クーパー・マウンテン・ヴィンヤーズ
『アラモス マルベック
2019
カテナ』
世界的に高品質なワインを造り出すアルゼンチン最大級にしてトップ生産者である。
日本では、同じ南米のチリ産が圧倒的に多いが、アルゼンチンの生産量は同等以上だ。
その中でも、赤ワイン用品種マルベックは世界で最もアルゼンチンが成功している品種である。
マルベックは「黒ワイン」と呼ばれるほど濃厚な色合いが特徴の品種、見た目通り、パワフルで凝縮感のある味わいが特徴である。
では、こちらのワインを開けてみよう。
今回のワインは、プレミアムワインを造るカテナの中でもデイリーワインクラスのものだ。
しかしながら、それでも充分にしっかりとした作りだ。
濃厚ではあるが、タンニン分がまろやかで飲み口が良い。
イチゴジャムのように果実味が濃く親しみやすい味わいだ。
パワフルだが、気さくなタイプである。
『すき焼き』
アルゼンチンは牛肉の消費量は世界でも一二を争うほどの肉食人種だ。
牛肉の塊のバーベキュー、アサードは有名だ。
そして、アサードとマルベックの相性は抜群だ。
だが、残念ながら日本では入手が難しい。
そのような塊肉を手に入れようと思ったら、かなりの出費である。
庶民以下の僕にはせいぜい薄切り牛肉を手に入れるだけで精一杯だ。
そのため、薄切り肉でできる「すき焼き」で合わせることにした。
醤油とみりんと水、砂糖をブレンドして割り下を作る。
牛脂とネギを軽く炒め、香りがしてきたら牛肉も投入。
そこそこ火が通ったら、割り下を回し入れて、焼き豆腐などの具材を投入して少々煮込む。
全ての食材に火が通ったら、完成だ。
溶き卵に甘しょっぱいタレが良く絡み、食が進む。
肉、野菜、肉、肉、野菜、肉
箸が止まらない。
牛肉の脂の甘味とマルベックのタンニン分もよく絡み合う。
当然ながら、マルベックとの相性も抜群なのだ。
やはり肉を食べると幸福物資が分泌されるようだ。
幸せな吐息を漏らし、今夜は安らかな眠りにつけるな。
パワフルなラテン系ワイン、今度はパワフルな肉の塊がもっと食べたくなる。
だが、この願望は日本では難しいかもしれない。
☆☆☆
ついに初出勤日!
ジル氏の車の後をついていく。
郊外の住宅街を走り、すぐに小学校へと向かうちびっこたちが横断歩道を渡っているので一旦停止をする。
アメリカの小学生は基本的にバスか親の車で送迎されている。
さすがに徒歩圏内では徒歩通学だ。
そして、親か教師なのかは分からないが、旗を持ってちびっこたちを渡らせている。
そうしてさらに走り出し、町の裏山を越えて行くといきなり景色がガラリと変わる。
牧草地や敷地の広い高級そうな邸宅が次々と現れ、やがてブドウ畑が見えた。
クーパー・マウンテン・ヴィンヤーズに到着だ。
個人経営なだけあって、ワイナリーの建物自体はこじんまりとしている。
外観はオシャレなカフェのようなワイナリーだ。
駐車スペースには、バイオダイナミックのフローフォームという水を循環させるシステムが噴水のようなオブジェと化していた。
すぐ隣りにある豪邸はオーナーの自宅だが、僕が会うことは殆ど無かった。
ここで、僕と同じようにインターンとして他のメンバーと出会った。
近くの都市ポートランド出身の若い金髪女性、残念ながら彼氏と同棲中、もちろん僕が直接聞いたわけではない。
もう一人は、僕とほぼ同世代、そして、腕も僕とほぼ同じぐらいのたくましさのアマゾn……ではなくアルゼンチン人女性、ウェイトリフティングをやっていたらしい。
新たに女性たちと出会ったわけだが、残念ながら何も起こることがないことは想像に難くないだろう。
さて、ジル氏に案内され、ワイナリーの中へと入る。
開店前のカフェスペースのテーブルで雇用契約書等の必要書類を記入していく。
「ヘイ、ボス! コーヒーがないぞ!」
壁の影からいかつい男が顔を出してきた。
僕は突然のことにギョッとしたが、ジル氏はちょうどよいと僕らを紹介した。
この男は僕らと共に働くことになる常勤の先輩エベラルド氏、メキシコ人だ。
ここのワイナリーでは、畑作業はメキシコ人のチームで行っており、このエベラルド氏だけは中仕事を主に担当している。
他にも事務関係のワイナリースタッフは数名いるが、この日は他のメンバーには出会わなかった。
ワイナリーの施設内を案内され、畑の一つへと連れて行かれた。
最も遠くにある区画で、車で15分ほど走った先にある。
距離に応じてガソリン代を支給されるので、懐は傷まない。
周囲にはブドウ以外にも様々な畑に囲まれた小高い丘にある。
その頂上では、周囲が一望でき、クーパーマウンテンの土壌の成り立ちを教えてもらった。
クーパーマウンテンの周辺の土壌は、他のオレゴンの栽培地と同様、非常にユニークな構成をしている。
標高125m-210mの傾斜地に広がる畑の土壌は、火山性土壌と海底が隆起した堆積粘土質(ウィラケンジー)土壌が、約5,000万年前にオレゴン東部で起こった地殻変動によって堆積し複雑な地層を造り上げた。
様々な土壌が入り混じり、標高の違いからくる気温差など所有するそれぞれの畑によって異なる微細気候(ミクロクリマ)が広がっている。
オレゴンワインはウィラメットヴァレーという域内で生産されるワインで、その中心地がダンディヒルズという地域だ。
そのダンディヒルズよりもやや冷涼ではあるが、日照量に恵まれ寒暖差も大きく、冬は涼しく高湿で、夏は涼しく乾燥している。
そのため、特徴的なピノ・ノワールを造ることができるのだそうだ。
ワイン造りに対する情熱を語ってくれた。
そして、この年は気温も天候も良く、ブドウは順調に熟しているそうだ。
例年よりも早く収穫が始まるらしい。
この日は汗が止まらないほど暑く、これから熱い日々が始まる予感がしていた。
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