ヴァンダンジュの楽しみ方
『ブルゴーニュ アリゴテ
2017
ドメーヌ ジル』
ブルゴーニュは赤のピノ・ノワール、白のシャルドネが有名だが、それ以外の品種も実はある。
それがこの白のアリゴテという土着品種がある。
アリゴテという品種は酸味の効いた厚みのないワインを造り出す品種とされてきた歴史があるが、近年は品質も向上している。
カシスリキュールとのカクテル『キール』に使われる白ワインでもある。
さて、開けてみた。
香りもそれほど立たず、のっぺりとした感じ。
味もさっぱりとした軽い感じで、特に主張してこない。
ワイン単体として飲むにはイマイチ物足りない。
しかし、料理の味を邪魔しないと思われる。
試してみよう。
『フィッシュ・アンド・チップス』
言わずと知れたイギリスを代表する国民食だ。
料理のマズイと言われるイギリスでも、これだけは外さない。
ただの白身魚のフライとフライドポテトであり、まずく作る方が難しいだけなのだが。
さて、揚げたてのフライはサクサクとしてタラの淡白な白身とは絶妙のコンビネーションだ。
フライの衣にビールを入れているので、いい感じの独特な風味が出ている。
イングランド風にソルト&ビネガーのさっぱり味が軽い白ワインとの相性がいいな。
ここのワイナリーのアリゴテちゃんは単体だと存在感を感じないが、三歩後ろを歩いて引き立ててくれるタイプのようだ。
塩味の効いたチップスもやめられない止まらない。
満腹になり程よく酔ったので、ついつい横になった。
この幸福感、たまらないなぁ。
☆☆☆
僕は連日ブドウを切って切って切りまくっている。
ブドウの樹は様々な仕立て方があるが、ここマコンでは垣根仕立てである。
整然と一列に並べられたぶどうの樹が、まるで生け垣のように仕立てられるからそう呼ばれる。
ワイン用ブドウの仕立て方としては、世界で最も主流である。
当然、この垣根仕立てにもメリットデメリットがある。
メリットは樹の管理がしやすい、ということが筆頭になるだろう。
ブドウ栽培用の農業機械も、ほぼ垣根仕立て用に造られている。
その理由から大規模化もしやすい。
他にも色々とあるが、眠くなるのでやめておこう。
デメリットも多々あるが、今回あげる点が収穫で最も大変になる。
ブドウの実っている位置が低いのだ。
垣根仕立てだと通常、中腰の姿勢ぐらいの高さにブドウがぶら下がっている。
その高さにあるブドウを収穫するために、相撲の四股を踏むような同じ姿勢でひたすら切り続けるのである。
考えなくても分かるだろうが、すぐに腰が痛くなるのである。
これはほんの毛先程度の一部分に過ぎないが、農業がきつい仕事だということを現している。
しかし、僕は意外にも平気だった。
今回の旅の序盤にベジタリアン農場ですでに農業の経験があった。
それ以前の放浪時代にも農業で稼いだこともあった。
つまり、すでに身体がなれていたのだ。
これまでの人生で経験したことには、決して無駄なことなど無い、ということである。
必要な場面で活かすも殺すも自分次第にはなるが。
「……よし、休憩だ!」
午前10時頃、休憩の声がかかる。
僕たちはブドウを切り続ける手を止め、畑の外に出て開けた場所に歩いていく。
そこでは、程よく生えた下草の上にシートが広げられ、その上にはバゲットやハム、チーズ、パテ、パウンドケーキなど軽食が盛り沢山だ。
冷たいフルーツジュースや温かいコーヒー、紅茶も用意されていた。
「ヒャッホーイ、いただきまーす!」
「ふふ、
これがヴァンダンジュの楽しみの一つである。
休憩時間は、壮大なブドウ畑に囲まれながら遅い朝食を食べる。
まるでピクニックでもしているかのように、のんびりして過ごすのだ。
ゆったりとした休憩が終わると再びブドウをひたすら切り出した。
そうして昼まで仕事を続けた。
昼になるとブドウを大量に積んだトレーラーとともにワイナリーまで戻って来る。
ブドウはもちろんだが、僕たちもドナドナー、と運ばれる。
さて、次のお楽しみのランチタイム。
各ワイナリーごとに腕によりをかけた料理が振る舞われる。
肉体労働で疲れた身体は、無尽蔵に食べ続けてしまいそうなほど食欲がある。
みんなたらふく食べた。
「
そして、昼間から赤白ワインがテーブルに置かれている。
もちろん、好きなだけ飲める。
フランスでは当たり前の収穫風景なのである。
収穫のメンバーは、オーナーの親戚や姪っ子と同じ大学の友人たち、近隣諸国から来た若者たちが多かった。
この年は、イングランド人やチェコ人が多かった。
どちらの国も大酒飲みの多いお国柄でもある。
その後、僕たちはたらふく飲み食いをして長い昼休憩、シエスタの時間だ。
程よく酔い、暖かい陽だまりの中でのんびりと昼寝をする。
それから陽気な気分で午後の収穫だ。
そうして、一日が終わる。
僕たちのような外国人労働者は、ワイナリーに寝泊まりをしている。
寝泊まりといっても、その場所は敷地内の空き地にテントを張っているのだ。
キャンプ場に泊まらず、前日からここで寝させてもらえば焦ることはなかったのに、と思ったが今更どうでもいいか。
適当に夕飯を食べ、仲間たちといただきもののワインを飲みかわし、夜が更けていく。
それぞれのテントに入って眠りにつくのだが、ふと空を見上げると満天の星が輝いている。
僕はクスっと笑った。
一日の最後にご褒美をもらった。
今夜は良い夢が見れそうだ。
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