4Vintage ニュージーランド南島 マールボロ
厄災の足音と終わりの始まり
『サペラヴィ
2018
シャルヴァ グヴァラマゼ ワイナリー 』
8000 年の歴史を誇る世界最古のワイン産地ジョージア、その伝統を守るワイナリーである。
このワイナリー、シャルヴァ・グヴァラマゼ自体は二十世紀後半創業なので、それほど古くはないが、その品質の高さは世界で認められている。
そして、ジョージアの代表的な土着品種サペラヴィで、クヴェヴリという素焼の壺を地中に埋めて醸造するという伝統製法で造る。
そのワインが上記になる。
では、この逸品を開けてみよう。
その色合いは実にダークな紫色、濃厚な味わいのワインだろうと予想される。
その香りは黒系果実チェリー系が強いだろうか。
それに加え様々なスパイスを感じる。
味わいは意外にも口当たりが柔らかく、果実の濃厚な風味が強い。
渋みもあるがきつくはなく、中心に芯を通すような酸味がまた次を飲もうと誘ってくる。
『ガーリック風味の牛ロース』
合わせる料理はど定番である牛ロースの赤身だ。
ロースは実に肉らしく濃厚な獣の旨味がある。
ガーリックソースで、味付けもストレートに濃い赤ワインに合わせやすいはずだ。
スーパーの安い肉なので、食べごたえバッチリなウェルダンで焼く。
特に凝った工夫はせずに、シンプルに焼くだけだ。
ガーリックのよく効いたこの風味、そして顎が鍛えられる食べごたえだ。
決して上等ではない肉、だからこそ濃い味の赤ワインと合うと僕は思う。
肉を咀嚼し、濃厚で滑らかな神の血が喉から胃へと押し流していく。
そして、赤ワインの持つタンニン分が咀嚼物を分解し、血肉へと変換してくれるのだ。
当然、美味い不味いは食事で重要視しても良い部分だ。
だが、もっとも重要なことは食したモノを吸収し、己の体へと作り変えていくことなのだ。
これが食の原点であり、生物の真の本能だろう。
さて、原点を感じるワインで食の原点を感じる。
何とも壮大な話のような気がするが、これはある段階まで来ると大事なことだ。
一つの区切り、つまり過去が終わり、現在の到達点で振り返る。
そして、未来が始まるということでもある。
僕自身の原点を振り返るキッカケは、この旅だったことは間違いない。
☆☆☆
チリの旅から帰ってきた後、次の旅の準備を始めた。
次はどこに行こうかと考え、様々な候補を探していた。
ヨーロッパの各国を探してみた。
世界最古のワイン産地ジョージアも行ってみたいとは考えた。
しかし、費用対効果という程大げさではないが、給料に対して旅費などの費用が高かった。
以前から繋がりのあった山梨県の某ワイナリーに遊びに行った時に、そのシーズンを手伝ってくれないかと誘われた。
住むところと移動手段があればね、と冗談めかして行ったところ、その当時の醸造責任者の行動力は凄まじかった。
その日の内に話は進み、社員寮と社用車を使っていいということになり、そうしてそのシーズンはそのワイナリーで手伝うことになったわけだ。
この間、僕はあることを考えていた。
ワインを造るということはどういうことなのだろうか? と……
ワインを造るためには、まずぶどうが必要だ。
ぶどうを造るためには、ぶどうを育てなければならない。
ぶどうを育てるためには、大地と太陽がなければならない。
つまり、ワインを造るということは、その土地に根ざしていくということ。
これがワインを造ること、ひいては人が生きるということの原点では無いだろうか?
ワインをただ造るだけならば、ぶどう農家からぶどうを買って造ることも可能だ。
だが、それだけでは僕には大事な何かが足りないと思う。
その何かを手に入れるために、そろそろ次の段階へ行こうと考えていた。
旅を終え、一処に落ち着く。
僕はその場所の候補を考え、その結果、旅の終焉の地を決めた。
今回の旅の始まりの地、ニュージーランドである。
すでに一度就労ビザで働いたことがあったので勝手が分かっていた。
働く場所も決まり、ビザの手続も着実に進んでいった。
出発の準備も整い、今回は何も問題なく、全てはうまくいくだろうと思っていた。
しかし、この年の幕開けから世界には不穏な空気が渦巻いていた。
僕も多くの人々と同様に、この渦に巻き込まれることになる。
世界を大震撼させることになる厄災の足音が聞こえ、そして、僕とっては旅の終わりの始まりでもあった。
時は2020年、コロナ禍の始まりだった。
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