神の血に溺れる

ラテンの生き様

『マルケス デ カーサ コンチャ カルメネール

　２０１９

　コンチャ イ トロ』

　　南米最大規模のワイナリーにして、チリのプレミアムワインの先駆け的存在の大ワイナリーである。

　日本中のスーパーでよく見かける格安クラスのフロンテラやサンライズ、ワンランク上級クラスのカッシェロ・デル・ディアブロ、さらに最上級クラスまで幅広いブランドのワインを生産している。

　こちらのワインはこの中でも上級クラス、創業一族であるスペインのコンチャ侯爵家を称えて、「伝統」と「高貴」をイメージしているそうだ。

　だが、フワッとしたイメージよりも実際に開けてみる方が話が早い。

　カルメネールらしく実に濃厚な色合い、香りに華やかさはないがよく熟した黒系果実の感じがある。

　チョコレートのニュアンスがあり、濃いながらもどこか柔らかな口当たりだ。

　これが高貴、というやつなのだろうか？

　この適当な解釈で良いのだろうか？

　とりあえず、美味いと感じれば個人的にはどちらでも良いと思う。

『アサード風ローストポーク』

　アサードは基本的には牛肉だが、やんごとなき事情など何もなく、ただの懐事情である。

　日本では牛のブロック肉が高いので、豚肉で代用した。

　調理方法は特に難しいこともこだわったやり方も何もない。

　塩コショウで基本の味付けをしてローズマリーと焼いただけだ。

　これだけで肉は十分美味しくなる。

　豚肉なのでじっくりこんがりと焼いた。

　少々肉がパサつくがそれでも肉の旨味で幸福物質が分泌される。

　当然、このワインとの組み合わせは最高だ。

　どちらもよく進み、あっという間にどちらもなくなってしまった。

　次の日にも取っておこうと思ったのに、残念だ。

　しかし、今という時を楽しむことは出来たと思う。

　気分だけはラテンの陽気さで、ケチくさい自分を笑い飛ばしてしまおう。　

☆☆☆

　前回の終わりに波乱が始まるようなことを書いたが、申し訳ないことに今回はまだその時ではない。

　初仕事の話と歓迎パーティーについて話をしようと思う。

　初出勤はすでに果たしたが、仕事はその次の日から始まった。

　しかし、まだブドウの収穫が始まっていないので準備がほとんどだ。

　まず向かうは、現場事務所のようなところだ。

　そこに現場監督のようなベテランのセラーチームリーダーがいた。

　名をクラウディオという。

「Hola!　☆※＃……」

　よし、何を言っているのか全くわからないぞ？

　そう、現場監督クラウディオはスペイン語しか喋ることができなかったのだ。

　その下に正社員のような常勤のメンバーが班長的な存在になるわけだが……

　同じくスペイン語しかできなかった。

　とりあえず、自己紹介と挨拶だけは交わした。　

『ピストラだ』

「ピ、ピスト……？」

　背の高い陽気な褐色肌の若い男は、銃を撃つ真似をして身振り手振りで説明してくれた。

　後で知ったことではあるが、この名前はあだ名だそうだ。

『ポヨだ』

「え？　ポニョ？」

『ポヨ！』

　背の高い細マッチョな若い男も同じくあだ名だった。

　鶏肉という意味だ。

『マイケルだ』

　あ、普通。

　ほか二人と比べれば中肉中背ではある。

　これも後で知ったことだが、実はスペイン語だとミゲルと読むので、ある意味あだ名だろう。

　こうして、僕たちインターンはそれぞれの班に分かれて仕事をすることになった。

　ちなみに、前回の終わりに登場したアナとは別の班になり、良い人代表フェリペと樽部屋へと連れて行かれた。

　そこには二人の男たちがいて僕たちに作業を指示したり、必要な樽をフォークリフトで運んできたりした。

　そこでやる仕事は樽に貯蔵している目減りしたワインを注ぎ足す仕事、補酒だ。

　目減りしているのは誰かが盗み飲んでいるわけではなく、樽の木目を通して水分やアルコール分が出ていってしまうためだ。

　名前だけは有名な『天使のわけまえ』というやつである。

　特に急いで作業をする必要はなかったが、暗く寒くジメジメした中での作業ではあったのでどこか疲れてしまった。

　他の日には、機械の洗浄をしたり、瓶詰めをするワインを樽から出したり、今シーズンの始まる準備をしていった。

　その始まりの週末、僕たちインターンの歓迎パーティーなようなものが開かれた。

　僕たちの寝泊まりしている小屋の前のスペースでバーベキューだ。

　南米ではアサードになる。

　焚き火をし、ラテンの音楽に合わせて踊り、飲み明かす。

　今という時を全力で楽しむ。

　これがラテンの生き様なのだろう。