第12話 笑い
「はあ、はあ。」
どうにか切り抜けることができた。いつも寝過ごしていたことが功を奏したな。
それで脚力が鍛えられた。えっ。褒められたことじゃないって⁉いいじゃないか。助かったんだから。
それよりも、俺はさっきの場所に足を進めていた。あの場所に着き辺りを見渡す。驚くことに誰もいなかった。
「えっ。」
俺が呆然していると、岩陰からかすかに声が聞こえてくる。どうやら身を隠していたみたいだ。一瞬焦ったぞ。
「ロガ、こっち、こっち。」
そちらに向かうと、レクスともう一人。ディタがいた。そしてディタが口を開いた。
「なんで、助けたのよ。私あなたにひどいこといっぱい言ってたのに。」
開口一番それかよ。他に何かあると思うのだが。
「何でだろうな。気まぐれだよ。」
正直にいうのが癪だった。だから俺は答えを曖昧にした。それに正直に答えれば、こいつの傷を抉るだろう。
「・・・ありがとう。」
ディタは下を向いて顔を隠しているので、表情がわからない。ただ、なんとなくディタがどんな表情をしているのか察しはついている。
「私、私ね・・・」
ディタは俺に何か言おうとしている。おそらく何かあったのか話そうとしているのだろう。俺は聞きたくなかった。だから拒絶した。それを聞いたら怒りを通り越してしまいそうだから。
「いい、いい。嫌なら話さなくていいよ。それに・・・なんとなくわかる。」
「はははっ。そうよね。あんたでもわかるわよね。・・・情けないわ。」
馬鹿にするような言葉。それは俺ではなくディタ自身に向けた言葉のように感じた。
「あんたも行っていいわよ。私のこと放っておいて。」
俺をいやすべてを拒絶する言葉。俺はそれに抗いたくなった。気まぐれだよ。ただ、こいつがいつもしてきたことをするだけだ。
「はあ、疲れたな。ここで休憩しよっと。」
ディタの隣に無理矢理座る。
「ちょ、ちょっと放っておいてって言ったじゃない。」
「何のこと?俺は疲れたから休憩してるだけだけど。」
ディタはまた下を向く。そして一言”バカ”と吐き捨てた。
そこに余計な一言が飛んでくる。その声の主はジト目していた。
「ロガ、やっさし~い。」
ボカ
「いったー。何するんだよ。褒めたのに、ひどいじゃないか。」
「うるさい。お前が悪い。」
「ボクが⁉なんで、ねぇロガ何で?」
レクスが問い詰めてくる。なんでと聞かれると困る。なんとなくその言葉は不要な気がした。それに言葉というよりこいつの表情にいら立ったのだ。
「ああ、うるさい。わからないならいいよ。頼むからもう黙っててくれ。」
「ええ、いいじゃん、教えてよ~。」
またレクスはジト目をしている。こいつわかってて聞いてきてるな。もう一発食らわしてやろうかと思ったその時思いもよらないものが聞こえてきた。
「ぷっ。あはははははっ。」
ディタが笑い出したのだ。
「ちょ、静かに。また魔物が集まってくるだろ。」
ディタは口に手を当て必死に抑えようとしているが一向に止まない。辺りに木霊してしまう。
「わ、わかってるんだけど、お、抑えられなくて。」
恐る恐る岩陰から顔を出す。案の定そいつらはいた。
「ああ、もうなんでこうなるんだよ。おい、逃げるぞ。」
俺はディタの手を取り、駆け出した。まだ、ディタの笑い声は辺りに響いていた。
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