第28話 進路
「ねえ、ヒカ……
それは、かつて
「
「え? どうやってって、勉強したんですけど……」
「へえ、カンニングしてたわけじゃないんだ」
「そ、そんなことできませんっ!
「
リカさんの問いに、私は少し顔を引きつらせて答える。
「はい、仲良くしてもらってます」
「そっか、だから
「なるほどね」
「ああ、それは……」
心当たりがあった。私が言葉に詰まっていると、ヨーコさんが詰め寄って来る。
「ふーん、やっぱりそうなんだね」
「ええっと……」
「そんな頭良さそうなメガネかけちゃってさ。いい気なもんだよ」
「ああ、これは
「また
「ええ? 見せるんですか?」
「いいからさ」
リカさんの指が私のメガネのレンズに触れた。その時、ふたりの後ろから人影が迫ってくる。
「何してるんですか? リカさん、ヨーコさん」
「
「
「……! リカさん、その手を放してください!」
「えっ?」
リカさんがそう言った瞬間、彼女の手首は、
「いてててっ!」
「
「ふざけないでください。二人とも、
「
「何も聞きたくありません。私の目の前から消えてください」
「な、なんだよぉ、
「ねえ、
しかし、
「
「う、うん、
「あのふたり、
「メガネクロス、持ってるんだ」
「うん、こんなこともあろうかとね」
「あ、ありがとう。でもさ、私、何もされてないよ? それに、私が
「迷惑?」
「あの、
「そんなこと、言わなくていいんだよ。それよりさ、
「そ、そうなの?」
「うん、だから、私は
「敵意……やっぱり成績のせいかな。でもそんな、守るなんて大袈裟だよ」
「だって、さっきの
「それは突然のことで、びっくりして」
「そう? でも、メガネのレンズを触るなんて、あり得ないじゃない」
「うーん、確かにそうだけど、メガネをかけてない人にとってはそんなものかなって」
「ううん、きっとわざとだよ。もう、
「もー、過保護だなあ。過保護な御前様、
「そうだね。
こうして、私と
そして、高校二年へと進級した私たちは、始業式の日、通学路で顔を合わせた。
「おはよう、
「あ、
私と
「桜、満開だね」
「うん、ほっぷ♪ すきっぷ♪ あっぷ♪ すぷりんぐぅ♪ って感じだね」
「あはは、よくわからないけど、そうだね」
「えー、この歌も知らないかー。だいじななかま♪ たいせつなきみ♪ であいとはまるで、さ、く、ら♪ って」
「相変わらず歌、上手だね。そうだ、そろそろ私のために歌ってくれる気になった?」
「ああ、それだけどね、私も、
「えっ、ほんと? やったーっ!
「あはは、まあ受験次第だけどね」
「
「
「あはは、そんな風に見える? もっと謙虚にならないとなぁ」
「そっかー、私、
話は変わるけどさ、私、今すごく怖いんだ」
「え? 何が?」
「いや、二年生になるじゃない? そしたら、
「うーん、大丈夫だよ、同じクラスになれるよ」
「そうかな~? もし、違うクラスになったら、教室の壁ブチ抜いて、物理的に
「あはははははっ! 何それ、やっぱり
「へへんっ! それくらい、私にとっては深刻な問題なんだよ」
「大丈夫、クラスが別になっても、私は
「もう、そーいうことじゃなくてっ!」
「あはははっ!」
結局、私たちは同じクラスになった。私たちはテストで高得点を取り続け、ランキング上位の常連となっていた。私の点数はいつも
そして、受験の季節。私たちは約束通り、同じ大学を受験した。その結果は――
「
「……」
合格発表の帰り道、私は無言で
「
「
「でも、私だけ合格しちゃうなんて……」
「おめでとう。それはいいことでしょ?
「そんな……」
「ふふっ、何? 私が落ちたのは私の実力不足。それだけのことだよ」
「でも、私が誘ったのに……」
「私があの学校を受験したのも、私の意思。
それを聴いた
「そんなこと言って欲しいんじゃない!」
私は、
「あはは、ごめん。
「資格のあるなしじゃないでしょ!」
「いや、それがさ、私には資格が無いってわかったんだよ。面接の待合室でね」
「どういうこと?」
「座って呼ばれるのを待ってたらさ、周りの人が気になってね。みんな、必死だってわかったんだ。ここで受からなきゃ後がないみたいな、そんな鬼気迫る表情をしてたんだ」
「え……?」
「私は
「他の人なんて、関係ないじゃない! なんでそこで諦めちゃうんだよ!」
「諦めたわけじゃないよ。私は周りの人を押しのけてまで合格なんてしたくないと思った。その時点で、私には合格する資格なんてなかったんだ」
「それとこれとは話が違うでしょ!」
「違わない。私はそんなことで怖気づく、ただの臆病者なんだよ」
「違うよ! それは、
「優しい? 私が?」
「うん。
「そっか、
「また、愛想笑いと言葉遊びに逃げるんだね」
「逃げてるわけじゃない。私は本当にそう思ってる。私が合格して喜んでたら、頑張ったけど合格できなかった人の目にどう映るか、そう考えると怖いんだ。頑張ってる人の敵意が私に向いたらと思うと、怖いんだ。だから、私は自分に甘いだけ。自分かわいさに、他人を刺激しないようにしてるだけ」
「そんなっ! 違うよ! それは
「ありがと。そう言ってくれるのは、
「私、あの学校には行かないからね。
「それはダメだよ。独り立ちして、声優になるって決めたんでしょ? せっかく合格したのにもったいないよ」
「
「それは凝り固まった考え方だよ。別に同じ大学に行かなくたって、
「ほんとに?」
「うん。だから、私のことは気にせず、
「……」
「返事は?」
「……うん」
こうして、私と
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます