第34話 忘れ物をしてきたから
(あなたが居れば、もう何もいらない……だから、私とずっと一緒に……)
目を開くと、
(これは夢? どこに向かっているの? この人たちは?)
ピンポーン♪
「次、停まりまーす」
バスの遥か前方、少し左にスポットライトが見える。その下に、バス停がぽつんと立っていた。バスはスピードを落として停車する。すると、乗客のひとり、少女が立ち上がった。少女は
「私に声をくれてありがとう。今までお世話になったね」
それは、
「じゃあ、さようなら」
別れを告げる少女に、
チャリンチャリン♪
少女は料金箱に小銭を投じて、バスを降車した。
「発車しまーす」
再びバスが走り出す。暗闇に目が慣れてきた
ピンポーン♪
「次、停まりまーす」
前方には再び、スポットライトとバス停が現れる。バスが停車すると、先程と同様に、ひとりの少女が
「はじめまして。あなたが私の魂だった方ですね。私はこれから別の方にお世話になります」
その声もまた、
「ありがとうございました。では、失礼します」
チャリンチャリン♪
少女は料金を支払って降車する。
「発車しまーす」
ピンポーン♪
「次、停まりまーす」
またしてもバスが停車する。そして、少女が
「やあ、君が私の中の人だったんだね。こうやって実際に会ってみると、お別れするのは残念かな」
「でも、しょうがないんだよ。じゃあね、バイバイ」
チャリンチャリン♪
料金を支払い、少女は降車する。
ピンポーン♪
「次、停まりまーす」
チャイムが鳴って、バスが停車する度に、キャラクターがひとりずつ、
「次、終点でーす」
バスは停車する。
「お客さん、終点ですよ。降りてください」
しかし、
「お客さん、大丈夫ですか?」
「ドラゴンフルーツちゃん……!」
解き放たれたように、
「お客さん? どうしたんですか? ふふっ、私の顔になんかついてます?」
「なぜ、あなたは私の声のままなのですか?」
すると、運転手はニッコリと微笑んで口を開いた。
「人気がないキャラクターには、後継者なんて必要ないからですよ。そんなことより、降りて下さいよ」
しかし、
「ふーむ、困りましたねえ。降りないんですか?」
運転手の言葉に、
「ここで降りると、どこに着くんですか?」
「天国ですよ。あなたは現世のしがらみから、解放されるんです」
その言葉に、
「これは他の方たちが残していった力です。これだけあれば、この先に進むこともできますが、どうします?」
「現世に戻れるということですか?」
「はい。でもこの先は、地獄と同じかもしれません。それでもいいんですか?」
「かまいません」
「このままここで降りれば、天国で幸せに暮らせるのに、なんで戻りたいんですか?」
「それは、忘れ物をしてきたからです」
「忘れ物ですか……くくくくく、あはははは! わかりました。そこまで言うなら、私にあなたを止める権利はありません」
運転手はバスを発進させた。
「さあ、行きましょう。でも、本当によかったんですね? もう、後戻りはできませんよ」
光の点はみるみる大きくなり、
「
「病院? 私、道端で倒れて……そっか」
一瞬の静寂のあと、二人分の足音が部屋に近付いてくる。
「ですから、
「わかった! 嬉しいのはわかったから、そう急かさないでくれ」
騒ぎながら部屋に入ってきたのは、先程の女性と、白衣を身に纏った、白髪交じりの壮年の男性だった。
「目が覚めたんですね。良かった」
「ほんとに、よかった!」
白衣の女性、看護師は涙を浮かべていた。胸に院長の札をつけた男性は、穏やかな笑顔で
「さて、自分が誰だかわかりますかな?」
「……
「あなたは、去年の初雪が降った日、意識不明でここに運ばれてきたのですよ」
「去年? じゃあ、今は?」
看護師が答える。
「3月です。
「3ヶ月も?」
院長は神妙な面持ちに変わった。
「はい、最初はただの過労だと、甘く見ていたのですが……」
院長が少し言葉を詰まらせると、看護師はまくし立てるように続けた。
「
看護師の言葉に、院長は重ねて口を開く。
「原因不明の昏睡状態と診断するしかありませんでした」
「私、もう
「ですが、こうして目を覚ましてくださって、安心しました」
院長は、俯き涙ぐむ看護師の肩に、優しく手を添えながら言った。
「そうだったのですね。長い間不安にさせてしまい、申し訳ありません」
「とんでもない! 私はあなたのような人を救うために、この仕事をしているのですから」
「そうです。それが私たちの仕事です!」
院長のあとに続いた看護師は、誇らしげに言い切った。
「ありがとうございます……くっ!」
「ど、どうして……」
「無理はいけません。長期間眠っていたから筋力が衰えて、身体の動かし方を忘れてしまっているだけです。落ち着いて、体力を取り戻していきましょう」
「私も、お手伝いいたします。がんばりましょう」
院長と看護師は、柔和な笑みで
「
「いえ、その節は力及ばず。申し訳ありません」
「謝らないでください。祖父はあなたのお陰で、安らかに眠ることができました。お礼を言わせてください。ありがとうございます」
「もったいないお言葉です」
二人は互いの感謝の言葉を噛み締めた。そして、看護師は気を取り直して声を上げた。
「えっと、では、意識が戻ったということで、まずは軽い検査を……」
院長と看護師から、簡単な質問を受ける
そして、
「「
「お父さま、お母さま、すみません。こんなことになるなんて」
「いや、私の方こそすまない。私が
「
ふたりは思い思いの言葉を口にしていた。
「
「
「そうですか、それはよかったです」
神主代行として働く父と、声優、
それから
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