第13話 夜這い図⑤



 天王洲さんとのデートの約束を取り付けた。それだけで嬉しい気持ちになる。心ぴょんぴょんしてウキウキワクワクルンルンな気分だった。

 具体的な予定は決まっていないけど、また天王洲さんと話せる口実ができたし、デートのプランを計画する楽しさもある。


「夢じゃないよな」


 頬をつねってみた。もちろん痛い。って事は夢じゃない現実だ! スキップしながら家に帰って、鼻歌混じりでお風呂に入る。気分が気持ちいいとお風呂に入るのもこんなに気持ちがいいのか。溜めた湯船に浸かりながら、どこへ行こうか、どんなデートにしようかとかあれこれ考えていた。


 他の人はどうだか知らないけど、俺はこういうイベント時には、あらかじめ計画を立てる派だ。だって時間は限られてるんだし、無駄な時間省いて楽しんだ方がいいじゃん? って思考。それに、初デートが上手くいけば二回目だってあるかもしれないし、その先だってあるかもしれない。気合を入れない理由が何も無かった。


「やっべ。めっちゃ楽しみだな」

「中也入るよ〜!」

「は? え? えぇ!?」


 当然湯船に浸かっていた為、ドアを押さえる事なんて出来ず……そのヒトは現れた。真っ白のタオルを一枚巻いただけの、その白の先には産まれたままの姿のリタ・セスクアリスがそこには立っていた。


「リタ……なんで急に……」

「これも口説くの一つだヨ!」

「だからこれは口説くじゃない」

「でも、夜這いではないよ?」

「まぁ、確かに」


 普通に納得しちゃったよ。確かにこれは寝込みを襲われてるわけでもないし、夜這いではないな。いや、夜這いじゃないから良いなんて事も無いからね? プライバシーって言葉知ってますリタさん?


「なんでわざわざ入ってくるの……」

「中也、興奮するでしょ?」

「興奮はするけど、過剰摂取過ぎて胃もたれ起こしそうなんだけど……」


 胃もたれは起こさないけど、こう頻繁にエロハプニングが起きてるとなんかこう……慣れが出てくるよね。本来であれはなかなかお目にかかれなくて神秘的なモノ。それこそ、天王洲さんの天王洲さんとか、一度見たっきり見れてないし、見せてと言っても見せてくれないし。けど、それがいいんだよね。

 なかなか見えないからこそ、ギリギリで見えないからこそ焦ったくてもどかしく、最高にトキメクんだよ。ほら、アレだよ。スカートからギリギリパンツが見えるか見えないかが良いみたいな。結局見えないけどその感覚が良いみたいな。


 それに比べてリタは自分の身体をもっと大切にして? って言いたくなるくらいに積極的で、それこそ青い春を売ってるような感じでもあった。必死なのは伝わるけど、それはそれで辛くない? って思っちゃったりするけど。


「こーゆーの、イヤ?」

「嫌っていうか、もう少し自重して欲しいって感じかな」

「えっちなの、嫌いなの?」

「好きか嫌いかで聞かれたら、好きだよそりゃ」


 エロい事が嫌いな男なんてほとんどいないだろう。それこそ男子高校生なら、毎日エロい事考えて毎日一人でエロい事してるくらいだもん。俺は最近ご無沙汰気味ですけどね。ほら、リタがやってきたし、こうしてお風呂にいきなり入ってくるもんだから、トイレでしてたりしても急に入られる可能性あるし。普通はあり得ないけど、あり得ないって断定出来ない所が悲しいよまったく。


「なら、いいじゃん」


 そう呟きながら、リタは普通に髪の毛を洗い始めた。タオルがはだけそうなのを見て、咄嗟にリタに背を向けて壁と睨めっこ。シャカシャカと髪を洗う音が良く響く。


「身体目当てって思われるの、嫌だからさ」

「え?」

「知りたいじゃん、好きならその人の事。順序が違うって言うかさ」


 エロから始まる恋愛もあるのかもしれない。オトナの世界の事はまだよく分からないけど、なんとなく話すようになって、それとなく話すようになって、お互いの連絡先を交換して、返事が来るか来ないか分からないやり取りに一喜一憂して、勇気を出して告白をして。そんなありきたりで子供っぽい恋愛らしないのかもしれない。でも、俺はまだ子供だから。そうやって子供っぽい青い春を味わいたくて、甘々で砂糖増し増しの恋愛がしたいんだ。


