メキシコの記念日

『グリュエ ブリュット

 NV

 グリュエ』


 ニューメキシコ州で造られる高品質なスパークリングワイン、アメリカ南西部の温暖な地域にある。

 しかし、こちらのワイナリー、グリュエの畑は標高1300mという高地にあるため、有機栽培に適した冷涼で乾燥した気候らしい。


 では、開けてみよう。


 シャンパーニュという産地ではないため、シャンパンを名乗れないが製法は同じである。

 色合いは通常のシャンパンよりも黄色味が濃く見える。


 早速、一口含んでみる。

 泡はやや荒っぽく感じるが爽やかさもある。

 味わいは始めはフレッシュな酸味があり、全体的にリッチでボリュームがある。

 トーストを焼いたような香りが強いかな。


 総合的に考え、シャンパンよりもコスパは高いと思う。


『ビリアのタコス』


 ビリア、メキシコのオリジナルメニューでは硬くクセの強いヤギ肉を柔らかくするために長時間煮込んだシチューである。

 その煮込んだ肉をトルティーヤに包んだタコスである。

 他のタコスとは違う点は、肉とスパイスを一緒に煮込んだスープにタコスをディップして食べるところだ。


 しかし、残念ながらヤギ肉が手に入らなかったので、アメリカのように牛肉で代用した。


 では、実食。


 トルティーヤは、牛肉を煮込んだ際に出た脂でカリッと焼いている。

 中の肉は長時間煮込まれているのでほろほろ、スープに浸した部分はピリ辛なジューシーさだ。

 中に添えられたパクチーのフレッシュさとアボカドのクリーミーさが、辛さを中和してくれて食欲が増進される。

 それぞれ違う食感が混在していて面白い。


 そして、ワインと合わせる。


 タコスにはコロナビールがメキシコのオーソドックスなスタイルだろう。

 だが、スパークリングワインも乙なものだ。

 泡物は大概の料理と合うと相場は決まっている。

 泡が爽やかさを運んでくれるかのようだ。


 今回はかなりこじつけが強かったが、アメリカの中のメキシコを表現してみた。

 オレゴンも例外にもれず、メキシコ移民はかなり多くいる。

 それ故に、メキシコ料理は浸透しているのだ。

 

 僕が実際にその目で見たアメリカの中のメキシコの話をしようと思う。


☆☆☆


 次の週になったが、まだ収穫は始まらなかった。

 準備だけは着々と進み、サンプルを取ったブドウのデータから、週明けから早い品種が始まることは決まった。

 しかし、熟すまで遅い区画は収穫までまだまだだ。


 中仕事の準備はほぼ整い、僕たちは畑仕事に駆り出された。

 やる作業はグリーンハーベスト、ブドウの房の間引きである。


 当然のことであるが、畑内のすべての木、全ての房が熟す速度が同じな訳がない。

 早い遅いは確実にあるので、収穫までに明らかに熟さない房を切り落とし、残した房により多くの養分を凝縮させる。

 他にも房が密集していると病気の原因にもなる。

 その作業を行うことで、ブドウの品質向上を図ろうというわけだ。

 

 さて、畑にやってきた。

 作業自体はそれほど大変ではない。

 ただ、とにかく広いのだ。


 すでに、他のメンバーは作業をしていた。

 後で知ったことだが、常勤はわずか3名、他10名ほどはその家族か日雇い労働者ということだった。


 見事にメキシコ人しかいなくて、スペイン語が飛び交い何を言っているのかさっぱりとわからない。

 と、思っているとその内の一人が話しかけてきた。


「へーい、今年のインターン、日本人ハポネとアルゼンチンガールか?」


 僕よりも身体が一回り大きくいかつい男だが、気さくに話しかけてきた。

 この作業チームのリーダーらしく、スペイン語訛りはあるが英語で僕もまともに会話ができた。

 中には英語のできない日雇い労働者もいるのだ。


「ああ、そうだけど。何をすればいい?」

「そんなに難しいことはない。こうやればいいだけだ」


 と、見本を見せてくれた。

 そうして僕も作業に加わり、照りつける日差しの中、丸一日働いた。


「ああ、そうだ。明日、メキシコの独立記念パーティーやるから来いよ」


 帰り際だった。

 ちょうど休みの週末、僕は二つ返事で答えた。

 アルゼンチン人女性Mも同じく参加することになった。


「お、おお、これ、すげえ」


 現地、常勤のメキシコ人たちが暮らす畑の一角にあるシェアハウスに到着すると思わず感嘆の声を上げてしまった。

 てっきりホームパーティーみたいなものを想像していたのだが、ちょっとした縁日みたいになっていた。

 車も畑の中にまでずらりと並べられている。


「おお、よく来たな!」


 直接の先輩になるエベラルド氏が、典型的なテンガロンハットを被り、テンプレ通りのメキシコ人らしい格好をしている。

 ポンチョは着ていなかったが。


 中にはかなり多くのメキシコ人がいて、まるでここだけメキシコになっているようだった。

 屋台も並び、タコスやチュロス、ビールやテキーラも売られていた。

 中でも、豪快に地中のオーブンで蒸し焼きにする料理バルバコアにも興味を惹かれた。

 丸ごと一頭の山羊肉を使い、細かい肉や骨は煮込み料理のビリアに使われたそうだ。


 ステージではメキシコの民族舞踊が行われていたり、大盛りあがりだった。


 このような盛大な独立記念日パーティーができたことは、畑の責任者ジェリー氏がこの辺一帯のメキシコ人たちの有力者だかららしい。

 僕には詳しい話はわからないが。

 

 そのようにして夜は更けていった。

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