頬をかきながら微笑むリタ。でも、少しだけ意外だった。


「少しでも、中也の役に立ちたいなって」

「…………」


 えー、何この子。普通に可愛いんですけど。見た目は普通に美少女だし、おっぱいだって天王洲さんより大きいし。外国人って発育良いって聞くもんね。


「今はまだいろいろダメだけど。これからもっと頑張るネっ!」


 前向きだ。けど、こうにも真逆の対応をされるとなんか調子狂っちゃうよ。心に決めたわけじゃないけど、口説くって決めた相手はいるからあんまり誘惑しないで欲しいんですけど。あ、別に誘惑をされてないか。




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