第14話 夜這い図⑥


 リタとの混浴事件があった二日後の話だった。リタは性懲りも無く夜に俺の部屋に入ってきた。そんな金髪碧眼美少女は頬を赤く染めて、微笑みながらこう言ってきたのだ。


「来ちゃった……!」

「来ちゃった! じゃなくてね、この前言ったじゃんか。今のやり方じゃ無理だって」

「考えたよ。でも、何も思い浮かばなかったから」

「ちゃんと考えてないだろ」

「考えたよ」


 布団に忍び込んで、俺を蠱惑的に誘惑をしてくる。リタは何も進歩していない。変わっていない。それが酷く寂しく思えちゃった。


「私には、これしかないんだと思う」

「これしか?」

「私のわがままに付き合ってもらうワケだからさ。多分、ただの恋愛じゃ釣り合わないと思うの。もっとオトナな恋愛をして……私自身を売り込まなきゃ。だから私はこれがイケナイなんて思わない。私のやれるだけの全力だから」


 そんな事を言われたら、俺だって思う所はあるんだよ。上体を起こして、リタの両肩に手を置いた。ビクッと震えたリタ。俺とリタの二人しかいない空間、なんて事のないスリルを味わいながら、ゆっくりとリタをベッドに押し倒す。そうすればきっと、本性が現れるはずだと思ったから。


「リタ」

「……なに」

「リタのその想いは、本心なの?」

「え……?」

「引っかかってたんだ。リタの表情がずっと」


 いつの日か、一瞬だけ苦悶を浮かべた表情。悲しそうな、寂しそうな雰囲気。それらは憂いや悲観、拒絶なのかどうかは分からないけど、プラスの感情ではない事は俺にでも分かるよ。

 きっと、本当ならこんな事はしたくないんだろう。それが諸事情により、リタを蝕んで壊そうとして、それに怯えているみたいだった。


「リタの本心が知りたい」

「本……心」

「本当はこんな事、したくないんでしょ?」


 そして流れる一雫。やがて、それは一雫では無くなって、ほろほろと流れ落ちてきた。


「きっとリタだって、俺と考えが同じだと思うんだ」


 好きな人とそういう事がしたい。至極真っ当な意見だと思う。好きだから告白をして、好きだから一緒にいて、好きだから少しエッチな事をして。その全てが好きって感情が突き動かしているんだ。


 リタだって同じだ。将来の相手は自分で決めたい。けど、親に勝手に決めさせられる未来にあって、でもそれが嫌で、そうなるくらいならって感情で辿り着いた先が俺なのだろう。


「……でも、これしか方法が……」

「恋はね、そう難しいものじゃないと思うんだ」

「私にな何の取り柄も……魅力もない……」


 きっかけなんていくらでもある。俺が天王洲さんを落とせる確率もゼロじゃないだろうし、それこそ俺がリタに落とされる確率だってゼロじゃない。今は天王洲さんに向いている気持ちも、今後の付き合い次第でリタに傾く可能性は大いにあるわけで。


「デートしよう、リタ」

「え?」

「俺が教えてあげるよ。リタも知らない、リタの魅力を」


 他の人に無いものを持っていながら、それを知らずにやり方を間違えるのは愚行だ。愚かな行為だ。だから俺がその認識を変えてあげよう。

 これは彼女を、リタを助ける為でもあるが、同時に俺自身の為でもあった。だって考えてみ?  発言さえ問題なければめちゃくちゃ美形の女の子だし。いや、発言は俺に対してだけか。


 そんな美少女が、自分の身体的ではなく内面的な武器を自覚したら、そりゃもうバケモノじゃないですか? 

 今リタの視野は物凄く狭い。自分の置かれてる状況と自分の価値基準の板挟みで狭くなってるから、俺みたいな特定の男子に間違ったアプローチをしてきている。


 すなわち、自分の価値基準も上げて、視野が広くなれば選択肢は俺以外にも出てくるのだ。それこそ、スポーツ万能で成績優秀で容姿端麗。その三拍子が揃ってる人物に出会えるかは知らないけど、何も持っていない俺よりかはどれか一つくらい持ってる人には出会えるだろう。

 それこそ、校内だけじゃない、他の環境で出会う可能性だってあるんだ。


 だから、俺はリタの為ではあっても俺の為でもあるこの作戦を実行する事にした。リタとデートをしてリタの魅力に気づかせて自己評価を上げる。そうすれば俺は天王洲さんに集中できるからな。




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《令和コソコソ噂話》


 第14話読了してくださりありがとうございました! これにて夜這い図編は終わりになります! 次回からは心酔諏訪湖編になります!


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