第九章 星が輝くとき
第53話 天災禍
「
「う……おはようございます」
身体を起こす
「お体の方は大丈夫ですか?」
「大丈夫です。ご心配おかけしました」
「でも、お疲れでしょう。お部屋が取ってあるそうです」
そこは、
「ここは、無事だったのですね」
「はい。さすがは
にっこりと笑う工場長から、
「工場長、あなたの大切なジャケット、無くしてしまいました。申し訳ありません」
「いいえ、きっと
「いえ、私ではありません」
「あそこで、何があったのですか?」
「もう、思い出したくありません。全て忘れてしまいましょう。それと、工場で作っていたロボットのことはご内密に。ロボットの痕跡も、抹消しておいてください」
数秒の間を置いて、工場長が返事をする。
「わかりました。それでは、私は工場に戻ります。
「はい。そうさせていただきます」
「
ドサッ!
「
蚊の鳴くような声に、再び目を覚ます
「お母さま、おはようございます」
「あら、ごめんなさい。起こしてしまったわね」
それは、
「いえ、大丈夫です。お母さま、来てくださってありがとうございます」
「無事で良かったわ。富士の樹海で倒れていたんですって?」
「はい」
「何があったか知らないけど、あなたがいなくなれば、困る人がたくさんいるのよ」
「申し訳ありません」
「いなくなるといえば、あなたは人を探していたわね? そこにその人がいたの?」
「いえ」
「誰だったかしら? 確か……」
記憶を辿る
「もう、そのことはいいんです」
「どういうこと?」
「すべて忘れてしまいたいんです。お母さまも、そのまま忘れてくださいまし」
しばしの沈黙。
「そう。では、もう追求しないわ。でも、私にできることがあったら、何でも言ってね」
「ありがとうございます。少し、独りにさせてください」
「わかったわ。今はゆっくり休むのよ」
母が部屋を出ると、
「ひどい……」
台風は
「なんとかしなければ」
次の日、
「
「これから皆さまには、この国を復興させる支援活動をしていただきます。これはボランティアです。参加の可否は、みなさまの判断に委ねます。しかし、ここで立ち上がることが、みなさまのためになると、私は信じています。ボランティアに参加された方には最低限、衣食住を保証いたします。そして、この災難を完全に乗り越えた暁には、更なる御礼をお約束いたします。ここに居る方のほとんどは、
こうして、
一方その頃、
「さて、どこから手をつけたものか」
地下1階の研究室に戻った博士。彼女がパソコンの前で腕組みをしていると、とある人物が訪れた。
「
声の主は、研究室の中にずかずかと上がりこんできた。それは、セミロングの赤いくせっ毛と、鳶色の瞳が美しい女性であった。彼女は黒いブラウスに黄色のネクタイ、黒のタイトスカートに黒のストッキングを身に着け、赤いジャケットを羽織っていた。研究室の玄関には、彼女が脱いだ赤いハイヒールが転がっている。
「おや、これはこれは、お嬢様ではないですか。こんなわたくしめにどういった御用ですか?」
「『くばるーん』が動かないのよ。どういうこと? これじゃあ、救援活動もままならないじゃない」
「それには深い訳がございまして。すぐに直しますので、もう少々お待……」
ドンッ!
お嬢様と呼ばれた女性は、
「その口調、やめなさいよ。ごまかさないで、全部話してちょうだい」
「わかったよ。全く、冗談の通じないお嬢様だ。静岡にあった、『くばるーん』の制御システムが壊れてしまったんだ。
「そう。簡単には復旧できないの?」
「ああ。データセンターが崩壊したようでな。昨日まであちらに居たんだが、どうすることもできなかった」
「それはご苦労さま。そうだったのね」
「それと、もうあのシステムと同じものを作ることはできない。……
その時、お嬢様の目が、真ん丸に見開いた。
「やはり、本当に訊きたかったのはあいつのことか。すまない。きっとやつはもう戻らない」
その瞬間、お嬢様はプイっと博士に背を向け、腕組みをして少し上を見上げた。赤い髪が博士の頬を撫でる。
「あ、あんな
お嬢様は赤いジャケットの内ポケットから、四つ折りになった紙を取り出し、
「私に何かあった時は、
紙にはそれしか書いてなかった。お嬢様改め
「しょうがないから、私が会長をやってやるわよ。あんたは『くばるーん』を動かせるようにしなさい。私も次の手を考えているわ」
その声は震えていた。
「わかった。
「や、やめなさいよ! あんたが
「いや、私も
「……うぐっ」
息を詰まらせた
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