第15話 心酔琵琶湖①
実際問題、アレは一時の感情だったのかもしれない。だって、そもそも俺には女性が喜ぶようなデートプランを、女性が映えるようなデートプランを知らないからだ。いろいろとデートプランを考えるのは好きだ。でも、それが本当に相手の望むものかどうかは分からない。
「完っ全に見切り発車だよなぁ」
「さっきからさ一人で何の話をしてるの?」
「あー、デートの件でデート」
「そう。それで、日取りとかは決まったのかしら?」
「いや、それがまだなんですけどね」
「一応、私の家の事もあるし、今日明日でいきなり行こうなんて言われても難しいの。だから事前に前もって予定しておいて欲しいの」
「え?」
そう疑問に思った瞬間に察した。俺はリタとのデートについての独り言を言っていたが、天王洲さんはもちろん自分のデートの事を聞いていたのだ。誘ったの俺だし、浮かれてたのも俺だし、だけどすっかり忘れてたのも俺だった。
「ごめんなさいね。いろいろと面倒な所があるのよ」
「えっと。まぁそうですよね。財閥の御令嬢ならそうですよね」
途中で気づけたから話をそっちの方向にシフトしていく。確かに、まず先に約束をしたのは天王洲さんとのデートだし、まずそっちの方の予定を決めておこう。
「天王洲さん的に、今後の予定の空き具合はどうですか?」
「今週末なら、土曜日でも日曜日でも問題は無いわ」
「なら、日曜日ではどうでしょうか?」
「分かったわ。予定は空けておくわ。それと、スマホ出して」
「え? なんでですか? エロ動画チェックですか?」
「ち、違うわよ……! 連絡先を交換しましょうって言ったのよ!」
「言ってはないと思いますけど」
危ない危ない。天王洲さんの方から連絡先を交換しましょうなんて提案してくると思ってもなかったから、てっきり日常的に見てるエロ動画のチェックでもされるのかと思った。
おっぱい紳士の俺として巨乳以外の動画は見ませんよ。
「けど、天王洲さんと連絡先を交換できるなんて、本当に周りに知られたら刺されそうですね」
「それは大袈裟よ」
「いやいや、天王洲さんの人気は本当に凄いんですからね。前にも天王洲さんから挨拶をしてくれた日だって視線マジ恐かったんですからね」
「みんなにとって、そんなに私は特別なのかしら?」
「そうですね。やっぱりみんなの憧れなんですよ天王洲さんは」
「そんな見られ方、望んじゃいないのに」
ポツリと彼女が呟いた。天王洲さんとこうして言葉を交わす事で見えてきた物がある。天王洲さんと関わりを持たない時はただ単に恵まれてる環境にいる恵まれてる人。けど、関わりを持ってからは、それらが全て恵まれている訳ではなく、恵まれていない環境もあるんだと知った。
「天王洲さん、今日のパンツの色は何色ですか?」
「えっと、西宮くんはいきなり何を遠慮なくストレートに言ってるのかしら……?」
「もし当てたら見せてくれますか?」
「いや、本当に何を言ってるのかしら……けど、いいわ。今日はその勝負に乗ってあげるわ。赤かしら。それとも緑かしらね。白かもしれないしピンクかもしれないわね」
気分を紛らわす為にした質問で、思わぬ収穫がありそうだ。そして天王洲さんもなんか今日はノリが良いぞ。そして、千載一遇のチャンスを逃すまいと、俺は、真の童貞は天王洲さんのパンツを見たいが為に、脳内をフル回転させる。
さて、天王洲さんの好きな色は知っているけど、律儀にその色を履いているのだろうか。そして、先程の天王洲さんの挑発的な言葉の中にその色が無かった。言葉で誘導して青色の選択肢を消させる作戦か、むしろあえて言わない事で青色を認識させている可能性も。後者の場合であるならば答えは天王洲さんの発言の中にありそうな気もするけど。
そして何より、一番引っかかるのは天王洲さんが俺の馬鹿げた問いに乗ってきた事だ。人には気まぐれはあるだろうが、リスクの大きい事に対して気まぐれの可能性は低いだろう。じゃあ気まぐれではないとすると、もう一つの可能性は自信だ。
当てられない自信があるから。天王洲さんの性格上、気まぐれではなく自信と確信によって判断するだろう。そんなリスキーな事はしないはずだ。いや、この人平気で学校にノーパンで来る人だし、案外気まぐれだったりする? あっれ、なんかやばい分かんなくなってきたな……
