覆水、何処へ

 *


 四人は行きと同じく一昼夜かけて来た道を戻り、調査隊本部へと帰り着いた。

「ただいまー! ……って、あれ?」

 ルアンは凱旋よろしく意気揚々と帰還の挨拶をしてその扉を開けたものの、それは空振りに終わった。本部が無人だったからだ。

「おれ達が一番乗り? ってこと?」

 誰もいない本部内は、依頼の内容を聞いていたあの時よりも随分と広く見えた。

「ですかね。一番難易度の低い場所を任されていたわけですし、順当かもしれませんが」

「そっか。難しい方が調査そのものも戦闘も大変になるのか」

 基地に張り巡らされた罠が膨大な量かもしれないし、雑魚に分類される蛮族でも、自分たちの経験でいうボルグくらいの強さを備えているのかもしれない。雑魚は数の多さで個の弱さをカバーする。束になってかかってくるボルグという図を想像したダビはうわあ、と身震いした。


「しかし、何も言わずに帰るのもな」

 依頼は無事に遂行したうえ、今回の依頼の窓口自体は〝向日葵亭〟のビアンカである。依頼に伴う前後の事務処理は窓口たる彼女の領分であるため、結果を報告する義務がある先は、実を言えばビアンカだけになる。よって、ここで何も言わずに帰っても、特に何の問題もない。もちろん、依頼者本人であるランバージャックたちにも報告を上げておけば、ビアンカが「正しく依頼が遂行されたのか」という事実確認をする手間が省けるので、それは推奨される行為でもあるのだが。

 しかし、そのような事情を抜きにしてもフェンネルは、遺品として持ち帰ってきた種と手記のことを、この調査隊本部にも報告しておくべきだと考えていた。この調査隊が本来調査対象にしている【夏知らずの花園】と、シアに聞きかじったその性質を鑑みると、あの植物の種は、この調査隊に無関係ではない気がしたからだ。

 フェンネルの思案する顔を見て、シアはそれならば、と一つの提案をもちかけた。

「本部の備蓄を拝借しながら、誰かが帰ってくるのを待ちましょうか。三日も経てば誰かひとりくらいは帰ってくるでしょう」

「本部は好きに使っていいって言ってたしね。……ここの食糧、おれ達で食い尽くそうと思ったら一か月はかかるくらいあるよ」

 食糧保管庫を見つけ、その中を確認したダビが、備蓄量に驚いている。山の上に位置し、食材を調達するにも一苦労するこの場所で、筋骨隆々の冒険者たちが存分に戦えるほどに腹を満たすには、常にこれくらい置いておかないと回らないのだろう。

「じゃあ、ありがたく待たせてもらうか」

 ここに泊まると決まったが早いが、ルアンは部屋の隅に積まれている、仮眠用と思われる布団へと飛び込む。

「おふとんふかふか!」

「待て、はしゃぐのが早い!」


 そして一行は本部を借りて寝泊まりしながら、調査隊に属する冒険者たちの帰還を待った。しかし、何日待てども、本部には誰ひとりとして帰ってこなかったのだった。


(to be continued)


「……どうしたんだろ?」

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