第9話 騒がしいやつ
振り返るとそこには同い年ぐらいの女の子がいた。
しかし、何で俺の名前知ってるんだ。
「誰だっけ?」
「ほら、同じクラスだったディタ・グラセだよ。忘れたの?」
レクスが教えてくれる。そういえば見覚えがあるような。
あのポニーテールの髪の毛。それにこの声。先生に花束を渡してたやつか。
「ああ、あいつか。」
「”ああ、あいつか”じゃないわよ。クラスメイトの名前と顔すら覚えてないの?
はあ、あなたは相変わらずね。」
「そりゃどうも。」
「褒めてないわよ。」
確かにこんな奴もいた。それにこいつは何かと俺に食って掛かってきた。
俺は何もしていないのに。クラスでは2番目ぐらいには覚えている方だと思う。
「まあ、いいわ。それよりあなたダンジョンいくつ攻略したの?」
「まだ、ひとつも。」
ディタは勝ち誇った顔をしている。
「まだ攻略していないの?遅いわね。私たちはもう3つも攻略したわよ。」
辺りを見渡すと、何人か側でたむろしていた。それにあのお調子者もいた。
おそらく噂になっていたのはこいつらのことなんだろう。
「へぇ。そうなんだ。すごいな。」
「何よ。その気持ちの籠っていない言葉は。」
いや、俺は普通に言ったつもりなんだけどな。
そういう風に聞こえたか。気に食わなかったらしい。
「それにしてもあのダンジョンに挑もうとしている人が、まだ一つもダンジョン攻略していないなんてね。あのダンジョンなんて夢のまた夢ね。」
馬鹿にしているような、それでいて残念がるような声。
ただ、俺はその言葉自体にイラついた。
「おい。それ以上言ったらただじゃおかないからな。」
自分でも驚くほどにドスの効いた声が出していた。
よっぽどさっきの言葉に腹が立ったらしい。自然と言葉を発していた。
「な、何よ。」
ディタは俺の声にたじろいでいる。
さっきまでの威勢はなんだったのかと思うほどだ。
面倒臭いし、この空気を変えるか。指を空中に滑らす。
「フウァール」
はあ、風が気持ちいい。色々なものが舞い始める。そう、色々なものが。
俺は視線を下に向ける。砂埃が目に入るとまずいからね。
「キャー‼あんた何するのよ‼」
「あっ。縞々だ。見てよ、ロガ。縞々だよ。」
ふむ、縞々か、これも悪くない。
風も止み顔をあげると、顔を真っ赤にして歯を食いしばっているディタの姿があった。
「んんんんっ。」
何だか俺を殴らんばかりにこっちを睨みつけ近づいてくる。
すると、別の者の声が聞こえてくる。
「おい、何遊んでるんだよ。そろそろ行くぞ。」
あのお調子者がディタを呼んでいたのだ。寸でのところでディタは振り返って答えた。どうやらあの拳の餌食にならずに済んだみたい。
「はっ。・・・う、うん。今行く。」
こいつらの力関係は明らかだった。ディタはこちらに視線を戻す。
表情がコロコロ変わるやつだな。
「ふん。あんたなんか一生ダンジョン攻略できないわよ。ベーだ。」
捨て台詞を履いてあいつらの元に戻っていった。
はあ、何なんだよ、あいつ。俺のこと嫌いなら話かけなければいいのに。
面倒臭いやつだな。
嵐が去ったみたいに辺りは静けさに包まれている。
まあ、小雨程度の音は聞こえてくるが。
「ロガ、大丈夫?」
「何が?それよりダンジョンに向かうぞ。はやく行かないと日が暮れちまう。」
ただ、あいつらが言った方向が気になる。
同じダンジョンを挑むことにならなければいいが。
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