また一つ道の先へと進む

『マンサニーリャ ラ ゴヤ シェリーパロミノ

 NV

 デルガド スレタ』


 今回はちょっと変化球をと思い、酒精強化ワインのシェリーにしてみた。

 シェリーもワインの一種ではあるが、独特な製法でアルコール度数が引き上げられる。

 その製法や区分は、教科書を読むようで眠くなると思うので割愛する。


 では、グラスに注いでみよう。


 通常のワインに比べれば濃く、黄金色に近い。

 が、シェリー酒の中では比較的軽やかですっきりした辛口タイプのものだ。


 その香りは良い意味では炒ったアーモンドのような香りではあるが、通常の白ワインを飲み慣れていると酸化した匂いにウッとなることだろう。

 この独特な香りは好き嫌いが出る。

 僕はそれほど多くは飲めないタイプの酒だ。

 

 シェリー酒は癖が強いが、好きな人は好きであり、これもまたワインなのである。


『サルチパパスDX』


 サルチパパス、簡単にいうとポテトとカットしたソーセージを揚げた軽食のことだ。

 それだけだとつまらないので、チリのバーで食べたゴージャス版にしようとDXを付けてみた。

 マ◯コと全く関係ない。


 本当はじゃがいもから作ることができればよかったが、今回は冷凍フライドポテトを使った。

 ササッとポテトとカットソーセージを揚げ、塩コショウで味付けしてオレガノ少々を香り付けにしてみる。

 

 刻んだニンニクと玉ねぎを炒め、ケチャップとマヨネーズをかけて目玉焼きを頂上に乗せたら完成だ。


 では、実食。


 味わいは誰もが想像が付くだろうから特に多くを語ることはしない。

 実にジャンクな食事となったわけであるが、これが食が進むのである。

 油と塩っ気と炭水化物、太る食事は無意識に体が欲するのかもしれない。


 ワインと合わせるわけだが、すでに勝負は決していた。


 シェリーは、食前酒として有名である。

 食事前に飲んで胃を刺激して食欲を促進するわけだ。


 その効果たるや、胃を刺激され暴食と化した僕はモリモリと食べ続けた。


 合う合わないという話ではなかった。

 ただ欲望のままに貪る。

 そして、アルコールによって口内の脂分も洗い流されてさらに食が進んだ。


 飽くなき欲望と探究心、それが人が道を進んでいくための原動力となる。


☆☆☆


 異世界への旅も終わり、再びフェリペ氏宅にお世話になった。

 出国までの飛行機を待つまでの間の二日程であるが、図々しくもお邪魔した。

 土産話(笑)もそこそこに移民局へとすぐに向かった。

 

 ビザ申請の時に来たことはあったので場所はすぐにわかった。

 門番みたいなおっさんにスタンプがほしいんだけど、とよくわからないスペイン語で気合で頼み込んだ。

 

 すると、意味が無事に伝わってくれたのだろうか

 「ちょっと待て」と言われ、僕の渡した書類とパスポートを持って中へと消えていった。


 ほんの僅かな時間だったと思う。

 しかし、どうなるのか不安で喉が異常に乾いてきた。


 門番みたいなおっさんが戻って来ると、無骨に僕に書類たちを手渡してくれた。

 そして、グッとサムズアップをしてくれたことで、無事に全てが済んだことを悟った。


 たったのこれだけのことだった。

 この程度のために、あの野郎! と一瞬思ったがこれで肩の荷は降りたことは間違いない。

 これで日本に帰ることができるようになったわけだ。


 その夜、僕はフェリペ氏とともにヴィーニャ・デル・マルにあるスポーツバーに飲みに行った。

 そこではワインではなく、ビールや南米で愛飲されているブドウの蒸留酒ピスコのカクテル、ピスコサワーとともにサルチパパスをいただいた。


 このスポーツバーでは、サッカー・チリ代表のユニフォーム着た若者たちで賑わっていた。

 まさに大盛り上がり、これからコパ・アメリカ2019、奇しくも日本代表とチリ代表が戦うのだった。


 そして、店内の大画面から試合開始のホイッスルが鳴り響いた。

 店内だけではなく、軒を連ねる他のバーからも地響きのような大歓声が上がった。

 

 初めは悪くはない試合展開だったと記憶している。

 まず、チリの先制点が入った。


 店員たちが大忙しでビールの入ったグラスをそれぞれのテーブルへと配り出す。

 その理由は、チリ代表のユニフォームを着ている人には、チリ代表が点を取る度にサービスでビールを無料で提供するということだった。


 店側としては集客効果を期待してのことだっただろう。

 しかし、この戦略は裏目に出ることになった。


 なんとこの試合、チリ代表は4-0という大量得点の大差で日本代表を下したのだ!


 日本人としては申し訳無さでいっぱいだった(笑)


 そうして夜は更けていった。


 他にもこれがいつだったのか、記憶が定かではないが、フェリペ氏の双子ハビエルとともに海岸沿いの友人宅にお邪魔したこともあった。

 そこにある砂丘の頂上で日蝕を見ることになったのだ。

 フェリペ氏はこの時、別の友人とともに別の地域にキャンプをしながら日蝕を見に行っていた。


 この交友関係の垣根の低いラテンのノリにどれだけ助けられたことだろうか。

 フェリペ氏とその家族友人知人には、本当に感謝している。


 そのような日々も過ぎ去り、ついに出国日となった。


 フェリペ氏たちとは熱く握手を交わし、サンティアゴへと向かった。

 そして、今度こそ無事にチリを出国することができた。


 情に厚くも緩く変なところに厳しいラテンアメリカともこうしてお別れだ。

 行きとは逆回り、ロサンゼルス経由での帰国だ。


 南米チリでの修行の旅、色々とあったが生きて最後まで乗り越えることができた。

 それだけでも十分成功と言えるだろう。

 

 地球一周をついでにしつつ、この旅でまた一つ道の先へと進むことが出来たと思う。

 そして、探究の旅はまだ続く。


 第二部 3VINTAGE 完

 第二部 4VINTAGE へと続く


☆☆☆


 この旅では、ルームメイトで同僚のフェリペ氏に本当に助けられたと思う。

 情に厚く、物腰も柔らかい、そんな素晴らしい男だ。

 しかし、その恩もまだ返すことも出来ていない。

 この場を借りて感謝の言葉だけはしておきたい。


 さて、そんな彼も今では父となっている。

 素晴らしい家庭を築いてくれればな、と思う。


 旅はどんな巡り合わせがあるのかは分からない。

 人生もまた同じだろう。

 

 僕はこの出会いに巡り会えた幸運に


 ありがとう。


 この言葉でこの章を締めくくろうと思う。

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