第二部 新世界

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新たな旅の始まり

『新世界』


 某関西の繁華街のことではなく、大航海時代に欧州人が新たに発見した土地に対する呼称である。


 ワイン業界においては、大航海時代以降に欧州から製法が伝えられた地域で生産されるワイン産地のことを指す。

 南北アメリカとオセアニア、地理上は旧世界に属する南アフリカや日本で生産されるワインも含む。


 今回の第二部は、これらの国々を巡った話をしたいと思う。

 時系列としては、以前の旅の終わりから約4年後からの話だ。

 

 短編―Wild Life ―の最後に少しだけ触れたが、僕はニュージーランドの学校のワイン醸造・ブドウ栽培の1年コースで勉学に勤しみ無事に卒業した。

 一応は有資格者の認定を受けたわけだ。


 この当時すでに30歳を過ぎてはいたが、やってやれないことはなかった。

 若い間に勉強できることはやっておくに越したことはないが、人間というやつは幾つになろうともやる気と覚悟、ある程度の金次第で新たな挑戦は可能なのである。


 若い内に挑戦したいことには挑戦するべきだと思うし、成功すればそれに越したことはない。

 例え失敗したとして、その後の人生で軌道修正は可能だ。

 挫折を味わうこともまた、人生を彩るエッセンスになると経験上知っている。


 もちろん、取り返しのつかない失敗もこの世に無いことはないが、人は大体のことは時間とともにいつかは立ち直れる。

 心が折れて腐ってしまわない限りは、そして命がある限りは、だ。


 それでも二度目の学生生活に戻ることは苦労の連続だった。

 英語は高校生時代は一番嫌いな教科だったし、勉強に力も入れていなかった。

 様々な国を放浪して英会話は多少できたが、大したレベルではない。


 旧大英帝国のニュージーランドの学校に入るには、IELTSという英語検定が必要になる。

 学科によって必要になるレベルが変わるが、僕の志望したコースはそれほど難しくはなかった。

 それでも、勉強し直すにはかなりの馬力が必要だった。


 当時の仕事の昼休みは1時間あったが、15分以内に急いで移動と食事を終えて、残りはすべて勉強に費やした。

 通勤の電車内でも勉強したし、空き時間を見つけては勉強した。

 嫌いなことや苦手なことでも必要に迫られれば、人間どうにかなると学んだものだ。


 この時に身にしみて実感したが、高校だけは卒業してよかったと思った。

 国外の学校に入るには、高卒であることは最低限必要だったからだ。

 日本のどこぞの一流大卒という経歴は、海外に出たら有って無いようなおまけのようなものだ。

 何をどれだけ学ぶのかが本当に大事なことだ。

 

 さて、偉そうなことを書いたが、実際僕は志望するコースの入学条件ギリギリのレベルだった。

 僕自身、やれば何でもすぐにできるようになる天才ではないし、偉そうなことを言えるほど偉い生き物ではない。

 記憶力などの衰えがある上に、英語圏での授業、ついていくだけも精一杯、課題のレポートもかなり時間をかけて作成した。

 人の倍はやらないといけないので苦労することは多々あったのだが……


 それでも、そこそこの評価で課程を修了し、皆勤賞でやり遂げた。

 その当時のネタも多々あるが、今回は学生時代の話は割愛しよう。

 その話は番外編を書く機会があれば書こうと思う。


 そのようにして、僕はニュージーランドのワイン学校を卒業し、学校のある地元ワイナリーで一シーズン働くことになった。


 始まりの舞台は「アオテアロア」……「白く長い雲のたなびく地」という意味で、南太平洋に浮かぶこの島国は、原住民マオリにこのように呼ばれ敬われていた。

 北は亜熱帯気候の海沿い地方から、南は冬には雪が積もる内陸の山岳地方まで気候が様々、日本と同じように南北に細長く四季のある海に囲まれたキウイの国、ニュージーランドだ。


 今回の第二部、新たな旅の始まりだ。

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