 天王洲さんとの出会いに一部エロはあれど、これから少しずつ彼女を知っていって、俺の事も少しは知ってくれて、そんな感じでアプローチをしていきたいと思っている。だから、リタのそのストレートなアプローチは素直に受け付けられないんだ。


「順序が違うなら、どうすればいいの?」

「そりゃ、デートに誘って相手の事を知るとかさ。夜這いみたいな、色仕掛けみたいなのはやめてさ」

「でーと?」

「うん。休日に男女で一緒に出かける事だよ」

「じゃあ中也、デートしよっ!」

「え?」

「え? って、中也が言ったんじゃん! だからデートしよっ!」


 背中越しに聞こえてくる声は明るく、何かを発見したかのような、子供がはしゃいでるみたいな声音だった。そして、ひとしきり自分の身体を洗い終わったリタが湯船に入ってきた。そのまま交代って事で俺も湯船を出ようとしたが、リタに腕を掴まれて、何かが当たって予想外に気持ち良くて、思考が止まる。


「なんで出るの!? いいじゃん一緒に入ろうよ!」

「恥ずかしいから……それになんか当たってるし離してくれ」

「おっきいおっぱいは嫌い?」

「…………」


 好きか嫌いかで聞かれたら、愛してるっていう

 第三の選択肢が出てきちゃうくらい愛してますよおっぱい。現時点で天王洲さんよりも唯一リタが勝ててる部分はおっぱいだけだからな。けど、そのリタのおっぱいはすごい破壊力だし、正直ガン見して触れるなら触りたい、触れたい、揉みたいとは思うよ。ほら、フツーの男ならそうじゃん? ただの欲求じゃん?


「好きだけど、それはダメだから」


 心に決めたわけじゃないけど、口説く相手がいるのは変わりない。そんな状況で他所の女の子に手を出すのは失礼に値するだろう。それと、リタ自身の事もだ。仮にリタの身体に触れて、仮にリタを傷モノにしたとして、俺にその責任が取れるのだろうか? いや、取れない。気持ちがリタって決まっているならまだしも、決まっていない状況でそんな無責任な事はできないのもまた事実で。


「私がいいって言っても?」

「リタがいいって言ってもだよ」

「そっか」

「うん」

「中也ってさ、本当にヘンだよね」

「変!? え、変なの俺? これって変なの!?」


 常識的な判断が出来るって事じゃないの? それともみんなそんなプライド捨ててヤってるの? 待って、そんなプライド持ってるから童貞って事? あらやた何それ悲しい……辛いよ……真の童貞極まれりだよこれ。


 そしてリタは自分の柔らかい二つの果実を、俺の背中にくっつけてきた。その柔らかさは今まで味わった事のない感触で、俺の息子が一気に聳り立つ程に。湯船に浸かっていて血流が良くなっているから余計にビンビンだよ。


「こんな事するの、中也だけだよ。それなのに、中也は振り向いてくれない」

「そりゃ、見えちゃうし」

「そういう意味じゃないんだけどな」


 いや。そこは俺の意思次第だからリタさんの考えでは無くないか? でも、やっぱりおっぱいっていいよとは思うよ。本当に心底思いますとも。


「どうやったらさ、中也は振り向いてくれのる?」

「分からないけど……今のやり方では無理だと思う」

「じゃあ、どうしたらいいの?」

「それは自分で考えないと」

「そっか……」


 彼女の声音から寂しさが伝わってきた。背中を向けてるから表情は分からないけど、きっといつもの笑顔なんてそこには無くて、きっと悲しい表情をしているんだろうな。そんな伝え方されたら、背中の感触なんて気に留めていられないじゃんか。



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