第41話 葉月 真玄
プロデューサーとの約束から数日後、
「ようこそいらっしゃいました。
受付から、すんなりと会長室に通される。そこに現れたのは、黒のスーツを身に纏った、恰幅の良い男性であった。彼は黒い髪をオールバック纏め、豊かな髭を蓄えている。年の頃は
「お待ちしておりました。
「
「はっはっは! 初めてお目にかかりますが、映像で見るより綺麗ですな。さすがは現役の女優!」
「お褒めに預かり光栄です」
「いえいえ、そんなに畏まらないでください。ささ、こちらにおかけになって」
「ありがとうございます。それでは失礼して」
二人は、本革でしつらえられたソファーに、向かい合って腰を掛けた。
「さて、では早速本題に入りましょうか。業務提携をご希望とのことですが」
「はい。わたくしども、
「ほほう、それはそれは、でもどうしてそのように?」
「はい。世界には、解決すべき難題にまみれています。ライバルなどと言って争っている場合ではありません。人類の未来を共に創りましょう」
「それは大変ご立派な意見だ。しかし、お断りさせていただきます」
「なぜですか?」
「私だってあなたのいちファンだ。ご期待には添いたい。ですが、市場ではあくまで好敵手でありたいのです。その方が刺激になって、ベストを尽くせるというもの。それに、我々が提携したら、市場を独占してしまいます。それでは、その地位に胡坐をかいて、手前勝手な経営に陥る危険性がある。経営を維持するための、保守的な手を打つようになっては、よろしくないでしょう」
「確かにそうですが、私はあなた方の躍進が、性急すぎると感じているのです」
「ほほう、では、我々の監視役、我々が暴走した時の抑止力になろうと、そういう訳なのですな」
「はい。言ってはなんですが、
「はっはっは!
「私もそう考えておりました。しかし、他にも疑惑があります。
「何を言い出すかと思えば、あなたが陰謀論に踊らされる方だとは思いませんでした。わははははっ…… いや失礼。それで、他にはどんなことを知っているのですか?」
「世界中の異常気象を引き起こしてるのは
「はっはっは! ネットで妙な記事を見てしまったようですな! 心配には及びません。我々が異常気象を起こす? 神様でもないのに、そんなことできるはずがないでしょう!」
「……そうですよね。ふふふ」
一貫して冷たかった
「……ああ、私はからかわれていたのですな。ははは、これはお恥ずかしい」
「いえ、失礼いたしました。話の種になるかと思いましたが、あまりに荒唐無稽でしたね」
「はい。ですが、貧困に苦しむ方々を、もっと適切な方法で救うことはできないかと、いつも悩んでいます。偶然とはいえ、行方不明になる方がいるとは、心苦しい限りです」
「そうですか?」
「ん? どういうことですかな?」
「いえね、Qスコアが低いような、社会的に無益な人間を、生かしておく必要なんてあるのでしょうか? あなた方が、そういった無用者階級をうまく間引いてくれているんじゃないかと、期待していたんですが、当てが外れたようですね」
「間引くですって?」
「はい。社会的価値のない人間なんて、死んでも誰も困りません。むしろ、有益ですらある」
あっさりと言ってのける
「見損ないましたな。あなたはもっと人類のために考えられる方だと思っていました。こちらこそ、当てが外れてしまったようです」
「Qスコアという数値を作って、それを可視化したのはどなたですか? Qスコアが低い人間を見たら、相手にしないに決まっているでしょう?」
「違います! そのような差別的な価値観を持っている人間は有害です! それに、Qスコアが低い彼らだって、立派に役立っているのです!」
「彼ら? 役立っている? どういうことですか? 具体的に教えていただけますか?」
「いや、それは……ただ単に、売り言葉に買い言葉で、ともかく、無価値な人間などいません!」
言い訳のように口走る
「あら、ご立派ですこと。根拠もなくそんなことが言えるなんて、私には真似できませんわ」
「先程から、あなたは私をおちょくりに来たのですか?」
「違います。当然、手に手を取り合おうとしてのことです。あ、そうだ、
「ロボット? 藪から棒になんですか?」
「いえね、
「それはうらやましい限りですな。我々にもそういった技術者が協力してくだされば」
「その方々がおっしゃってますの。最近下請けで作っている部品は、組み立てれば巨大ロボットになるんじゃないかって。子供のように目を輝かせて、仕事に精を出しているんですよ」
「それでロボットですか。素敵な話ですな」
「彼らは言ってますわ。受注金額は安いけど、仕事が面白いから苦にならないって。でも、本当に高い技術を持っている彼らに、相応の報酬を与えるのが健全な社会、そう思いませんこと?」
「……確かに、そうあるべきです」
「
「いえ、思えませんが」
「
「ううむ、
「そうでしょうね。私たち
「我々だって、それくらいわかっています」
「みんなそう言うのです。でも、いずれ経済効率に飲まれてしまいますよ。そうだ、よろしければ、あなたの会社のロボット、
「ほう、それは面白い。本当のことだったらの話ですがな」
「あなたが作ろうとしているものを、私たちが白日の下に晒す。それでよろしいのですね。うちの技術者たちも喜びますわっ♪」
それまで軽妙に返していた
「……
「ええ、もちろんです」
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