日本代表は決定力不足

『ボジョレー クール ド ヴァンダンジュ ヴィーニュ サントネール

 2018

 ピエール マリー シェルメット』


 ボジョレー、日本だと新酒用のボジョレー・ヌーボーが有名だが、普通に造られている赤ワインも秀逸であったりする。


 ボジョレーのトップ生産者と呼ばれ、17世紀から続く家族経営ワイナリー。

 80年代から自然に配慮した栽培をしており、当時としてはいち早く着手している。

 ガメイという品種は多収量を見込める品種だが、低収量で完熟し厳選されたブドウで造られる。


 一般的なボジョレー・ヌーボーは、新酒用の超早飲みスタイルで造られるので通常のワインとは醸造方法が少々違う。

 しかし、このワインは伝統的なガメイの醸造方法、セミ・カルボニック法で手摘みされたブドウを房ごとタンクに入れ、およそ5日間ほどかけて自然に発生した炭酸ガスと共に仕込む。

 大量生産できない伝統手法だが、これによりフレッシュでフルーティながら繊細さのあるワインが出来上がる。

 

 さて、眠くなる御託はこれぐらいにしてグラスにワインを注ぐ。


 ルビーのように濃厚な色をしている。

 グラスに注いですぐには香りが広がってこない、いわゆる閉じた状態だ。

 しばらく空気に触れさせて香りが開いてくるのを待つ。


 そして、ようやくストロベリーやラズベリーなどの甘酸っぱい香りがしてきた。

 ボジョレー・ヌーボーのようなストロベリーキャンディみたいな派手さはない落ち着いた感じだ。

 

 味わいも甘酸っぱいベリー系、スパイスのような雰囲気もある。

 ちゃんとした旨味のあるワインなので良いガメイだと思う。


『焼き鳥 串盛り』


 今回は自分では作らずにテイクアウェイしてきた。

 焼き鳥は自分で焼くよりもそっちの方が美味しいし。

 美味しいけど、それなりに量を食べると意外と高いのが難点だが。


 塩のコリコリしたナンコツ、こちらもコリコリ感はあるが癖になる旨さの砂肝、もちろん美味しい。

 タレ味は、もちもちジューシーなとり皮、焼き鳥の代表もも肉とネギの相性抜群のねぎま、やわらかジューシーなつくね、独特な食感のとりもつ、どれも濃厚なタレとの相性がバッチリと合っている。


 焼き鳥との王道はビールだろうが、このワインとももちろん良く合う。

 というより、焼鳥は大体の酒と合うはずだ。

 

 この組み合わせは一人で飲んでも美味しい。

 だが、仲の良い友だちとワイワイ飲む方が美味しいかもしれない。


☆☆☆


「フィニーッシュ!」

「「イエーイ!!」」


 マコンでの収穫が終わった。

 僕たちは歓声を上げて手に持っていたバケツを天高く放り投げた。


 始めはどうなることかと思ったが、約二週間休みなく最後までやり遂げた。

 この間一度も雨に降られなかったことは奇跡的に良いことだ。

 僕たちにとってもだが、ブドウの出来も良く、一日の終わりにはブドウの糖度が高くてベタつき、ハサミが開かなくなるほどだった。 


 さて、僕たちはこれで仕事が終わってお役御免だ。

 次の日には荷物をまとめて出ていくことになる。


 この後、僕とチェコ人二人は、ここのオーナーの友達のワイナリーへ収穫を手伝いに行った。

 ちなみに、向かった先はマコンのすぐ隣りのボジョレー地区になる。

 ランチタイムに提供されていた赤ワインは、そこのワイナリーの物だ。

 そこでもワインと食事をもらって楽しんだ。

 しかし、その話の前にやることが残っている。


「じゃあ、夜になったらワイナリーに行くからね」

「オッケー、楽しみに待ってるよ」


 僕たち住み込みの外国人労働者組と外から通っている大学生組もこの頃には仲良くなっていた。

 笑顔で手を振り、それぞれ帰路についた。

 僕たちはテントかキャンピングカーだが。

 

 その夜。


「へーい、来たよ!」

「「うえーい、もう始まってるぜ!!」」


 そう。

 これが真の収穫祭、収穫が終わりハメを外してパーリーナイトだ。


 最終日は昼頃に収穫が終わり、戻ってきてから僕たちは飲み続けていた。

 特に、チェコ人はとにかく飲みまくる。

 ビールが水より安い国だからね。


 若い大学生たちがやってきたことで一気に盛り上がった。


「おーい、追加持ってきたぞ!」


 オーナーの息子がワインを1ケース持ってやってきた。

 そして、最高潮に盛り上がった。


 広々としたダイニングルームでは、クラブハウスのように音楽がガンガンに鳴らされ、みんな楽しそうに踊っている。


「ねえ、一緒に踊ろうよ!」


 フランス人のJDの一人が、グラスを片手に眺めていた僕に笑いかけながら手招きしている。

 収穫の期間で僕たちは話をして多少なりとも仲良くなっていた。

 

 ムフフフ。

 ここで一緒に踊って気分ムードが高まれば、今夜は二人っきりで熱いダンスを……

 などと、僕は下心が全開だった。


 しかし、神とやらはこの世にいないのか?

 いや、神はいるがいつだって僕には優しくない。


 僕が一歩踏み出そうとした時だった。

 後ろから男同士が争う怒鳴り声が聞こえてきた。

 ケンカだ。


 幸い、間に入ってくれた男がいて大事にはならなかった。

 

「チッ、クレイジーな野郎だぜ」


 一人はすぐに気を取り直して、盛り上がりの中に戻っていった。

 しかし、もうひとりはいつまでもグチグチと文句を言って再び殴りかかろうとしていた。

 こういう酒癖の悪い人間はどこに行ってもいる。

 やれやれ困ったものだ。

 

「おいおい、どうしたよ、落ち着けって」

「チクショウ! あの野郎、バカにしやがって!」


 僕はバカだった。

 酔っ払いの相手なんかしないで、勝手に楽しめばよかった。

 この後、ケンカを止めた男と僕は、延々とこの男の同じグチを聞き続けることになった。

 

「……もう分かったから寝ようぜ?」

「お、おお? いいーよー」


 ケンカを止めてくれた男は、酒癖の悪い男をテントに連れていった。

 これで解放されたと僕はホッと一安心したところだった。

 よーし、これで僕も遅ればせながら楽し……


「……あ、私達もう帰るから」

「え? あ、うん……」


 パーリーナイトはいつの間にか終わっていた。

 僕は結局誘われたJDと一度も踊ることはなかった。

 

 なぜだろう?

 決定的なチャンスをモノにできなかった。

 僕はいつまで決定力不足の日本代表なのだろうか。

 一人寂しくテントで寝袋にくるまった。

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