第48話 ステラソルナ
「あはは、ごめん。マクロボさんを動かせるなんて、やっぱり私の勘違いだったみたい」
完成したロボットは、私の言うことを気かなかった。
「うん。そうだよ。やっぱり、
「そいつはマクロボではないぞ? 言うなれば、『マクロボプラスアルファ・ホシノミコシスペシャル』だ。結局、足りない部品もあったから、間に合わせのつぎはぎだらけだ。ついでに、お前のために作ったんだから、
「
私は、私のために作られたマシンを見据えて呟いた。
「ぷっ、くすくす……
吹き出したのは
「それもそうだね。あははっ」
笑う私を前に、
「あっ、そうだ。いつもみたいに、
「そうか。うーん、じゃあ、
私は考えながら、冷たい装甲に手を置いた。そして、即興で思い付いた、その名を口にする。
「あなたの名前は、『ステラソルナ』。ラテン語で、星と太陽と月を合わせて『
私は掌に微かな温かみを覚える。その時、マシンの胴体を一周している溝に、ミントグリーンの光が走った。
「ふん、まったく、奇跡というのはこういうのを言うんだろうな」
目を閉じニヤリと笑った
「さあ、動いて、ステラソルナ!」
私はケーブルを首の後ろに接続する。すると、モーターが起動する音が響いた。そして、ステラソルナは6本の脚を展開する。しかし――
「おい、みんな、機体から離れるんだっ!」
「はは、みんな大袈裟だなぁ。爆発でもすると思ってるの?」
そして、ステラソルナは、記念すべき第一歩を踏み出した。
ズシーン……ドゴォッ!
工場全体を揺るがす轟音。それは、ステラソルナの前肢が、工場の2階の床を踏み抜いた音だった。
バシャーン!
ステラソルナは、真っ逆さまになって、工場の1階に落下した。浸水による水しぶきの中、背中から床にたたきつけられたのだ。
「
「ふん、うまくいったようだな! 自力で起き上がれるように設計した甲斐があった」
2階からステラソルナを見下ろす
「脚の生えた大判焼きかと思っていましたが、回転焼きだったのですね!」
「へへっ! 結構やるでしょ、この今川焼」
私もニヤリと笑みを返す。
「さて、小娘たちよ、本当にモルフォのところまで行くのか?」
「はい、今すぐにでも出ますよ」
私はハッチから顔を出しながら、2階の
「
「うむ。そいつならうまくいく。地図はストレージに記憶しておいた。迷うことはないだろう。女神よ、私のかわいいロボット、ステラソルナのことを頼んだぞ」
「はいっ」
そうして、私たちはステラソルナにめいっぱい荷物を積み込んだ。静岡への出発間際、
「すまぬ、ひとつだけ忠告させてくれ」
「なにか、あるんですか?」
「うむ、これからお前たちが向かう場所には、マクロボを組み立てるプラントもある。ないとは思うが、そこにいるやつらが誤作動を起こすかもしれん。十分気を付けるんだぞ」
「はい」
私は
「ふん、いい表情だ。しかし、その恰好で行く気なのか?」
「パイロットスーツでもあるんですか?」
私の言葉に首を横に振る、
「そんなものはないよ。だが、ここ1週間、太陽はずっと雲に遮られているのだぞ? それでは凍えてしまう」
言われてみれば、私も
「あ、ありがとうございます! って、これって……」
「ふん、女神の忘れ物、しかと返したぞ」
「もう一枚あればいいのだが……」
「
工場長が差し出したのは、無骨な軍用のジャケットだった。
「ありがとうございます」
ステラソルナのコクピットは、直径1メートルの円筒状だ。私が座った椅子の後ろに、
「博士、工場長、それでは行ってきます」
「うむ、気を付けてな」
「はい、どうかご無事で」
私はふたりを見上げて口を開いた。
「
ふたりが頷くのを見届けると、私はハッチを閉じて正面を見据えた。工場のシャッターが徐々に開いて行く。外では未だ、猛烈な嵐が吹き荒れていた。
「みなさん、
「もう、何いってるの? 私が
工場内を和やかな空気が包む。私は
「じゃあ、行こうか」
「うん」
工場の外へと踏み出すステラソルナ。その先には、雨と風が世界を削り取ってゆくような、壮絶な光景が広がっていた。
「道路はもう、冠水してるだろうね」
「うん、でもこの子なら大丈夫だよ」
私はステラソルナの6本の脚を動かし、静岡へと進んで行く。途中、完全に水没した道路では、脚を折りたたんで、ジェット水流で突き進んだ。
そして、山を越え谷を越え、私たちはモルフォが待つ、その場所へと辿り着いた。
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