進撃

『グラン パッシコーネ ロッソ オルガニコ

 NV

 マーレ マンニュム』


 2006年、イタリア・プーリア州に設立された比較的新しいワイナリー。

 イタリア以外にも世界各国でワインを生産している。

 マーレ・マンニュム社の究極の目標は、魅力的で革新的なパッケージを持った、優れたコストパフォーマンスの製品を生み出すこととされ、その情熱パッションによって進撃を続けている。


 では、こちらのマーレ産、じゃなかった、マーレ・マンニュムの赤ワインを開けてみよう。

 

 まるで血のようにダークな色合いだ。

 ベリー系のように明るい味わいとチョコレートのように甘さと苦味を感じられ、飲み口は軽やかで親しみやすい。

 

 飲んだとしても決して巨人化することなどなく、コスパに優れたワインだと思う。


『春巻き皮のエンパナーダ』


 エンパナーダはスペインから中南米へと広く伝わり、チリでは国民食と呼べるほど大人気だ。

 どこでもお手軽に食べることができ、どこに行っても買うことができる。


 巨大な餃子のような見た目だが、油で揚げる揚げ料理である。

 パン生地を基本とするが、今回はお手軽に春巻きの皮で代用した。


 エンパナーダは中に何を入れても大概合う。

 しかし、今回はオーソドックスにいこうと思う。


 ニンニク、玉ねぎを細かく刻み、薄くスライスしたマッシュルームを炒める。

 ひき肉を加え、塩コショウとともに炒めて味を整える。


 春巻の皮を2枚重ねてくっつけ、中央に先程炒めた具材を乗せる。

 ケチャップととろけるチーズをトッピングして、三角形になるように包みこんで準備は良し。

 後はこんがりきつね色になるまで油で揚げれば完成だ。


 キッチンペーパーに包んで惣菜パンのように手づかみで口に運ぶ。

 カリッとした皮の食感を破ると中からジューシーな肉の旨味がこぼれ落ちる。

 うまく食べることができないと手が脂でベトベトになるので、肉汁がこぼれ落ちる角度を考慮して頬張る。


 ここで自然とワインに手が伸びる。

 このワインは庶民向けに気軽に飲むことをコンセプトに造られている。

 テーブルマナーなど気にせず、飲みたいように飲み、食べたいように食べる。

 

 肩肘張ることなく気軽に食べる。

 これもまた食事を楽しむということだろう。

 この組み合わせは楽しく旨いものだった。


☆☆☆


 誰が去ろうと何があろうともブドウは待ってはくれない。

 忙しい日々は続く。

 連日ブドウは休みなく搬入されてくる。


 このままでは限界を突破してしまう、そう誰もが思っていた頃、気がつけば人員が増強されていた。

 そのメンバーはほとんどが地元民のチリ人の若者達、世界でも有数の最貧国ベネズエラ移民などであった。


 ワイワイガヤガヤ、音楽をかけながら踊る。

 仕事中でも構わず、にだ。

 

 それもそのはず、ワインへの情熱や知識などはない、未経験者たちだったからだ。

 

 ここ、ヴェラモンテはチリのワイナリーの中では比較的給料は高いらしく、短期の仕事の中では割がよい方らしい。

 金のために来たような人々だった。


 そのような素人集団ではあったが、それでも必要な労働力だった。

 

 ワイン造りは基本的に肉体労働がほとんどだ。

 例えば、発酵の終わった赤ワインの皮を大型のタンクからかき出し、プレス機に投入してさらにワインを絞る作業がある。

 その皮が何トンもあるので、体力と頑丈な肉体があれば重要な労働力となるのだ。


 彼らは主にそのような作業に割り振られた。

 僕も当然その作業をやることはあったが、これが大変だ。


 不用意にそのタンク内に入れば、アルコール発酵で生じた二酸化炭素で窒息死するが、もちろん安全が確認されてから中に入る。

 土方作業のようにシャベルでブドウの皮を外の入れ物にかき出していくわけだ。

 そのタンク内はアルコールが発生しているのでそれだけで酔える。

 

 その時に聞いたことのある言葉で音楽が聞こえてきた。


「あれ? 日本語Japones?」

『Si! Shingeki no kyojin!』


 この当時、某動画サイトで進撃の巨人がチリでも大人気だった。

 そのオープニングテーマをアニメオタクなボス・マルセロ氏が選曲したのだ。

 

 その音楽に合わせて、隣りのチリ人の若者やベネズエラ移民も歌い、テンションを上げていく。

 チリを含む南米にもオタク文化は根付いており、アニメオタクは意外と多いのだ。


臓を捧げろ!」


 ところどころおかしな日本語だったが、僕としてはひどく懐かしくどこか疲れが取れた気がした。


 僕は正直、彼らを素人集団と小馬鹿にしていた。

 もっとプロ集団と切磋琢磨したかったと落胆していた。


 しかし、文化や考え方、生き方の違う彼らと言葉がつながらない交流も悪くはない、そう思えた。

 ワイン造りへの情熱、それは大事なことだと思う。

 だが、それが全員同じで同じ方向を向いているわけではない。


 様々な人生を持つスタッフの生み出す調和ハーモニー、ワインとアニメ、創造による繋がりもまた良き味わいを醸し出すのかもしれない。

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