第3話 不埒三十六景③
放課後、ウキウキルンルンステップで生徒会室に直行した。扉を開けるとそこには……誰もいなかった。まさかの一番乗りですね。
いつもの席に腰を下ろして、溜まっている書類整理を始める。それからしばらくすると、ガラリと扉が開いた。
「あ、お疲れ様です」
「お……お疲れ様……」
頬を染め、視線を逸らして俺に挨拶をしてきたのは天王洲さんだった。いや、だからそれはもう付き合いたてのカップルのソレじゃないですかね?
俺は引き続き書類整理、天王洲さんはなんか書類の作成をしていて、ボールペンをスラスラと滑らせていた。次第に、なんだか昨日の事が嘘だったかのような、何もなかったかのような雰囲気になっていて、お互いに仕事に集中していた。
ただ、昨日からずっと考えて、そんな中で答えが出なかった事があるのは確かだ。それこそ、本人に直接聞くしか解決方法はない。
「天王洲さん、ここの書類に誤字があります」
「そう、印を付けておいて。後で修正するから」
「それと天王洲さん」
「今度は何かしら?」
「なんで昨日、ノーパンだったんですか?」
「…………」
やむ終えない事情が飛んでくるのか、それとも変態的な性癖思考が飛んでくるのかと思ったら、ボールペンが飛んできて、俺の顔の横を通って壁にぶつかって地面に落ちた。
「いやいやいや……だって気になるじゃないですか普通に……? むしろ逆だったら気になりますよね!?」
「へ、変態……!? なんて事を想像させるのよ!?」
「そんな変態行為してたの天王洲さんの方なんですが!? そこについてのコメントは頂けるんでしょうか?」
「そ、それはそれとして……い……言ってないわよね……?」
「え? 別にそれで妄想して抜いたりはしてないですけど」
「ち、違うわよバカ! 昨日の事、学校の人とかに言いふらしてないかを聞いたのよ!」
「あぁ、言ってないですよ。だからイってないですし、言ってもいません!」
「余計な事は言わなくていいから……」
そして小さく変態と言われてしまった。その言葉、どの口が言うんですかね? 悪いのは上の口ですか? それとも下の口ですか? どっちも問題ありましたけどね。
別に他者に漏らした所で俺に得なんて無いだろうし、むしろ俺だけが知っているというアドバンテージをみすみす自ら手離すわけ無いだろうが。
「どうして……言ってないの?」
「別に、メリット無いからですよ」
「メリットなら……あるんじゃないかしら……」
「例えばどんな?」
「それをネタに……私に迫る、とか」
「あぁ、でもそれって搾取じゃないですか?」
「え?」
「恋心の搾取ですよ」
あくまで、相手の意思をしっかりと聞きたいのだ。俺が責任取ってくださいと言った時、そーゆーのは無理と彼女は言った。自分の事を知りもしない相手が、上っ面だけの情報で自分を口説こうとする事が嫌いなのだ。
なら、実に卑劣で卑猥で不埒でも、他の誰よりも彼女の内側を知っている俺ならば、まず口説くだけの権利は貰えるのではないかと思った。
「俺は天王洲さんの気持ちを尊重しますよ。ただ、あくまで天王洲さんが昨日、自分の事を知りもしない相手に迫られるのが嫌と言っていたので、少なからず俺は他の人よりは天王洲さんを知っているから」
「それは……そうだけど……」
「急がなくていいんです。結婚とまでは言いませんし、まずは結婚前提の恋人から始めてみるのは?」
「めちゃくちゃ急いでるじゃない……でもやっぱりごめんなさい……今はその気持ちに応えられないわ」
「今はって事は、これから先の未来に可能性はあるって事でいいんですよね?」
「え?」
「これからも口説いていい許可をください。そこから付き合うかどうかは俺のアプローチを見て天王洲さんが決めてください」
「そ、それなら……いいわよ」
いいんだ? なんか知らんけど、男にめっぽう厳しいって聞いてたけど、なんかあっさりと近づける許可を得てしまった。これで天王洲さんを口説く事は公認で、認可されて認定されたのだ。
「あ、それと天王洲さん」
「な、何……?」
「結局、なんでノーパンだったんですか?」
「………………」
「ん?」
「誰にも……言わない……?」
「言いませんよ」
「開放感……が……あるから……」
とんだ変態さんだった。開放感を求めて、なんならちょっとしたスリルも楽しんでる節あるかもしれませんねこの人。
「てっきり忘れてしまったとか、そういう理由だと思ってましたが。まさかそっち系とは」
「下着を履き忘れるなんて、あり得るかしら?」
「ちなみになんですけど、今は流石にパンツ履いてますか?」
「………………」
「………………」
「履いてる……わよ」
この人、今日もノーパンですよ。やべぇ、なんかすっごい興奮してきた。けど、手は出せない。でももう一度それを見てみたい眺めてみたい凝視したい気持ちはめちゃくちゃある。
「天王洲さん、脚立乗ってあそこのファイル取ってください」
「な、なんで私が!? 自分で取りなさいよ」
「ほら、俺まだ一年ですし、どのファイルか分からないので」
「そうやって、また私のアレを見るつもりなんでしょ!?」
「いや、でも今日はパンツ履いてるんですよね?」
「それは……そうだけど……」
「なら、いいじゃないですか」
「だ、ダメに決まってるじゃない……!」
何がいいのかはまったく、これっぽっちも如何程にも分かっていない。生がダメだからパンツならいいってどんな理屈だよ。けど、言ってみれば案外見せてくれるかもって淡い期待をしたが、流石に淡く儚くその願いは散っていく。
みんなの憧れであり理想である彼女は今日もノーパンで開放感とスリルを味わい、それを知っているのは本人に以外では俺だけで、そんな優越感に浸りながら、今日も天王洲さんと仲良く楽しく会話をするのであった。
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