スタートライン
*
一応周囲を警戒しつつも、調査隊本部の前で休んでいると、やがて森の向こうから人のざわめきが聴こえてきた。調査隊の面々が戻ってきたのだろう。そのタイミングで、ダビも獣変貌を解いて、人姿に戻った。
そして調査隊の姿が見えはじめた頃、調査隊の先頭に立っていた男性もこちらに気が付き、一行を冒険者だと認めると、足早に駆け寄ってきた。
「もしかして、君たちが輸送の依頼を受けてくれた冒険者かい?」
「あ、はいっ」
その問いかけにはシアが答える。
「僕はこの調査隊に所属する者だ。代表して礼を言うよ」
彼はアカマルと名乗り、感謝を口にした。
「いえ。あ、物資はこちらです」
「はい、どーぞ」
シアに促されたルアンが、頼まれていた物資一式をアカマルに手渡す。
「――うん、確認した。ありがとう、助かったよ。それにしても、随分と早かったね?」
おかげで、まだ来ないと思って本部を空けてしまったよ、と彼は笑う。
「ちょっと近道をしまして。ロッククライミングしたりしましたけど」
「それはまた大胆な。……この子も?」
アカマルの視線を受けたルアンは、にぱっと笑った。
「うん! がけのぼるの、たのしかった!」
「そうか、君は元気な子なんだな」
それじゃあ、と踵を返されかけたところを、シアが慌てて止める。
「あ、あの」
「ん?」
「これを。……途中で遭遇した蛮族が持っていたんです」
シアは、初日にあの小屋で見つけた地図の束を渡した。それを確認した彼の顔色が、先ほどまでとは一転、深刻なものになる。
「これは、……【花園】を調査した形跡?」
「はい。それから、調査隊やこの本部の情報も知れていたようです。だからか、私たちがここに着いたとき、ちょうど襲撃しようとしていた蛮族に遭遇しました」
「! もしかして、君たちが対応を?」
「ギリギリでなんとか。おかげでこんなへとへとなんですけど……、すみません」
「それは……、ありがとう。周囲の警備を強化しなければならなさそうだな」
アカマルは、ギルドメンバーらしい鎧姿の男性を呼び、その情報を共有した。その男性が頷いて去っていった後、アカマルは再びシアたちに向き直る。
「今回は本当にありがとう。本部を守ってくれた功績の分、報酬にちょっと色を付けてもらえるよう、僕からも上に進言させてもらうよ」
「いろ? なにいろにぬるの?」
「はは、何色にもならないよ。ご褒美がちょっと豪華になるよってこと。期待しておいて」
アカマルは、かわいらしい勘違いをしたルアンの頭を撫でながら、言葉の意味を説明する。
「え、ごほうびふえるの! やった!!」
一拍遅れて意味を理解したルアンがはしゃぎ、その様子を何とも言えない表情で見ていたフェンネルが口を開く。
「キミはほんっとうに元気だな……」
少し休んだとは言っても、先程の蛮族との戦闘は、全員がかなり消耗した。ルアンも、身を挺してダビの体力を温存できるよう戦っていたため、割と体力を削られていたはずだった。フェンネルの目は、どこにそんな元気が残っているのだ、とでも言いたげだ。
ルアンはフェンネルのそれに対して、きょとん、と効果音がつきそうな角度で首を傾げてこう言った。
「だって、まだあばれたりない」
「……あれで!?!?」
「なに何、どーした、そこの新入り達」
その後、詳細を聞いた調査隊にいた先輩冒険者たちの笑い声が、本部に響き渡ったのだった。
(to be continued)
「そういえば、君たちの名前はどうする?」
「……うーん、どうしましょうね」
「じゃあまだしばらく新米ちゃんね。ふふ、今回はお疲れ様」
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