第11話 夜這い図③
睡眠は一日の疲れを取る為に必要不可欠な行為だ。まだ学生と言えど疲れる時は疲れる。社会人じゃないクセになんて異論反論抗議質問等は一切受け付けないからな。
慣れた布団の上で横になり、なにも考えずにただ静かに呼吸をする。たまになんか変な事考えたりするけど、今日は疲れが溜まっていたのですんなり寝れそうだな。
案の定すぐにウトウトとし始める。ここから後何分くらいで寝られるだろうか。五分だろうか十分だろうか。そんな矢先に、布団が鳴き始めたのだ。クシャ、クシャっと言い始め、少しばかり軋むベッド。
寝ぼけ目でうっすらと確認すると、そこにはヤツがいた。金髪碧眼の居候娘が相変わらずの微笑みを浮かべて、さも当たり前かのようにそこにいた。
「あの……リタさん……?」
「なに?」
「何してるんですか? リタさんにはリタさん用の部屋があるはずですが……?」
「口説きに来た!」
そう言いながら自らの左手で服の上から俺のお腹を軽くさすって、少し太もも辺りをさすられて、俺の眠気はとうに吹き飛んでいた。
「それは口説くじゃありません……」
「違うの?」
「それはただの夜這いって言うんですよ」
なにをどう調べたら口説くと夜這いを勘違いするんですかね? そんな事されたって興奮なんか……するけど、それはそれで違うって言ってるじゃんか! 興奮はするけどさ!
「そうなんだ。でも、ドキドキはするでしょ?」
「…………」
「中也も男のコなんだね〜」
ズボンに手をかけられた。流石にそれ以上はマズイから必死の抵抗。ズボンを下ろしたいリタと下されたくない俺との一騎打ち。流石に女の子に力で負けるはずもなく、圧倒的俺優勢。
しばらくすると大人しく諦めたと思ったら、頬を膨らましながら俺に背中を向けてしまった。
怒ってしまったのかいや、本来怒りたいのは俺の方なんだけどさ。けど、今度はリタは自らの服に手をかけて自分の上着を脱ぎ始めた。
あ、マズイ……前にも窮屈だからと言ってブラを付けていなかったリタだ。おっぱいの大きいリタ、自分の武器をちゃんと武器として自覚しているリタ。だけれどその背中には、色白である背中には真っ黒なラインが縦に細く二本、横に太く一本入っていた。
「ブラ、してんのか」
「こっちの方が、中也好みなんでしょ……?」
背中を向けられているから表情は分からない。けど声音的に、若干の恥じらいを持っている様子が伺える。あれ? この子こんな子でしたっけ大胆さは確かにリタだけど、そこに恥ずかしいって感情を抱くような子でしたっけ?
ノーブラってのがデフォになっていたから、本来付けるべきのブラを付けていないもんだと思っていたから、ちゃんと付けていた事に驚いて、付けている事に若干の興奮を覚えた。
挑発するような言葉に熱い眼差し。それでも、蠱惑的な誘いの中に、いつの日か見た苦悶の表情を捉えた。あの時と同じ、何かを後悔しているかのような、あの表情を。それでも、その表情はすぐにケロッと、普段の明るいリタの可愛らしい表情に変わっている。
「コーフンする?」
「ドキドキはするよ、流石に……」
「じゃあこのまま、ね?」
「このまま、ね? じゃなくてね?」
真の童貞はそんな簡単に落ちたりはしない。童貞なら落ちてるけど、真の童貞はこれが罠であり悪なのを見抜いているのだ。これは策略だ、陰謀論だ。そこに愛はあるんか!? 無いじゃないか! なら俺はいかなる場合でもできない!
「中也、シたくならないの?」
「う、うん……」
「ぜーったいウソだよぉ」
正直、このまま流されたい欲はあるよ。でも、心に誓った訳じゃないけど一方的に口説く相手がいるから。何もかも整理が付けられていない状況で誘惑されたからはい、致しましたなんて口説く相手に失礼だと思うから。いや、口説くって決めた時もある意味似たような状況か。まぁでも、そう簡単に落ちてたまるかって童貞のプライドもあるのは確かかな。
「中也の為に今日はブラしてきたのに〜。意味ないじゃん。シないなら取る」
「いや、そこは毎分毎秒毎日、年中無休で付けておいてくださいお願いします」
「だって窮屈なんだよ? 中也にはこの気持ち分からないよ!」
「分からないけど、健全な男子高校生には刺激が強いといいますか」
「って事は、少しくらいは中也に響いてるって事だネ! 口説き大成功だネっ!」
「だからこれは夜這いだっての」
口説けてるかどうかは置いといて、確かに俺の中にリタって存在は響いているのは確かだ。忘れる事はできない、無かった事にはできないくらいに濃い絡みをしたから。
「向こうじゃどうだか知らないけど、日本では下着は常に付ける物だからね」
「えー、今日久しぶりに付けたけど、やっぱり邪魔だな〜」
「ねぇ、流石に学校ある時は付けて行ってね……?」
いろんな意味で話題になっちゃうから! 良い方向と悪い方向の両方で話題になっちゃうから! てへっと軽く笑いながらリタは今日も失敗だぁと言いながら俺の部屋から出て行った。声音は普段通り、いつも通り、平常運転だ。だけど、その横顔やっぱり悲しみの感情に溢れて見えて仕方がなかった。
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