第八章 きみを忘れない
第43話 覚醒と解放
「……なにもーいわーずにー……さよなーらすーるよー……きみとーであーえてー……すごくうれーしかったなー♪
……ねえ、マクロボさん、私の友達を傷つけないでよ」
それは、私の声だった。
「み、
「女神が、目覚めただと?」
私はゆっくりと目を開いた。不明瞭な視界に、当惑している二人が見える。私は、おぼろげな意識のまま尋ねた。
「私、今、友達って言いました? 私に友達なんて、いないはず」
「……っ!」
息を漏らしたのは
「あなたは誰ですか? 目、すごくきれいですね」
私はピントが合わない眼で、その瞳をじっと見つめた。
「
なぜか目を逸らし、語尾が下がる
「わかりません。でも、その声は……」
「うん、そうだよ。私は……」
「ドラゴンフルーツちゃん」
アニメのキャラクターだった。その瞬間、
「こ、声はそうだけどっ! うぐっ、私だよっ!
「ほしみや、みおりさん? ……ごめんなさい、やっぱり思い出せません」
「
その様子を唖然として眺めていた
「女神、いえ、
「あなたが、私をここに連れてきたんですか?」
「やはり、こんなことをしてはいけなかったんだ……」
私の問いに答えることなく、くずおれる
「何も思い出せません。私は何もかも、忘れてしまったのでしょうか」
私の嘆きに、
「そういえば、私、メガネはどうしたんでしょう? 大切にしていたのに」
私は椅子に縛り付けられたまま、もぞもぞと動いて、自分の身なりを確認した。私はコートを着ていた。あの冬の日の姿のまま、私はそこに拘束されていたのだ。それを見ていた
「
「これって、私の……」
次の瞬間、メガネで明瞭になった視界に映ったのは――
「みおりさん……って、
私の脳内に、次々と鮮明な記憶が蘇ってくる。
「思い出してくれたならいいんだよ。私、あなたを忘れないために、ずっとそれを持ってたんだ」
目の前が再び滲んで行く。そう、それは私の涙だった。
「
私は目を閉じる。一筋の涙が頬を伝う。すると、椅子からガチャリと音がする。私を拘束していたベルトが、一瞬にして解除されたのだ。
「
驚く
私は
「
私を見上げた
「私、夢の中で空を飛んでました。突風をこらえて、障害物を避けて、私を待ってる人に会いに行くんです。でも、私、風を起こすこともできたんです。誰かにそうしろって言われて、大きな風を起こしました。風が吹いた場所に行くと、私は羨望の眼差しで迎えられました。それが、とっても嬉しかったんです。でも、その意味がやっとわかりました」
「あの台風を起こしたのは、女神、やはりあなたが」
「そんなんじゃありません。私はただのちっぽけな人間です。でも、私がしたことは、人々の生活を破壊したんですよね」
「すまない。あなたにそんな思いをさせるつもりはなかった」
「謝ってもらっても、私がしたことは帳消しにできません。私はこの罪を、どうやって償えばいいのでしょうか?」
「ち、違う、あれは私がやったことなんだ! 私があなたや他の人たちを利用して、勝手にやったことなんだ」
「マクロボさんたちを操って、
私はしゃがんだまま横を向き、動かなくなったマクロボに、憐みの視線を投げた。
「私がすべて間違っていた」
再び俯き、後悔の涙を流す
「後戻りなんて、できなかったんですよね」
「いえ、もう、こんなことは終わりにします。それであなたは、すべてを忘れてください」
「ふあ~、良く寝た」
「んあ? ここはどこだ? 私は何を……」
「あれ、荷物が無い。落としちゃったかな?」
人工知能モルフォに接続されていた人々は皆、意識を取り戻した。
「
「ええ、安全に解除しました。だから後遺症の心配もないでしょう」
「無事は何よりなのですが、彼らの中には、配送を手伝っていた人もいたでしょう」
「そちらは自動運転に切り替えました。不測の事態がなければ、無事に荷物は送り届けられるでしょう」
「それはよかったです。さてと」
私は立ち上がり、ぐるりと辺りを見渡した。
「みなさん、おはようございます」
薄明かりの中に浮かぶ人々の顔は、やけにすっきりとしている。彼らは私に、「おはようございます」と、朗らかな挨拶を返した。
「どうですか? 具合の悪い方はいませんか?」
私の問いかけに、人々は顔を見合わせる。そして、ひとりが口を開いた。
「いえ、不思議なことに、身体がすごく軽いんですよ。僕、いつもは疲れてたんですね。はははっ」
明るい声だった。他の人たちも、笑顔でうんうんと頷く。そんな彼らとは対照的に、
「皆さま、大変申し訳ないことをしました。私はあなたたちの無意識を利用して……」
深く頭を下げる
「あ、
「
はつらつとした人々の声に、
「いえ、私はみなさんに、謝らないといけないことが……」
私は、彼の言葉を遮るように、耳打ちをした。
「
「しかし、私が何をしたかを説明すれば……」
他の人たちは、コソコソと話す私と
「そんな必要、あるんですかね? ねえ、
私は彼女に向かって、急に振り向いた。
「は、はいっ!」
しばらく蚊帳の外にいた
「みなさんを、案内してあげてよ。とりあえず、ここから出た方がいいんじゃないかな?」
「わ、わかったよ」
「いいですか?
「はい、問題ありません」
「じゃあ……」
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