第55話 葉月 珠彩
2月になると、街の通信網は、ほとんど復旧していた。
一方
(
(きっと、
思いにふけり、画面を見つめる
(またオーディションのお誘いが来ている。アニメ業界も、元の活気を取り戻してきてる)
少し嬉しくなる
そして、3月。
「
「そんな
「は、はい……それで、打ち合わせとは?」
「まあ、大したことはないわ。ただ、番組をPRするために、とびきり明るく出演してほしいの。観ている人に元気を与えられればと思うわ」
「そうですね。わかりました」
「一応、台本も確認しておこうかしら? メールで送ったのは見てくださった?」
「はい」
二人は認識合わせを終え、放送の時間がやってくる。
「
メイクを整え、巫女装束でバッチリ決めた
(う……!)
スタジオには、芳香剤の匂いが充満していた。
「わーぱちぱちぱち、いやー私、
「そんなー、大袈裟ですよ。あ、皆さまこんばんは、
「いらっしゃいませー。ホント、よく来てくださいました。声優のお仕事、お忙しいのでしょう?」
「まあ、多少忙しいですけど、お仕事があるのはありがたいことですから。声優の仕事は、いつ若手の方に追い抜かれるか、わかったもんじゃありません」
「そんなことないですよー!
「はい、母と同じです」
「いやぁ、美しい! ほら、目もこんなに青く澄んで、カメラさん寄って下さい! 皆さん見えますかー?」
「恥ずかしいのでやめてください……あはは」
顔を真っ赤にしながら、口元を両手で隠す
「さて、ここからは色々と伺っていきたいのですが、何で声優になったんですか?」
「そこからですか? ふふ、単にアニメが好きだったからですよ」
「そうなんですか。意外と単純な理由ですね」
「でも、頑張れたのは、応援してくれる友達が居たからですかね」
「そうなんですかぁ」
他愛のないトークを繰り広げるうちに、話題は『ドローンドール』へと移る。
「さて、
「はい。その節はお世話になっております」
「おお、すごい営業トーク臭のする発言! お世話になっているのはこちらの方ですよ。
「そんな、滅相も無いですわ」
「これを見ているみなさん、
「あはは、お恥ずかしいですね。えっと、リーダーみたいなものです!」
「なるほど! そしてなんと、
「ええ、その節でも、大変お世話になっています。
「そう! そして、ドローンの活躍を題材にしたアニメに、
「まあ、出演は去年の10月から決まっていたんですけどね」
「コホン、そうでした! しかし、期せずしてコラボレーションが果たされたのです。
「ははは……まあそうですが、台風がなくても、いずれコラボレーションすることになっていたでしょうね」
「おおっ! いいことを言った! 素晴らしいですね、
「そんなー!」
「
「あはははっ!」
笑いの絶えない雰囲気の中、
「私、
「え? どういうことですか?」
「いえね、私、『ドローンドール』の試写会に参加したんですよ。そしたら、
「ああ、そういうことですか。お褒めに預かり光栄です」
「社交辞令じゃないですよ。本当に、教祖なんてやっているのがもったいないくらい」
「え?」
「ああ、教祖じゃなくて、神主さんですね。ですから、
「企業買収したいとおっしゃってるのですか? えっと、そんなこと急に言われても……」
「いいじゃないですか。グループ企業の総裁も、神主も、さっさと辞めてしまいましょう。宗教団体……じゃなかった。慈善事業団体も解散しちゃいましょう!」
それから数秒間、二人の会話が途切れ、気まずい空気が流れる。
「……うっ! なんですかこれ? 腐ってる? コーヒーじゃない?」
「……くくく、はははっ!
こらえきれずに笑い転げる
「しょ、醤油? な、なんでそんなものを?」
「ごめんなさい、
唖然とする
「匂いでばれないようにって、芳香剤まで使って……本当にごめんなさい! くくくくくっ、はぁ……はぁ……」
息切れした
「ブーッ!」
茶色い液体を、勢い良く噴き出した
「「ワハハハハハハ!」」
「ちょ! スタッフ! なにこれ! 何で私のまで醤油なの? しかもこれ、原液でしょ?」
「……ふふふ」
「
「ち、違いますよ! 私だって醤油飲んだんですから!」
こうして、二人とスタッフの笑いによって、スタジオは和やかな雰囲気を取り戻した。
「さて、そんな
「は、はい、そんな
「視聴者のみなさんにメッセージがあれば、どうぞ!」
「はい、ありがとうございました! では本日の『
「ありがとうございました」
「それではみなさん、さようならー」
「さようならー」
放送は予定通り終了した。スタッフにお礼を言いながら、帰り支度をする
「
「え?」
「時間、ないかしら? 行きつけのバーがあるの。二人で打ち上げをしましょう」
「ああ、そういうことですか。喜んでご一緒させていただきます」
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