「俺が本当にパンツの色を当てたら、見せてくれるんですよね?」
「いいわよ。当てる事ができたらね」
「ふむ……」
やはり結構な自信があるみたいだ。そして挑発するかのように、俺をたぶらかすように足を組み始め、その白い太ももに視線が誘導されてしまう。その太ももの先にはどんな色が待っているのか。情熱的な赤なのか、可愛らしいピンク色なのか、汚れの知らない白なのか、アダルティーな黒なのか、はたまた自分の好きな青色なのか。
「ちなみになんですけどね、パンツの形状はノーマルですか? それともTバックとかですか?」
「その質問、推理に関係あるのかしら……」
「ありますありますちょーあります!」
「ヒントは無しよ。だからこそ、当てたらご褒美なのよ」
考えれば考える程分からなくなる。そうなると、これは直感で考えた方がいいのではないだろうか? そうなると、やっぱり天王洲さんが好きな青色説が濃厚で、それに賭けようと答えを導き出していた。だか、そんな矢先に天王洲さんがボールペンを落としてしまったのだ。床に落としたボールペンを拾う際に、屈んだ瞬間だった。その瞬間、天王洲さんの胸元からチラリと見えた。何が見えたのか、それはきっとブラジャーの紐だ。その紐の色は黒色だった。
なるほど、これで俺の勝ちは決まったようなもんだった。こう見えても視力は良い方でね、答えは黒色だ。アダルティーな黒色で、誰がなんと言おうと黒色だった。
「じゃあ、黒色で」
「理由は?」
「そりゃ、俺は天王洲さんの事、理解してますから」
「そう……」
理解してるじゃなくて、ただブラの紐が見えただけなんだけどね。さぁ、答え合わせをしようじゃないか。そんな自信満々に、黒色のパンツを期待する様な眼差しを向けたが、肝心の天王洲さんの表情はまったく曇っていなかった。むしろ、若干の微笑みすら見受けられる。
「残念ね」
「え?」
「私の事を理解しているなら、真っ先に浮かび上がりそうな物だけど」
「え……? じゃあ、まさか……」
この人、もしかして履いて無いんですか……? この後に及んで履いて無いんですか……? あんたも大概学習しないな。ってか、そんな答えありなの? パンツの色の話なのに、履いてないって答えはルール違反じゃないですか?
「ルール違反ですよ……! パンツの色がどうこうって話じゃないですか!?」
「それは西宮くんが勝手に履いてるって思い込んだだけじゃない」
「流石にその口振りは履いてるって思うじゃないですか……」
「だからそれは西宮くんの思い込みって事よ」
してやられた。完全に見透かされていて、俺の裏をついた圧倒的天王洲さんの絶対的勝利だった。
「ってか天王洲さん、マジでパンツは履きましょう」
「う、うるさいわね……」
「あとそれから、デートの日は絶対に履いてきてくださいねマジで」
「どうして?」
「もし天王洲さんが履いてなかったら、俺が興奮して天王洲さんを襲っちゃうかもしれないので」
「嘘、西宮くんはそんな事はしないよ」
「いやいや、俺だって男の子ですよ?」
「西宮くんは私が心から嫌がる事はしないよ。私の事を想って、でしょ?」
本当に、何から何まで見透かされている気がした。襲う気なんてさらさらないし、だけど、この事実を他人が知った時に漏洩するのを阻止したいだけだ。俺と一緒にいる時だけは、俺と天王洲さんの二人しかいない空間だけでは、その開放感ってのを味わってもらって大いに構わないけど。
「天王洲さんって、エスパーですか?」
「西宮くんが私を知っているように、私も西宮くんを知っているのよ」
「まぁ、まだまだ知らない事はたくさんありますけどね」
「それと、西宮くんが私を知りたいと思うように、私も西宮くんを知りたいのよ」
不意に告げられた言の葉。俺の方を一切見ずに淡々と並べられた文字列。それなのに、妙に心に響いて胸がドキドキして、温かくなるのを感じた。
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