休日の過ごし方。

『カル カベルネ ソーヴィニヨン

 2019

 エミリアーナ・ヴィンヤーズ』


 チリ最大の1000ヘクタールもの有機畑を所有し、チリのワイン業界に剌激を与える革新的なワイナリーである。

 その広さは、東京ディズニーランドに換算すると20個分という日本人からしたら驚愕の数値になる。

 環境保護・社会貢献を理念とし、100%自社畑のブドウから高品質で環境にやさしいオーガニックワインを造り続けていると自負している。


 こちらのカルシリーズは、毎日の食卓で楽しめる、フレッシュでフルーティな口当たり良いワインとして造られているそうだ。

 では、実際に開けてみよう。


 濃厚な色合いのルビーレッド、いちごジャムのようにかなり熟された果実の香りだ。

 しかし、見かけによらずタンニンの渋味は柔らかく口当たりが優しい。

 ボディはそこまで厚くはなく、いくらでもがぶ飲みできてしまうタイプだ。


『ポジョ・アルベハド』


 チリの鶏肉の煮込み料理のことだ。

 チリでは家庭料理の定番で、どこに行ってもよく食べられていると思う。


 ニンニク、タマネギ、セロリを細かく刻む。

 チキンの両面をこんがり狐色になるまで炒め、一旦取り出す。

 それから刻んだ野菜たちを炒め、トマトペースト、コンソメ等々と煮込み、チキンも再投入する。

 ある程度味がまとまったら、グリンピースやコーンなどのミックスベジタブルを合わせて完成だ。


 お味の方であるが、野菜の旨味がよくソースの中に溶け込んでいて濃厚な味わいだ。

 それでも、セロリの香りが爽やかで口当たりが優しく、胃にもちょうど良い。

 鶏肉の脂がソースと絡み合い、食べごたえ満点だ。


 さて、ワインと合わせよう。


 うむ、これは危険な組み合わせだ。


 鶏肉にはこの赤ワインは少々濃いが、それでも食もワインも進んでしまう。

 ついつい食べ過ぎ飲み過ぎ、胃がはち切れんばかりになってしまった。

 

 しかし、ワイン造りは基本的に肉体労働だ。

 食事の活力がエネルギーの源になる。

 休日はのんびり食っちゃ寝をして力を蓄えれば良いのである。


☆☆☆


 ワイナリーでの仕事が本格化し、休みは週末の1日のみとなった。

 ワイナリー自体は休みなく稼働しているため、僕たちは交代で土日のどちらかを休日を取った。


 とはいえ、日々の激務のため、一日だけの休みでは何かをしようと思う気力と体力はない。

 自国民であるチリ人たちは、彼氏彼女家族友人に会うためにそれぞれの実家へと帰ってはいるが僕にはそのような相手がいるわけがない。

 僕は休日はのんびりと過ごした。

 リア充爆発しr……以下略


 この時に某なろう小説を読み始め、やがてカクヨムへと流れ着くわけだが、その話はこの章の終盤に語ろう。


 さて、のんびり過ごす、それもいずれは飽きてくるものである。

 僕は隣りに別のワイナリーがあることを知ったので、歩いて飲みに行ってみることにした。


「あ、わたしも行く!」


 出かけようとする僕を見つけ、インドネシア系オーストラリア人アナも一緒についてくることになった。


 しかし、隣りに立地しているワイナリーではあるが、その間には広大なブドウ畑が広がっている。

 ある程度歩きやすく整地されているが、それでも到着するまでに一時間近くかかった。

 

 真夏は過ぎ去り秋になっているが、寒暖差の激しいチリでは昼間はまだまだ炎天下に近い。

 快適な散歩とは言い難く、アナは色々と言っていたが僕は聞き流していた。


 そうして隣りのワイナリー、冒頭のエミリアーナ・ヴィンヤーズへと到着した。


 このワイナリーはかなりの生産量を誇るが、ワイナリーのテイスティグルームは落ち着いた雰囲気だった。

 長いバーカウンター、その奥にはラテン美女がいる。

 建物内にテーブル席が数えるほど、オープンテラス席を合わせてもそれほど多くはない。

 その分、ゆったりと座ることができた。


 この時に赤白ワイン5種類ほど試し、十分に堪能した。

 アナはワインの欠陥について指摘していたが、それもまたワインの飲み方だろう。

 僕の考え方は、ワインを楽しむ為には、長所短所も飲み込む度量が必要になるのではないだろうか、と。


 このような休日の過ごし方はまだまだ平和だった。


「ちょっとアンタ、何やってるのよ!」


 ある朝、アナの怒号が響き渡った。

 僕はルームメイトのフェリペとのんびりコーヒーを飲んでいる時だった。


 アナは頭に火がついているような勢いである男をまくし立てていた。

 その内容はこういうことだった。

 

 前夜にその男の誕生日パーティーをしていた。

 僕を含むワイナリーメンバーの多くが参加していた。

 普段一緒に働いているメンバー以外にも売店スタッフもいたわけだ。

 

 その男はある売店の女性スタッフと一夜を熱く過ごした。

 だが、それ以前にアナとも熱く過ごしたこともあったのだ。


「アンタはわたしと付き合ってるんじゃなかったの?!」

「え? 遊びだと思っていたけど?」


 と、男は悪びれることもなくあっさりとしたものだった。

 

 男女の情事、ワンナイトラブ


 ラテンの文化ではそのような出来事は日常茶飯事なのだろうか?

 リア充ではない僕にはその真実は分からない。

 分からないが、その結果、アナは嵐とともに去っていった。


 人間関係は難しいことは世界中どこでもあることだろう。

 社内恋愛の難しさもあることだろう。


 ま、僕には関係のない話だ。

 関係のない話だが、これだけは言っておこう。


 リア充爆発し……以下略

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