次世代のちから
『ブレッド&バター シャルドネ
2020
ブレッド&バター』
「次世代ワイン界のロックスターになるべく、つまみを最大まで回した大音量のアルコールを届けることさ」
そんな挑戦的でロッケンローラーな新しいカリフォルニアのワイナリーだ。
その名にあるブレッドは、ワインでは樽由来のトーストのような香ばしい風味によってボリュームが上がる。
バターはMLF、アルコール発酵の後に起こる、乳酸発酵のことである。
乳酸発酵によって尖った酸味はまろやかになり、バターのような風味とともに味わいにボリュームが出る。
つまりその両方を強く行うことで、ハードロックな白ワインとなるわけだ。
では、ミュージックスタート!
イントロである色合いは輝く黄金色、スタートからハードな曲調だとわかる。
続くAメロ、Bメロにあたる香りはどうだろうか?
……うむ、名前そのままブレッド&バターに支配されたように、アップテンポなビートが刻まれる。
さて、サビである味わい、これはスパイキーな髪型のボーカルがヘッドバンギングをしているように濃厚で激しい厚みを感じる。
エンディングである余韻、いつまでも耳に残るハードなメロディ、口内はいつまでもブレッド&バターを噛み締めているかのようだ
簡単に説明しよう。
それだけ恐ろしく濃い白ワインだった。
『鴨肉のニョッキ』
ニョッキ、じゃがいもと小麦粉を混ぜ合わせて作るパスタだ。
正直に書こう。
自分で作ることはしばらくは無いだろう。
これがまた大変な手間なのだ。
火の通ったいもをマッシュして小麦粉と卵と味付けして混ぜて捏ね合わせて形を成型し、茹で上げる。
文字にすればこれだけだが、時間は無情にも過ぎていく。
ソースはパスタと同じ基本のトマトベース、ベーコンの代わりに鴨肉にするだけだ。
こちらはササッと簡単に作ることができる。
そうして、茹で上がったニョッキをソースに投入して完成だ。
トマトの酸味、鴨の脂や炒めた玉ねぎの甘味の染み込んだソースとニョッキのもちもちの食感がたまらない。
手間を掛けただけあって、余計に美味く感じるものだ。
そうしてワインと合わせる。
鴨肉は基本的にピノ・ノワールのような酸味の効いた赤ワインと合わせることが多い。
しかし、濃厚な白ワインとも合うと思う。
鴨は脂の多い肉である。
それ故に、白ワインの酸味が脂のクドさを和らげてくれるというものだ。
定石を外れてもうまくいくこともあるのもワインの面白さでもある。
騒がしいワインも食事を一つの世界を活性化させていくかのような若者の力強さを与えてくれる。
そんな若い力はどんな世界でも大事だと思う。
☆☆☆
衣食住が確保され、本格的にロックダウン下でのワイン造りが始まった。
僕は夜シフトだったので、日が沈む前にキャンピングカーで着替え、仕事の準備を始める。
始業前に同シフトのメンバー全員がガタガタと動き出すため、寝坊などで遅刻することはまず無いだろう。
準備が整えば、ゾロゾロとワイナリー入り口のゲートに向かう。
途中の出口部分には昼シフトのメンバーがゲートの前に集まっていた。
昼と夜のメンバーを完全に分けるための措置である。
ヘイ! と挨拶だけを交わして通り過ぎていく。
広いワイナリーの敷地なので、キャンピングカー村から入り口まで徒歩5分はかかる。
そのため途中の道のりで仲の良い者同士話をしながら歩く者たちもいる。
「ソーシャルディスタンス、2メートル!」
各シフトをまとめる現場監督のような上司に見つけられ、注意のお小言が飛ぶ。
そうして入り口のゲートに到着だ。
ここも始業時間までは厳重にロックされ、許可された者以外は完全に立入禁止だ。
有刺鉄線付きのフェンスは元々あったが、ロックダウンの状況下で見るとゾンビの大群に囲まれても大丈夫に思えるほど物々しい。
現場監督のような上司がゲートを開けると入場となる。
その後、休憩室の前で待機となり、現場監督のような上司が昼シフトの同じ立場の相手と引き継ぎを行う。
引き継ぎの書面と昼シフトのメンバーが誰も残っていないことを確認し、夜シフトのメンバーはそれぞれのチームの集合場所へと向かう。
集合場所に同じチームのメンバーたちが集まってくる。
そこにはホワイトボードがあり、昼シフトからの引き継ぎ事項が書いてあったり、やり残した仕事があれば指示書が貼り付けてある。
チームリーダーがこれら以外に仕事がすぐにあるかどうか、現場監督のような上司に確認に行く。
こうした手順を踏んだ後、ようやく末端の僕たちに仕事が振り分けられるわけである。
当初はチームリーダーは、以前にほんの少しだけ触れたチェコ人女性がなるはずだった。
しかし、コロナ禍による諸事情で昼シフトに配置換えされていた。
そのため、ここで働くのは二回目のアメリカ人の若者ガビちゃん(ちゃんはフェミニストに怒られるのでこれ以降はやめておこう)が代わりにやることになった。
元々は副班長の立場だったので妥当だろうし、実際にこの非常事態を乗り越えていく能力を発揮する。
次世代を担う若者が、第一線で活躍していく。
これが世代を越えて発展していく企業であり、世界に通用する力強さがあるのだろうと思う。
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