GISVIN
『プライベート ビン シャルドネ
2020
ヴィラマリア』
ニュージーランドのプレミアムワインをリードする大手ワイナリー。
世界で最も称賛されるワインブランドのトップ10に入り、ニュージーランドを代表しているワインブランドだ。
こちらのワイナリーについては、第二部最終章で詳しく触れることになる。
今回はワインについて紹介しよう。
プライベートビン、このクラスのシャルドネはニュージーランド各地で取れたブドウから造られたワインがブレンドされている。
北はギズボーン、ホークスベイ、南はマルボロ、ワイパラ、それぞれ各地の特徴をうまくバランスよくまとめられている。
香りはほんのりオーク樽の香り、ピーチのようなフルーティ感もある。
味わいにリッチで温暖な果実味があるが酸味もあることで、重くなりすぎずクセなく飲みやすく仕上げられている。
『鯛のあら煮』
鯛、ニュージーランドでも決して安い食材ではない。
しかし、ギズボーンは海辺の街だ。
鯛ももちろん手に入れることができる。
地元の魚屋で一匹丸ごと売っていることもある。
釣りスポットに行けば、釣り上げることも可能だ。
今回はアラをスーパーで買ってきた。
水、生姜、砂糖、酒、みりん、しょうゆとともに煮込む。
汁気が程々になくなれば完成だ。
魚の臭みが程よく抜け、しょうゆベースの味もよく染み込んでいる。
頭からダシもよく出て箸が進む。
鯛の旨味が凝縮された和の逸品だ。
骨が多いのが難点だが、顔周りの柔らかい身を無言で貪る。
実は魚の一番うまい部分はアラなのかもしれない。
そして、ワインと合わせる。
この白ワインはほんのりとした果実味と飲み口の優しさからか、和の風味と海の幸とよく合う。
ついついグラスを傾けるペースが上がってしまう。
気がつくとどちらも空になってしまった。
和食とニュージーランドワイン、どちらも島国故か実に相性が良い。
ワインの造りも大手故に、クセなく万能に飲みやすく造られていることも理由の一つだろう。
ワインの入門として良いかもしれない。
☆☆☆
僕がワインの道に入り、本格的な修行の旅の第一歩目、そのワイナリーへ胸の高鳴りとともに踏み出した。
ワインの道に入った駆け出し、1Vintageの始まりだ。
ワイン用語でVintageとは、ブドウの収穫年のことを指す。
さらに細かくなると、ワイン醸造、生産者の世界では経験値を意味する言葉でもある。
僕がまだ在学中、仕事を探すためにニュージーランドの各ワイナリーの募集に応募していた。
ワイン醸造の世界では、どれだけVintageを経験したのかが一つの基準となる。
そもそもワインを造ることができるのは、年に1回だけの限りあることだ。
その限りある時間の中でキャリアを積み重ねていかなければならない。
僕の場合、学校は卒業したが、業界内ではほぼ未経験だった。
第一部で語ってはいたが、フランスでは醸造は専門的に行ってはいなかった。
短編―Wild Life―のエピローグで触れたが、日本でも1Vintage経験した。
しかしながら、専門知識を得てからは、今回が初めてとなる。
そのため、経験値の少なさから不採用となることが多かった。
もうひとつ、ビザの問題もあるが、この話はまたの機会しようと思う。
その過程は惨憺たるものだったが、最悪の結末だけは免れた。
こちらのワイナリー、GISVINに奇跡的に拾われたからだ。
通っていた学校の地元ワイナリーでもあり、面接も好感触だったのでうまくことが運んだ。
海外でビザをもらって働くことになると、前職の上司などの参考人が必要となる。
僕の場合は、学校の講師がその役をしてくれたので助かった。
そのようにして、無事に初日を迎えることができたわけだ。
ニュージーランドのワイナリーの初日、この日は労働をすることは大概ない。
ワイナリー施設の案内と説明、安全管理教育など、基本的なオリエンテーションだ。
何十ページも及ぶ作業マニュアルを受け取り、必要書類の記入などを行った。
他にも作業靴など一式受け取った。
ワイナリーの仕事は危険な作業だ。
Kが幾つ付くのかわからないほどだ。
例を一つ上げると、発酵中のタンクは二酸化炭素が充満している。
その中に人間が入る。
一吸いでほぼ即死だ。
2、30年ほど昔だが、労働環境が現在よりも悪かった時代は年に数回あるほどだったらしい。
さて、この初日に、同僚となる仲間たちとも出会った。
通年で働いている地元ニュージーランド人たちは6名、上司となる。
僕と同じ、収穫時期だけ働くVintage労働者は約20名ほどだ。
フランスやアメリカなど、国籍も様々だ。
そんな多国籍軍が造るニュージーランド産ワイン、このワイナリーでは地元ギズボーンで取れたブドウから造られる。
ただし、少しユニークな特徴がある。
地元の小規模ワイナリーから委託を受けてワインを製造するのである。
ワイナリー設備は高額で特殊であるため、コスト削減のためにこのようなワイナリーに自社栽培のブドウをワインに造ってもらい、自分たちで販売するという方法を取っている。
そのため、ギズボーンのワイナリーのいくつかはここのワイナリー製なのだ。
生産規模は2000t、計算上、ワイン120~140万本前後の生産規模、これでもニュージランドでは中規模生産者になるので、大手は桁外れの規模だ。
ちなみに、冒頭で紹介したワインもギズボーン産はここで生産されている。
こうして、初日はほぼワイナリーの説明を眠気と戦いながら終えた。
しかし、本当の戦いはこれからだった。
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