第三章

VENDANGE

 VENDANGEヴァンダンジュ


 フランス語でワイン用ブドウの収穫のこと。

 そして、ワイン生産者にとって、古代から続く伝統であり、1年の内で象徴的で最も重要な時期である。


 この当時もすでに機械収穫が多くなっていたが、まだまだ手収穫のワイナリーも多かった。

 各地から様々な人々が小さな農村に集まり、まさにお祭り騒ぎのようになる。


☆☆☆


 なぜなのだろう?


 僕が新しい何かを始めようとすると、なぜかいつも決まってトラブルが起きる。

 自分では順風満帆に事に望みたいというのに。


 ヴァンダンジュ初日、僕は大荷物を背負いながら一面のぶどう畑に挟まれた細い道路を急いでいた。

 日はすでに高く登り始めている。


 すでにお分かりだろう。

 僕は初日から盛大に遅刻していたのだ。

 

 別に、僕は寝坊をしたわけではない。

 前もって準備を整え、宿代の節約のために、仕事先のワイナリーから遠くないキャンプ場でテントで寝ていた。

 予定通りの時間に起きて出発の準備もしていた。

 ここまでは何も間違った選択はしていなかったはずだ。


 荷物をまとめ、共同スペースにある壁掛け時計を見ると、意外にもまだ時間が早かった。

 通常、フランスのキャンプ場の共同スペースには、プロパンガスのコンロがあるので簡単に火を起こすことができる。


 まずいインスタントコーヒーも、緑の木々に囲まれ爽やかな朝陽を浴びながら飲むと何倍にも美味しく感じられる。

 僕は優雅にくつろいでいた。

 しかし、これが最大の過ちだった。


 僕がコーヒーを飲み終え、大きく伸びをした。

 そして、一気に血の気が引いた。


 壁掛け時計の針が最初に見たときから動いていなかったのだ。


 重大な失態に気がついたと同時に僕は駆け出していた。

 そうして、ぶどう畑の中を大汗をかきながら急いでいたわけだ。


 これが、僕のヴァンダンジュ、待ちに待ったお祭り騒ぎ、収穫祭ヴァンダンジュの始まりであった。

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