フランス名物

『キール』


 食前酒に使われるカクテルで、白ワイン(主にアリゴテ種)に少量のカシスリキュールを加えたものである。

 

 ブルゴーニュ地方にあるディジョン市の市長であったフェリックス・キールによって考案されたと伝えられ、このカクテルの名称は彼の姓に由来する。


 このカシスリキュールはかなり甘いので、量を調整して甘さを調整する必要がある。

 今回は少なめにして甘さは控えめにした。

 甘すぎない方が食前酒としては良いと思う。


 実際に飲んでみるとカシスの甘い香りが強く、味もちょっと甘すぎた。

 ちょっとレモンを数滴垂らして酸味を加えて味を調整した。

 邪道かもしれないが、ワインも酒の一種、好きに飲んで楽しめばいいと思う。


『スナック盛り合わせ』


 今回は王道のワインのつまみにしてみた。

 生ハム、カマンベールチーズ、スライスしたオリーブ。

 食前にちょっとつまむのにちょうど良い量だ。


 キールはワインベースなのでこの盛り合わせが合わないわけがない。

 生ハムの濃い塩味が特にグラスを進めてしまう。

 オリーブのクセのある味わいもいいアクセントだ。

 カマンベールはカビタイプのチーズではクセがないので食べやすい。

 白ワインベースではあるが、カシスの風味もあるのでフルーティーな甘い赤ワインの雰囲気があるのでカマンベールとの相性は抜群だ。


 キールを飲むとディジョンでの出来事を思い出してしまう。

 あの時は辛かったなぁ。


☆☆☆


 僕はマコンでの仕事を終え、ボジョレーでの収穫も終わった。

 そして、次の目的地ブルゴーニュ北部シャブリを目指す。


 ブドウの収穫時期は北に行くほど遅くなる。

 すでに早い収穫は始まっているそうだが、僕は途中から参加することになる。


 運良くボジョレーで共に収穫をしたフランス人に車で途中まで送ってもらった。

 そのフランス人はブルゴーニュ地方の都市ディジョン市在住だったので、ディジョン駅で降ろしてもらった。

 僕はお礼を言って別れ、ここからまた一人旅となった。


 駅に到着したのは遅く、最終列車も出てしまっていたのでディジョンで一泊した。

 

 それから朝イチで電車に乗ろうとしたのだが、何かがおかしいことに気がついた。

 電光表示板を見ても、予定となる目的地に到着する路線が表示されないのである。


 おかしいなぁと壁に貼ってあった紙の時刻表と何度も見比べ駅内をウロウロとさまよっていた。

 そして、掲示板に衝撃の事実が書いてあった。


 ストライキで僕の乗りたかった路線が動いていなかったのだ!

 

 フランスでは毎日のように何かのストライキがある。

 もはや、ストライキはフランス名物と言っていいかもしれない。


 労働環境を改善するために労働者が団結して立ち上がることは良いことだとは思う。

 日本でも社畜だとかどうとか嘆いているよりも、戦いを挑んでみてはいいのではないかと思う。

 自分で行動しなければ、結局何も変わらないし搾取され続けるだけでみんな揃って衰退していくだけだろう。


 さて、そんな綺麗事を肯定している時期が、僕にもありました。

 自分がストライキの被害を受けると一気に手のひらを返した意見になる。


 貴様ら、真面目に働かんかい!

 日本の労働条件に比べれば遥かにマシだろうが!

 貴様らのワガママで必要な人間は迷惑しとるんじゃ!


 僕はそんな暴言を飲み込んで、できるだけ近くの駅まで向かう電車に乗り込んだ。

 フランスのストライキのユニーク(被害を受けると決して面白くない)なところは、全てが止まるわけではなく一部だけ動かなくなる。

 それがたまたま僕の目的地だっただけだった。


 パリへと向かう電車を途中で降り、そこから僕は歩き出した。

 ここから先はヒッチハイクで向かおうという目論見だ。

 少しでも距離を稼ごうと歩きながらだ。


 田舎道なので車の通りは少ない。

 僕は歩きながら車が近づいて来る度にヒッチハイクのサインを出す。

 しかし、一向に捉まらなかった。


 僕は朝早くに出発したのだが、すでに日は高く登っていた。

 ヘロヘロになりながらも旅程の半分は歩いた頃だったのだろうか。

 ついに車が止まってくれた。


 その相手はまだ若い男性、話をしてみると昔オーストラリアでヒッチハイクで旅をしていたそうなので苦労が分かるので止まってくれたということだった。


 ようやくシャブリの街までやってきた。

 ここで僕は降ろしてもらい、遅い昼休憩をした。

 適当にテイクアウェイで食事を取り、もう一息歩いた。


 荷物を抱えて歩いていたので、収穫以上に疲れ果てていた。

 途中のブドウ畑では収穫風景もあり、後少しだと自ら叱咤して歩き続けた。

 そして、ついにシャブリ近郊のクルジ村に到着したのだ。


 予定では午前中に到着するはずだった。

 到着した頃にはすでに日が沈みかける夕方だった。

 しかし、想定外の事態でも僕はやり遂げた。

 やってやれないことはない、これがまた一つ小さな自信となった。

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