第51話 闇の中で目覚めるもの
「なんかさ、私、もうずっとこのままでいいかなって思うんだ」
私と
「は?」
私は苛立ちを匂わせた口調で返す。しかし、
「このまま
「何言ってんの?」
イラついている私に、くすくすと笑う
「
私はそう言いながら、
「甘いね」
暗闇の中でも、彼女がニコニコと微笑んでいるのがわかる。まったくこっちは気が気じゃないというのに、やっぱり少しでも動いて、出る方法を探した方がいいんじゃないか、そう考え始めた時――
「でも私、もっと甘いのを知ってるよ? 教えてあげようか?」
「ふぐっ……ううっ!」
私は息が出来なくなっていた。その代わり、私の身体には、かつてない感覚が走っていた。
「う……ぷわっ」
「はぁ……はぁ……はぁ……どう、甘いでしょ?」
気付いた時、私の口の中にはふたつの飴玉が収まっていた。私が息を吸い込むと、彼女は私の唇のかすかな隙間に、再び狙いを定めてきた。
「ん……ちゅっ……んんっ」
私の口の中で転がるふたつの飴玉、そして、私の舌を執拗に撫でまわす――そう、それは
「ん……んん~~っ!」
いつの間にか私は
「ねえ、
その時、私に降り注いでいた液体が、彼女の汗なのか唾液なのか、それとも涙なのか、それは定かではなかった。寒くも暑くも感じない。ただ、体中に快感が充満しているだけだった。
「はぁ……はぁ……」
息が上がっている。鼓動が速い。それは、宙に浮いたような感覚だった。見えないはずの
「なっ……きゃっ!」
やわらかくてしねっとりとしたものが、私の首を這っている。彼女の10本の指が、私の身体から、作業着をはぎ取って行く。
「ねえ、肌と肌で触れあった方が、あったかいんだってさ」
「
私は口でそう言いつつも、何も抵抗することができなかった。素肌に触れる空気が、
「はぅっ! ……んっ!」
「
その言葉とともに、何かが体に触れ、入り込んでくる。自分ではどこかわからない。ただ、私の身体の中心から、マグマのような熱が込み上げる。ただそれだけを感じていた。
「……!」
ドゴッ……ズゥーン……ガラガラガラ……ガシャンッ!
私はその音で、飛んでいきそうな意識を繋ぎとめた。
「
それは、
「これって、マクロボさん……?」
ステラソルナの3倍はあろうかというその巨体は、朱色の装甲に包まれていた。私を掴んでいるのはその前肢。その手はとても、優しく私を抱えていた。
「ちょっと、
「
「
しかし、その声と打撃音は、コンクリートの壁に虚しくこだまするだけだった。
ガィンッ!!
「つっ……!」
膝を痛めて一瞬うずくまる
「あれが、モルフォ……!」
「あなた、私をここにつれてきてくれたの?」
目のようなふたつのライトが数回点滅する。それはとても優しい光だった。光に照らされたモルフォには、枝のような無数の溝が、放射状に走っている。そして、中心の幹のような大きな溝に、人間がはまっているのがわかった。
「
その身体は、私の声に反応することもなく、ただ目を閉じて、モルフォに背中を預けていた。両腕は横に伸びた溝に収まっている。その姿は、十字架に
「
「
「なんですって、大変!」
「ひっ!」
ドサッ……!
彼女は
私は倒れたままの
「
私の問いに答える者はいなかった。
「きっと、私ならまた、モルフォに接続できるよね。それで、どうしたのか調べてみるよ」
私はそう言うと、
「嫌……!
カチャ……
あっさりとケーブルは抜けた。私はそれを自分の首の後ろに接続しようと試みる。
「だめーっ!」
「離せ! この! 機械なんかに、
しかし、
「
「やめてーっ!」
カチャリ、その音とともに、私の頭に情報が流れ込んできた。
「
「どういうこと? って、
私の髪は徐々に金色の光を放ち始める。横目で
「
私は真っ赤に輝いたその瞳で、
「
私がそう言うと、モルフォは唸りを上げ始める。その表面の枝のような溝に、私の瞳と同じ、赤い光が滲み出る。そして、私の口から無機質な声が響き始めた。
「ぼくの名前はモルフォ。
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