黄金の丘
『ジョセフ・ドルーアン
2019
ブルゴーニュ シャルドネ』
ブルゴーニュの白ワイン用品種と言えば、例外はあるがほぼシャルドネである。
フランスにはワイン法があるので色々と細かい規定はあるが、ジョセフ・ドルーアンでは、このクラスのブルゴーニュは北はシャブリ南はマコンまで、ブルゴーニュ各地の畑から取れたぶどうをブレンドして作られる。
フレッシュで辛口な柑橘の味わいが始めにきて、後味はグレープフルーツのような苦味がある。
アーモンドのようなフレーバーもあり、ほんのりと樽を効かせているようだ。
薄っぺらくなくて骨格のある厚みも感じる。
気取らずスッキリと飲めるタイプかな?
そんなワインに合わせるなら
『若鶏の手羽先の塩焼き』
早くもフレンチじゃない!
と、思われるかもしれないが、細かいことは気にしない、気にしない。
ワインは本来、難しく考えず気軽に楽しく飲むものなのである。
高級ワインなんてものはワイン全体のごく一握り、ほとんどは地酒のような親しみやすい飲み物だ。
脂で汚れることも厭わず、手羽先を手でつかみ、がぶりと一気に貪る。
そして、シャルドネがその脂をスッキリと洗い流すように喉を通り過ぎる。
肉には赤、白は魚、という考えは最早古すぎる。
味付けのあっさりとした鶏肉には、厚みのある白も充分に合うのだ。
うん、完食!
本日の一本はこれでおしまい。
さて、ブルゴーニュ、と一口に言っても様々な地区、さらに細かく村によって特徴は異なる。
そこからまだ細かくなり、畑によって格付けがされ、同じ畑の中でも生産者が異なる場合もあるので、同じ銘柄でも全く違うワインとなるのがブルゴーニュワインであり、実に複雑怪奇なのである。
ブルゴーニュの中心地区は、世界一高級なワイン産地、『コート・ドール』黄金の丘と呼ばれる。
その中でも最も有名なワインが、ロマネ・コンティ、ワインを知らなくても名前を聞いたことのある人は多いだろう。
ロマネ・コンティは、コート・ドールの起点となる街ボーヌから北側の地区、赤の銘醸地コート・ド・ニュイにあるが、今回の話とは関係ないのでこれ以上はやめておく。
今回はそういった厄介なものはぶっ飛ばして(いいのか?)、ボーヌの街から南側、白の銘醸地コート・ド・ボーヌに焦点を当てようと思う。
☆☆☆
僕はボーヌにやって来て、とりあえず色々とやってみたいことがある。
その中の一つ、ボーヌ駅前の自転車屋でレンタルし、ぶどう畑の広がる街道を走り抜けるのだ。
ここはただの道路ではない。
グラン・クリュ街道と呼ばれる、コート・ドールの中でも偉大なぶどう畑を縫って走るのだ。
ワイン愛好家にとって、垂涎のワインがこれらの畑から造られるのだ。
北はディジョン市から南はサントネイ村まで、約60km。
今回は、ボーヌから南側の約20kmほどのサイクリングになる。
僕は自転車にまたがり、荒々しい運転の車の多い大通りを越えて、民家の間を走る。
そして、すぐにグラン・クリュ街道の入口が現れた。
この日は、まだ5月下旬、ぶどうの開花前で、伸び始めたばかりの新緑が目に眩しい。
ブルゴーニュのぶどう畑は、木の背が低いので、盆栽のように見える。
この街道は主要道ではないので、車がほとんど来ることがなく、快適にサイクリングができる。
大体のコースだが、ボーヌから、ポマール、ヴォルネイ、ムルソー、ピュリニー・モンラッシェ、シャサーニュ・モンラッシェ、サントネイと各村を通る。
最後に、電車に自転車ごと乗ってボーヌまで帰ってくる。
フランスの電車は、自転車をそのまま乗せることができるので、移動が楽だ。
結論から言うと、僕は特にトラブルはなく、予定通り全ての村を巡ることが出来た。
もちろん、ワインのテイスティングをしながらである。
現在の日本ならば飲酒運転になってしまうので禁止だが、フランスは道路交通法が違う。
酒気帯びの状態のアルコール呼気濃度がゆるゆるなのだ。
グラスワイン一杯、缶ビール一本程度ならば、問題なく乗用車を運転しても良い。
普通の酒飲みなら、その程度飲んだ内に入らず、酔わないのだが……
さて、この中でも印象的だったワイナリーの紹介。
最初の村、ポマールにあるワイナリー、シャトー・ド・ポマール。
なぜ、このワイナリーが印象的だったのか、それはダリだ。
え?
どういうこと?
と思われるかもしれないが、サルバトーレ・ダリなのだ。
ダリ美術館かと思うほど、ダリの作品が展示されているのである。
ワイナリーガイドツアーをやっていたのだが、ダリのほうが気になってしまった。
「……あの、なぜ、ダリ?」
「ああ、オーナーの趣味よ」
なるほど……。
自由に趣味全開なのが面白い。
※現在はオーナーが違うので、どうなっているのかは不明。
最後に、テイスティグルームに案内されてワインを楽しんだ。
ポマールは、赤の産地だ。
だが、シャトー・ド・ポマールは他の村のぶどう畑も所有しているので、白ワインも飲むことが出来た。
この当時の僕はワインのことはほぼ無知だった。
どのワインがどうと言われても、好みかそうではないか、ぐらいしかよく分からなかった。
フランス語もまともに理解できないそんな僕ではあったが、係の若い男性ソムリエとは色々と話をした。
フランスでもワイナリーによっては英語が通じるのだ。
「おお、そうだ。こいつを飲んでみたいか? テイスティングのメニューに出てないけど、たまたま開いてるからな」
彼が背後にあるワインセラーの中から開いているワインボトルを取り出した。
僕は遠慮も社交辞令の欠片もない日本人なので、もちろん、と即答で答えた。
シャサーニュ・モンラッシェ村の
一級畑はもちろん良いワインだが、そのさらに上に
そして、白ワインの最高峰と呼ばれる『モンラッシェ』、三銃士で有名な文豪アレクサンドル・デュマがこのように称賛したことは、ワイン業界では有名だ。
『ひざまづき、脱帽して飲むべし』
そのモンラッシェではないが、この当時の僕にだって、特別な一本だということは分かった。
ソムリエやオーナーの気が乗っていると、特別サービスはたまにあることだ。
これが、ワイナリーテイスティングの醍醐味かもしれない。
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