大人しく、寝ろ!
『ラ・フロール・マルベック
2019
プレンタ・エステート』
20世紀初頭、イタリアからの移民であるプレンタ氏により設立された家族経営ワイナリーである。
家族経営とはいえ、その栽培面積は135ヘクタールもの広大な畑を抱え、海抜1000メートルから1200メートルの高地に位置し、アンデス山脈の雄大な自然の恩恵を受けている。
では、このワインを開けてみよう。
マルベックというこの品種らしい実に深い闇のような漆黒な色合い。
プラムのように明るい果実の香り、名前の通りラ・フロール、花のように豊かな風味だ。
吸い寄せられる蛾になった気分だ。
味わいも濃厚で、カシスのような熟したフルーツの凝縮感がある。
が、後味にコーヒーのようなほろ苦さも感じられる。
まさに肉料理に相応しいワインである。
『ミラネサ(牛肉のカツレツ)』
アルゼンチンのソウルフードらしい。
イタリア移民が持ち込んだミラノ風カツレツである。
トンカツならぬ、ギュウカツと言ったところか。
作り方はそれほど難しいことはない。
フライを作るだけだが、衣の中に細かく刻んだパセリを混ぜ込むだけだ。
パチパチっと油の弾ける小気味好い音ともに程よく色が変わっていくのを待つ。
そうしてカリッとしたフライの完成だ。
実食。
今回はAJINOMOTO(https://park.ajinomoto.co.jp/recipe/card/801636/)のレシピで作ってみたが、まあまあな出来だと思う。
サクサクとまではいかないまでも、カリッとした衣はうまく出来ている。
トンカツとは違って、牛肉の濃い味わいが口の中に広がる。
オーストラリア産の安物牛なのでやや筋張り、独特のクセのある匂いがやや気になる。
だが、ワインとともに味わえばこの安物牛肉らしい臭みも旨味へと昇華される。
主食が牛肉と呼ばれるほどの肉食国家アルゼンチンのワインである、牛肉料理との相性は抜群だ。
飲み食いが止まらない。
しかし、ワインの後味のほろ苦さによって、飲み過ぎは良くないことを思い出させられる。
☆☆☆
進撃を続けているワイン造りもピークを過ぎ、徐々に終息に向かい出していた。
収穫されるブドウもついに無くなり、発酵の終えたワインたちはタンクへ樽へと眠り始めている。
それでも、元々のブドウの量が桁外れに多いため、業務量はまだまだ多忙である。
肉体も精神も真の休息はまだ先の話だった。
そんな時に脱落者が出た。
同じインターンでアルゼンチン人女子がホームシックになり去る事になった。
もう一人、例のアナと色々とあったチリ人の若い男も、だ。
チリの安い給料でやってられるか、もっと給料の良いニュージーランドにワーキングホリデーに行くぜ、ということだ。
どちらも20歳そこそこという若さであるので仕方が無いのだろうとは思う。
だが、プロ意識というものはどうなのだろうかと思ったが、考え方はそれぞれ、ということにしておこう。
そんな二人ではあったが、給料日になる月末までは残って働いていた。
さて、南米もキリスト教が主流だ。
そういうこともあり、イースター休暇というものがある。
ここ、ヴェラモンテでは関係なく働いていたが、休みの職場がほとんどだ。
その日、僕は疲れ果て、いっぱい飲んでベッドに横になっていた。
「Yo、メーン! 何やってんだよ、パーティーが始まるぜ!」
と、去る予定のチリ人の男はテンション高く僕を起こしに来た。
その後ろに見覚えのある男がいた。
「な! お、お前は?!」
「フッフッフ、久しぶりだな?」
浅黒い肌をした若いヒゲダンディな男、1Vinetageで共に働いたメキシコ人だった。
何と、このチリ人の男とはワイン学校の同級生だったのだ。
SNSでここでの生活をアップしていたら、見たことのあるヤツがいるということで話になったそうだ。
この時は、メキシコ人の男はアルゼンチンのワイナリーで働いており、イースター休暇に遊びに来たということだった。
ワイン業界の世間の狭さ、というやつだ。
僕は空元気を出して起き上がった。
アルゼンチン女子もまた友人たちを呼んで騒いでいた。
僕もグラスを手に取って席についた。
しかし、この事を大きく後悔している。
1杯、2杯、さらにピスコというペルー原産の40度ほどの蒸留酒もあおり、やがて記憶が無くなった。
気がつけば朝となっていた。
一人のベッド起き上がることはいつものことだったが、その後が違った。
アルゼンチン女子を始めとするその友人たちが白い目で僕を見て避ける。
すぐには分からなかったが、悟った。
ああ、何かやらかしたな、と。
僕は自己嫌悪に陥り、教訓いや訓戒を得た。
酒は飲んでも飲まれるな。
疲れている時は大人しく、寝ろ!
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