ロックダウン下の生活
『プライベート ビン マールボロ ピノ ノワール
2020
ヴィラマリア』
以前にもワイナリーの紹介をした上に本編でも登場するので、ここでは詳しい話は割愛するが、今回は赤ワインのピノ・ノワールだ。
クラスはプライベート・ビン、デイリーワインに使われるボトムレンジになる。
ちなみに、この年のワインは本編のロックダウン中に造られた。
では、早速開けてみよう。
むむ?
寒すぎるせいか香りが全く立ち上ってこない。
寒さでワインが縮こまり、僕自身の嗅覚も封じられてしまっている。
それならば、暖房を全開にして部屋を暖めつつ身体も解きほぐしていく。
全てが暖まってきた頃、再びグラスを手に取る。
淡い色合い、グラスからはほのかにラズベリーのように軽やかな赤い果実の香り、味わいもまた軽やかで渋みはほぼ感じることはない。
酸味も感じやすくラズベリーのように爽やかで、いくらでも飲めてしまう優しい味わいだ。
※開けてから二日目の方が、より香りと味わいが開いてきた。
ラズベリーだけではなく、レッドチェリーやスパイスのような様々な味わいが表れた。
『ラムチョップの香草焼き』
ニュージーランドといえば、人間よりも羊の方が多いことで有名だ。
そんな国らしく羊を食べてみよう。
味付けはシンプルに焼くだけだが、それだけではつまらないので
ラム肉は独特なクセのある匂いがするので、ニオイ消しにハーブやスパイスが使われる。
その基本に従う。
骨付きのラム肉に塩コショウで基本の味付けをし、ローズマリー、オレガノ、バジルとナツメグ、適当にハーブとスパイスをブレンドして寝かせる。
それなりに馴染んだらオリーブオイルで焼くだけで完成だ。
では、実食。
あれ、しっかり焼いたと思ったが意外や意外、切り口から血が滴るレア、尤もラム肉はしっかり火が通っていなくても大丈夫なのでこのまま食べる。
下味が染み込み、ハーブも効いていたので、臭みもきつくなくて食べやすくなっている。
噛みしめる度に血肉が柔らかく砕かれていく。
ワインとともに合わせれば、五臓六腑に染み渡るようだ。
シンプルな味付けだからか、軽やかなピノ・ノワールでも食に彩りを与えてくれる。
肉が小さくて少々物足りないが、必要最低限の量でも食事を楽しむことはできた。
何がなくとも最低限度さえ満たされれば、人は生きていくことはできる。
☆☆☆
ロックダウンの開始日、その日からワイナリー内で共同生活が行われたのだが、まずは荷物を持っての大移動からだった。
僕はちょうどその日は休みのシフトだったので、当日のバスに乗っていくことはできなかった。
しかし、ワイナリーから迎えの車が来たので問題なく向かうことができた。
僕と同じように別の班の休みだったメンバーも同じように車に乗り込んでいた。
僕はそれほど荷物を持っていなかったのでラクラクだったが、人によってはスーツケース以外にダンボールをいくつも運ぶ羽目になっていた。
ワイナリーに到着するとシフトに入っているメンバーが働いているので稼働はしていた。
だが、仕事をしているのは昼シフトのメンバーたちだ。
僕たち夜シフトのメンバーたちが集まると、ワイン造りだけではなく、ワイナリー全体の工場長の立場にあるクリス氏に連れられ、敷地の裏側へと向かっていった。
「Welcome to The Campervan City!」
そこには壮観な光景が広がっていた。
クリス氏によって案内された裏手の空き地には、ずらりと
それもかなりの大きさ、小型バス並ではなかろうか。
「さて、誰が一番がいい? ……ってその前に中も見るか?」
順番に一番手前に置いてあった車両の中を覗き込むと、その設備は必要最低限だったが住むには十分であった。
シャワー、冷蔵庫付きキッチンは当たり前、ソファーにテーブルもあり、ソファーを畳むとベッドが完成する。
ちゃっかりとエンブレムはメルセデス・ベンツ、動く1LDKであったのだ。
こうして、キャンピングカーの配置図に次々と誰が入るのか決まっていく。
誰であって、誰たちではない。
この1LDKを一人一台使って良いのだ!
昼シフト、夜シフトが交互に住む場所が配置されることで、ソーシャルディスタンスや睡眠などの配慮もされ、夜シフト全員の配置は決まった。
そうして荷物を運び込み、仕事のあるメンバーは仕事へ休みのメンバーはこのままくつろぐことになった。
僕はとりあえず住む準備、どれだけ豪華であっても水は蛇口を捻れば自動的に出るわけではない。
車両に取り付けられたタンクに給水をする必要がある。
だが、これは簡単にできる。
各キャンピングカーの目の前に給水パイプがすでに引かれていた。
そこにホースを繋いで給水コックを撚るだけでできる。
お湯を出すために各車に小型のプロパンガスも取り付けられ、電気も仮設電柱から電源を取るだけでいい。
専用の仮設トイレもあり、清掃業者も雇っていたので毎日掃除されていた。
食事もランチ(夜勤なので夜中だが)がケータリングされ、ディナー(時間的には朝だが)はワイナリー本部のあるオークランドのレストランシェフも呼ばれて作ってくれた。
やがてWifiも設置され、ランドリーもできた。
急ごしらえのインフラ設備だったが、まさに至れり尽くせりである。
なぜなら、これら全てが給料から天引されることもなく、全員に無料で提供されたからだ。
必要な時に必要な人に必要な物を迅速に。
この非常事態だったからこそ、世界に名だたるワイナリーの一角の底力を見せつけられた。
いくら政府からお達しがあり補助があるからとはいえ、この対応力は日本に帰った今、驚異的なことだったとしみじみと思う。
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